己が往く場所
作者: 清嵐青梨   2008年06月15日(日) 01時21分31秒公開   ID:L6pfEASBmTs


























ちらり、ちらりと街路樹の間の電燈が次々と点し始める。その瞬間を一つ一つ見詰め乍ら約束の時が来るのを待っている。


そもそも自分はなんの為に此処を指定したのだろうか、自分でもさっぱり分からない。
ただ、待ち合わせを講じた彼の口から出た言葉を聞いて此処にしようと決めたのだ。今更場所を変えようだなんて言い出したら、きっと怒鳴られるに違いない。




はぁ、と溜息を零すと下を見て、再び上を見上げると一つの電燈が点っていないことに気付く。多分もう直ぐ寿命が来るのだろう、僅かに弾けている火花がばちばちと鳴っている。
それを見て、俺はその電燈に近寄り手を伸ばすようにそれに向けると指をパチンと軽く鳴らす。


指先から小さな雷が火花を散って電燈の方へ向かう。パリンと覆っていた硝子が割れ、蛍光灯の中へ潜りこむようにその空間に溶け込んだ瞬間、さっきまで弾けていた火花が何時の間にか止んで、他の電燈と同じパァッと明るい光りが宿り始めた。
割れた硝子の破片が光りに反射しきらきらと輝きを放ち乍ら降って来る。此方にも降ってきたのでその破片を払いのける。
腕を下ろしパンパンと手を叩いたら、後ろでパンパンと拍手する音が聞こえた。




「いやぁ〜お見事さん。流石勇輝やなぁ、さっきまで瀕死状態やった電燈が復活してしもた」

「…来るの遅いぞ陵牙。今何時だと思ってンだ」




今八時半を超えているんだぞ、とさっき来た彼――待ち合わせを講じた張本人・佐野陵牙――に向けて言うと、彼は呆れた声ではは…と言う。




「電車が遅れてしもたんや仕方ない。で、隼人と大地たち来てへんけど…ええのか?」

「別に良いよ。隼人が着たら何やかんや煩いし、飛馬たちが着たら怒鳴られるだけだし」

「それはせやけど…彼奴等に内緒で勝手に行動しても良いんかな…」

「嫌なら俺一人で殺るけど?」

「それだけは堪忍。俺は仲間一人放って置くわけには行かない性質なんでな」




こうなったらとことん付き合ってやるで、と陵牙は自信有り気に言いコートのポケットから白い拳銃――彼はこの拳銃を“アイリ”と呼んでいる――を出し、最終調整をしだす。


本当に付き合う気満々だな…俺はその様子を見てふぅ、と安心したような息を吐くと振り向いて彼の姿を確認する。何時も着ている砂色のコートの下に彼が通っている学校の制服を着ている。何時もならスーツのズボンにワイシャツにネクタイというラフな恰好で来る筈が、今回はスタイルが一変している。




「陵牙…今日は何時ものスタイルじゃないんだな」

「ん?あぁ、たまには制服で行動するのも悪くはないかなーっと思ってな。学校から帰った後着替えなかった」

「せめて身嗜みを整えてから来いよ。髪の毛ぐしゃぐしゃになっているぞ」

「げ。マジで?」




そう言い、陵牙は最終調整を終えたアイリを再びコートのポケットに仕舞いこむと自分の髪の毛を整え直し始めた。


こうして見ると一見普通の高校二年生に見えるな、というのが俺から見た印象である。いや、初めて出会った時もそうである。学年が一緒で、然も「GAME」を始めて3ヶ月の青年が「GAME」の空間に溶け込み、一人で行動をし殺るのが意外だった。


品定め、としてお相手した時といい隣町の廃工場での再バトルといい、彼は段々成長している…ように見える。俺より半歩先を進んでいるように見えるのだ。その後ろは当然俺……黒羽勇輝。




俺も段々弱ってしまったようだな、そう思ったら一寸だけ可笑しくなったので吹き出したら、髪の毛を整え終えた陵牙が此方を振り向いてきょとんとした表情で俺を見た。




「何笑っとるねん」

「いや…何でもない」




忘れてくれ、と一言突き放すと被っている筒の帽子をもう一度被り直すと三度上を見上げた。
瀕死状態だった電燈は今となっては他の電燈と一緒となって光りを放ち続けていたら一羽の小さな蛾がその電燈に近寄る姿が視界に映る。


蛾の羽が電燈に触れた瞬間バチッと激しい音がし、さっきまで元気に飛んでいた蛾が黒こげとなって落ちていく姿が視界に映しだす。




こうして、人は蛾のように黒こげになり死んで行くのか…。
人の命もこの蛾の命と同じようになんだか呆気ない…そんな気持ちが胸の中で感じてきた。




「…あとで弔ってやらへんとな。天国に行かへんやろ」

「…そうだな」




人がいつも向かっていく、違う天国へ。




その天国に向かうのは、果たしてどちらだろうか。


俺か陵牙か、それとも他のメンバーか…。





でも、若しどちらでもなかったら向かう先は…天国とはとても遠い、暗い暗い地獄の谷か。


それとも、天国と地獄の狭間に薄らと存在する極楽か。














どちらにしろ、俺達が向かうのは極楽でも地獄でも天国でもない。





この……明るく染め上がっている東京を覆っている暗い空の果て。
■作者からのメッセージ
久しぶりの投稿となりました清嵐です。
今回は久しぶりのオリジナルになりました、多分今後はオリジナル一直線で行くかなーっと。
簡単なコメントで失礼しました。それではまたいつか。

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