#学園HERO# 0話 |
作者: 神田 凪 2008年09月13日(土) 17時03分13秒公開 ID:Fpk3UqE6X6I |
世界は誰のために在るのか。 誰が世界のために在るのか。 答えは誰も知らない。 だから、 模範解答として、【 俺 】ということにしておく。 学園HERO - story 0 - ヒーロー登場。 そこはまさしく世界だった。 中世ヨーロッパを思わせる華やかな建物。美しくシンプルだけど、記憶に残るたくさんの花々。 そんな建物の中で過ごすのは、まだ幼さが残る子供達。一目見て高いだろうとすぐ分かる同じ服装をしていることから、ここが学校なのだと知らせる。 明らかに育ちが良いお嬢様にお坊ちゃんばかりだと誰もが思う。 その通り。ここは、古閑学園。 名門として世に知られ、権力者達の子供が多く通う学校である。卒業後、それぞれが家を継ぐことが決まっている子供達はここで多くの縁をつくろうと必死だった。 ここは小さいながらも見事に世界を表していた。 権力が強い家の子供は優遇され、少しでも下の者は上の者へ巻かれようとひれ伏す。子供だからという言葉は許されない。ここはまさしく世界。自分が為すべき事は誰もが知っている。いや、知らされた。 自分の立場と、自分の為すべき事。それは、更に上へと高みを望む深い欲求。 学園は常に閉鎖空間だった。 外で問題を起こさないよう全寮制だったせいか、不満は常に中へとあてられる。だが、それが表へ出ることは滅多にない。いかにそれをもみ消す事ができる権力者たちの子供が通っているか痛感する。だから、生徒も教師も“上”の者へは逆らえない。 それが アタリマエ だった。 ■ □ チャイムが鳴る。その音は電子音ではなく、本物の鐘の音。どんな所にも多くの金が使われる。 その鐘の音は、学園中に響き渡る。 人目につかない校舎裏にも。 「がっ・・・!?」 小さく唸る声。鈍い音。数人の笑い声。 何が起きているのか、そんなの考えるまでもない。 「お、ゆるし、くださぃ・・・」 ヒュー、と呼吸の音が途切れ途切れに聞こえる。上等な制服が土で汚れ、髪も顔もぐちゃぐちゃ。蹴られたのか腹を手で押さえ、それでも彼は必死に声を出す。このままでは、『家』が危ない。自分の心配より、家の繁栄を考える。自分はあの家を更に高める義務がある。そのために今まで高度な教育を受けてきた。だが、それが今、壊れようとしている。 「っく、今更何を言っても遅いよ」 暴力行為をしていた数人の後ろにまるで王のように立っていた少年は、倒れ込んでいる彼を見下し笑った。それにつられ周りの者もにやつく。 きっかけは何だったか。あまりの痛みに頭が回らないせいか、思い出せない。ただ、些細なことだったのだ。それが少年の気に障り、切られてしまった。縁、を。繋ぐまではたくさんの労力を費やしたのに、切られるのは本当に一瞬だった。 「 やれ 」 それはまるで判決を受けたかのようだった。その一言で、止まっていた行為が再開されようとしていた。殺されはしない。だけど、もう終わりだ。それは今まで何人も見てきたからこそ分かる。“上”の者へ逆らった者たちの哀れな最後。 来るであろう痛みに備え、思わず目をつむった。 「あーあ、」 場違いな声だった。その声色は楽しそうな、落胆したような、複雑な感情を秘めていて・・・。 「誰だ!?」 少年が叫ぶ。だが、焦ってはいなかった。例え、誰に見られても少年の地位がそれを黙らせることが出来るから。 彼は閉じていた瞳をおそるおそる開く。痛い、痛い、今にも気を失いそうだったが気力でそれを耐える。 だが、すぐにそれが無駄になりそうだった。 「は!?」 少年も同じだったようだ。周りのものたちも何とも言えない顔をしていた。視線の先には、窓の縁に腰掛けこちらを見る人物の姿。 同じ制服から、その人物が生徒であり男であることが分かる。だが、決定的に違ったものがあった。 それは・・・ 「ウ、ウルト○マン・・・?」 顔に仮面を付けていた。よくお祭りの屋台で見かけるだろう、数百円で買えるそれだった。金持ちの彼らがなぜウル○ラマンを知っているのか、まぁ彼らも夢見る子供の時があったのだ(今でも子供だが) 「貴様、ふざけているのか」 少年の声が低くなる。それに顔を青くしたのは周りの彼ら。“上”の者を怒らすということを彼らは身をもって知っている。 「まさか」 表情は見えない。だが、笑っていることは分かる。そう言うと仮面の男はこちらに顔を向けた。 気のせいかもしれないが、目があった気がした。男は窓の縁から降り、ゆっくりと近づいてくる。思わず少年とその取り巻きは一歩下がる。 「・・・何の用だ? まさか、こいつを助けようなんて思っているんじゃないだろうな」 それこそまさかだ。誰が好きこのんで“上”に逆らおうとするだろう。しかもこの学園の者ならなおさらだ。ここは力がすべて。この少年も警察関係者が身内にうじゃうじゃいる家柄の持ち主だった。つまり、こんな行為の証拠など簡単に消せるのだ。 だが男は歩みを止めない。ゆっくり、ゆっくり近づく。 「うん。そうだけど?」 その直後取り巻きの一人が倒れた。いや、倒された。仮面の男によって。 素速く隣にいた奴に鋭い蹴りをだす。一人、また一人と地面にうずくまる。苦しそうなうめき声がその場に響く。 残ったのは少年一人。 「待たせたね。次は、君の番」 男の言葉に微かに少年は震えた。が、すぐに笑みに変わる。 「お前、こんなことしてタダで済むと思うなよ? 俺の家を知らないとは言わせない。お前の家なんて簡単に・・・!!」 その言葉が最後まで紡がれることはなかった。男は何も躊躇いもなく少年の腹に一発蹴りを入れた。少年は予想もしなかった攻撃に、痛みに、呼吸がうまく出来ないようだ。 「はい、終わり」 それを眺めていた男だったが、すぐに興味が薄れたのかくるっと背を向けた。スタスタと歩いていく。 このままだと行ってしまう!! 「まって、くれ!!」 今出せる最大限の声で叫ぶ。聞き取れたのか、ピタリと歩みが止まる。 「あ、その・・・ありがと」 男は振り向かない。それでも彼は繰り返し、お礼を言う。 「あ、君は一体・・・!?」 そこで一番の疑問を問う。“上”へ逆らうこの男は一体何者なんだ? もしこの事がばれたら、家が潰されるだけでは済まないだろう。家族が親族がみんなが路頭に迷い、決して幸せにはなれない。これは大げさことではない。それを実行できる家柄の者たちがこの学園には存在しているのだ。現にそこで苦しんでいる少年もその一人だ。 そこで男はようやく振り向いた。顔には変わらず仮面をつけたまま。 「ヒーロー、だよ」 |
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