怒りの矛先 |
作者: 來瑠(らいる) [Home] 2008年05月19日(月) 22時02分31秒公開 ID:5Se0pJg4uWE |
「ばかやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」 夕日がのぼる土手で俺は大声をあげた。 どうして。 どうして。 どうしてどうしてどうしてどうして。 ・・・・。 ・・・・。 ・・・・。 ・・・・? ・・・・あれ? 「・・・・俺、誰に怒ってたんだっけ?」 怒りの矛先 思い出せない。 まじで思い出せない。 自分は≪誰≫に≪どうして≫怒っていたのか。 (うーん・・・。) まず今日一日のことを思い返す。 出かけに母親から部屋が汚いと怒られた。 ついでにテストの点が悪いことも怒られた。 (でも、それくらいならよくあることだしな・・・。) 学校は5分遅刻した。 そうしたら、教師から1時間説教くらった。 (だからって、ばかやろおおって叫ぶほどのことでもないよな・・・・。) あとは、友達が貸していた漫画をどこかに落としたといわれた。 (でも、あれはちゃんと弁償してくれるって言ってたし。 それに元々中古で買ったやつだから、弁償なんてしなくていいって俺から言ったくらいだし。) 他にはあれだ、 他にはこれだ・・・・・・。 1時間後。 「・・・だめだ。」 自分がいかに不運かということがわかっただけで、 ぜんぜん思い出せない。 「あんなに怒ってたのに・・・・。」 なんで思い出せないんだ!!!! 拳を握って、地面をたたく。 草がクッションとなって、痛みはなく、 拳に草の間にあった泥がついただけだった。 「ああああ、むしゃくしゃするーーー・・・・。」 家族に対しても、教師に対しても、友達に対しても、 近所のおばさんに対しても、親戚に対しても、 それなりの怒りは抱えているけれど、 まだぜんぜん許容範囲・・・・ごめんといわれたら、笑って許せる範囲だ。 (俺、誰に怒ってるんだよぉ・・・・・・。) 頭をかきむしる。 (ここまで出かかってるんだよなぁ・・・・。) ああ、もどかしい。 土手に寝転がって、くるくると回ってみる。 草がサワサワと泣いた。 と。 「・・・・祐一。お前、こんなところで何やってるんだ?」 「ぁ、聡・・・・。」 呆れ顔のクラスメイトが一名。 「ハァ?何かに怒ってるんだけど、 誰に何で怒ってるのかが分からない?」 事情を話すと、聡はさっき異常に呆れた表情を浮かべた。 「なんだよ、悪いかよー。さっきから思い出せなくてもどかしいんだよぉぉぉぉ。」 「だからって、そんなんでお前1時間以上ここにいるわけ?」 悪いかよぉ、と俺は聡に食いつく。 悪くはないけど、と聡は頭を抱える。 「なんか、どうしてもむかついていたのに、忘れちまったんだもん。」 ああ、いらいらする。 「それって大したことじゃないんじゃねーの?」 俺は首を横に振る。 「それはない。だから、もやもやするんだよ。」 ただ、その怒りの矛先を見失った。 体の中で怒りが蠢いてて気持ち悪い。 「うーん・・・・誰に怒る、か。 手がかりないと考えようがねーしなぁ・・・。 少なくとも、別に四六時中見てたわけじゃねーから分かんねーけど、 今日、学校でお前、対して変わった様子なかったしなぁ・・・・。」 なんだかんだ言って、聡も真剣に考えてくれている。 まったく、いい奴だ。 「お前、家ではどうなの?」 「いや・・・・いつもどおり、怒られたりはするけど、いつものことだからなぁ・・・。 うーん・・・・。」 聡もうーん、と腕を抱える。 本当に俺は一体誰に怒っているのだろう。 「なんというか、この世で一番嫌いな奴に嫌なことされてる気分なんだよなぁ・・・。」 なのに、叫んだ衝撃で忘却の彼方に怒りの矛先を追いやってしまった。 「お前、この世で一番嫌いな奴って誰?」 「分かんねぇ。」 その質問は案外難しい。 嫌いな奴はいるけれど、それがこの世で一番かどうかは、分からない。 「それに俺、基本的に嫌いな奴とは関わらないからなぁ・・・・。」 「だよなぁ・・・。お前ってそういう奴だよなぁ・・・。」 2人して腕を組む。 それにしても、本当に思い出せない。 どうしてだ? どうでもいい怒りじゃなかった。 本当にむかついたんだ。 本当に愛想がつきたんだ。 なのに、忘れるとか・・・・。 「俺、なんて馬鹿なんだろ・・・・・・・。」 ん? んん? 「あ。」 「・・・どうした?」 俺はすくっと立ち上がったのに、聡は首をひねる。 「・・・・思い出したんだよ。誰が、馬鹿か。」 「まさか・・・・。」 聡の、今までにないほど、呆れた顔。 「俺だよ、俺。 俺、自分に怒ってるんだった。 部屋も汚くて、勉強もできなくて、遅刻して怒られる情けない奴で、 貸した漫画汚されても、『え、弁償?いいよ、いいよ。』とか愛想笑い浮かべてさ、 『は?お前何人が貸したモン汚してんだよっ』って思ってるクセに、 ぜんぜん何も言えない自分にぶちギレてたんだよっ。 あー、すっきりした、帰ろ帰ろ。ん?聡、まだ帰らねーの? 遅くなると母さんとかに怒られるぜー。 まぁ、いいや、じゃーなー。また明日。」 俺はさっさと帰り支度をはじめて、 聡をおいて家へと帰った。 ・・・・。 ・・・・。 ・・・・。 「・・・俺は今、お前に使った無駄な時間を返せと怒りたい気分だよ。」 一人取り残された土手で、 聡は一人、ばかやろぉぉぉぉぉ、と叫んだとか、叫ばなかったとか。 |
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