〜セピア色の手紙〜 前編 |
作者: 神田 凪 2008年06月27日(金) 20時59分35秒公開 ID:Fpk3UqE6X6I |
ごめんなさい それでも、私を、 わたしを――・・・ 〜 セピア色の手紙 〜 「話が・・・あるんだ」 結婚式前日、彼は、私を、真っ直ぐ見て、そう言った。 「何、どうしたの?」 なぜか真剣味の彼の姿に、思わず声が震えた。 「こんな話・・・君に聞かせるべきではないかもしれない。でも・・・聞いて欲しいんだ」 そこで彼は私を見た。 何故だか私は気付いたら頷いていた。何を話すのか聞くのが怖い。 それでも、聞かなくてはならない気がしたのだ。 私が頷いたのを確認してから、彼はそっと右手を私の目の前に持ってきた。 いや、正確には右手に持っているモノをだ。 そこにあったのは・・・ 「てがみ・・・?」 淡い色の封筒。何回も開けては読んだのか、ボロボロだった。 恐る恐る、それを受け取りゆっくりと中の手紙を出して、開いた。 ――ごめんなさい 手紙の初めには、そう書かれ続いていた。 彼は少し躊躇った後、口を開いた。 「俺には忘れてはいけない人がいる」 □ ■ 当時、俺は大学に入って二年が経っており、新しい生活にも慣れてきていた。 新しい発見というものもだんだんと無くなってきており、少しずつ退屈な日々に飽きてきていた。 もっと面白いことはないのか、何か起きないのか・・・そんな事ばかり願っていたのだ。 そんな時、『彼女』に出逢った。 大学内にある、小さな広場。日当たりが良くないせいか、あまり人が来なかった。 俺がなぜそんな所にいたかと言えば、なんてことはない教授に言われて教材を運んだ帰りだった。 彼女は、白いベンチに腰掛け・・・ 笑うように泣いていたのだ。 □ ■ ――あなたの幸せを願えない私でごめんなさい 彼と・・・この手紙を書いたであろう『彼女』との出逢いの話を聞き、それから彼と『彼女』が付き合うまでの経緯を淡々と短く彼は語った。 私はそれを黙って聞いていた。いや、何も言えなかった。まさか、聞かせたい話がこんな内容だとは思わなかったから。 ――我が儘ばかりでごめんなさい 手紙で『彼女』はたくさんたくさん謝っていた。 なぜ、『彼女』はこんなにも謝っているのか なぜ、彼は『彼女』のことを忘れてはいけないのか それはまだ分からない。 だから、 今、手に持っているこのボロボロの手紙がすごく・・・重かった。 □ ■ 付き合って半年が経った。あの出逢いから気になって、話して、好きになって、付き合って・・・毎日が色が変わったみたいにきらきらしていた。 彼女の笑顔が大好きだった。 楽しかった。幸せだった。 だけど、ある日を境に彼女は大学に来なくなった。 俺は、彼女の友達に聞いて、急いで彼女のいる場所へ向かった。 そして、そこで・・・俺が見たのは 「真っ白い病室の中で・・・沢山の機械に体を繋がれた彼女の姿だった」 |
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