アリスたちの物語―森ニ入ッテハイケマセン― |
作者: ユミ 2008年10月01日(水) 15時34分31秒公開 ID:AWVzgvjC/3k |
・・・眠れないのかい? しょうがない子だねぇ。 それじゃあ、お話をしてあげよう。 暗くて悲しい女の子の話をね―――。 ―森ニ入ッテハイケマセン― ある森に、1人の女の子が住んでいました。 名前はアリスといいます。 アリスはいつもひとりぼっち。 生まれたときから森にいるけれど、臆病なので外に出ることはできませんでしたし、 森にも鳥やリスなんかの動物たちは住んでいましたが、誰もアリスの友達にはなってくれませんでした。 そんなアリスでしたが、ある日久しぶりに人間の男の子を発見しました。 男の子は、なにやら赤い実をいくつかとって帰っていきます。 ドクン・・・ドクン・・・。 アリスは自分の心臓の音がこんなにも大きく、そして速く鳴るものなのだと初めて知りました。 それからというもの、男の子は毎日赤い実をとりに森にやってきました。 しかしアリスは、それを木の陰から見ているだけでした。 そして何ヵ月か経ちましたが、臆病なアリスは男の子に話し掛けることができません。 男の子に話し掛けたい――。 友達になりたい―――。 そんな想いが日に日につのり、アリスは臆病な自分を恨みました。 そしてそんなある日、アリスはあることに気がつきました。 あの赤い実は一体何だろう――? 男の子がとっていった後、残った実を見つめて考えました。 自分が食べたことのない、赤くて少し大きな実・・・・・・。 あの男の子もこの実を食べているんだろうか。 アリスは食べてみたいと思いましたが、ここでも臆病な性格が災いしてしまいました。 もし毒が入ってたら・・・。 食べて死んじゃったら・・・。 そんな考えがアリスの頭をよぎります。 しかし、そんなアリスの背中を押してくれる者が現れました。 その実を食べたら男の子に少しでも近づけるかもしれないよ―――。 おいしいよ。僕も食べたことがある―――。 そうアリスに言ってくれたのは、ヘビさんでした。 ―――ヘビさん、ありがとう。 ヘビさんに背中を押されたアリスは、その赤い実にかじりつきました。 臆病なアリスに別れを告げて。 あの男の子と友達になりたい一心で。 口の中に広がっていく甘酸っぱい味―――。 それと共に、アリスは知ってしまいました。 アリスが食べたのは、知恵の実でした。 そして、アリスは知ってしまったのです。 アリスが、 人間ではなかったということを。 アリスの心は、悲しみでいっぱいになりました。 なにしろ、人間とは程遠い、醜い醜い姿――。 自分は人間じゃない。 友達なんてできるはずがなかった。 男の子に話し掛けることなんて―――。 人間は、いえ、人間じゃなくても、嘆きすぎるとおかしくなってしまうものです。 臆病な私に、別れを告げたじゃない―――。 あの男の子と友達になるって決めたじゃない―――。 アリスは決めました。 男の子と友達になることができないのなら、 いっそのこと私のものにしてしまおう。 ――食べてしまおう。 そう決めたのです。 早速アリスは次の日男の子がやってくると、目の前に立ちはだかりました。 男の子の目が大きく見開かれます。 ・・・ずっと、一緒に・・・いようね・・・・・・。 そう呟いたアリスは男の子に襲い掛かり、ムシャムシャと食べてしまいました。 アリスの目からは、謎の液体が溢れ出ていました。 知恵の実を食べたのに、アリスはこの液体の正体を知りませんでした。 液体を溢れさせたまま、アリスは思います。 もしかして、このまま人間を食べていったら、私も人間になれるんじゃないかしら・・・。 それからというもの、アリスは森に来る人々を襲って食べるようになりました。 そして、努力の甲斐あって、アリスは人間の女の子になりました。 ふわふわの髪の毛に白雪のような頬。 うすいピンクのワンピースは可愛らしく、女の子らしい服装。 誰から見ても文句なしの、愛らしい姿の女の子。 しかし、アリスは森から出ることができませんでした。 もし、元の姿に戻ってしまって嫌われたらどうしよう―――。 臆病なアリスが、ここにきて戻ってきてしまったようです。 しかし、そんなアリスにも1つだけ成長したことがあります。 森に入った人に、話し掛けることができるようになったのです。 ・・・おや、なんだいそんな顔して。 怖くて眠れなくなったのかい? 本当にしょうがない子だねぇ。 それじゃ、もうこれで最後だからね。 聞いたらさっさと寝るんだよ。 ―――あそこに森が見えるかい。 あそこに入っちゃダメだよ。絶対に。 なんでかって?・・・知りたいのかい。 ・・・いいかい。森に入ったら、運が悪いとアリスに出会っちまうからだよ。 アリスは不運なお前さんにこう言うんだ。 ――お友達に・・・なりませんか? ・・・ってね。 はいと答えたら一生森の中だし、 いいえと答えたら食われちまうんだ。 人間の肉は美味しいらしいからねぇ・・・。 ・・・なんだいその顔は。 安心しな、あたしはあんたをとって食べやしないよ。 まぁ、どうしても行きたかったら行くんだね。 すぐそこにあるんだし。 アリスなんていないと思うのなら行ってみるといい。 あんたがよほどの幸運の持ち主だとしても・・・ そうだね、林檎の木の下で2日も待ってれば来るんじゃないかい? ・・・ま、あたしからも最後にもう1度だけ忠告しておくよ。 ―森ニ入ッテハイケマセン― |
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