無色の夢 一章 |
作者: クロノス 2008年11月15日(土) 21時16分13秒公開 ID:obZo2wm8mmE |
変わらないものを望むなんて、何と愚かなことだろう。 笑わずにいられない。 そう思うと、いつのまにか笑んでいた。 病んでいる。 あぁ、私もそう思うさ。 狂ったように願う人間を、こんなにも愛しているのだから。 「店主様、お客のようですよ」 襖が開く音がして、一人の男が顔を覗かせた。 男というにはまだ若すぎる少年だ。 金色に近い茶色の髪と、白磁のように白い肌に、マネキンじみた美しい顔。 「あぁ、人かい、それともアヤカシかい?」 そう聞いたのは、窓の枠に腰掛けていた男だった。 純粋な漆黒の髪に、同じく漆黒の瞳の、病的なほど白い肌を持った男だ。 「わかんない。でも、願いが強すぎて、気分が悪い」 少年の言葉に、男はニッコリと笑った。 「あぁ、それは人間だね。アヤカシは、欲を持たないものだから」 人ほど罪深く、欲を欲する生き物は、この世には存在しないだろう。 何と儚く、欲深で、罪深いのだろう。 「店主様の、大好きな人間なのですか?」 そう、私の愛しいものたち。 神に願わずにはいられない、愚かなものたち。 「ご用件は?」 客は、『店主様』と呼ばれた男と同じぐらいの年齢の男だった。 「ここは、何だ?」 男は、抑揚のない声で、そう言った。 「何だと言われましてもねえ。ここは、店ですよ。願いを『言う』店ですよ」 そう。 願いを『言う』店。 願いを『言霊』にのせるそれは、この店が、この店であるゆえん。 「願いが、あるのでしょう」 そう。それは、言葉によっていできている。 言葉は、詞であるから、詞には人の思いがこもる。 「俺は・・・・・・・・・失いたくない」 客である男はそう言った。 浅黒い肌に、短い髪のその男の言葉に、『店主様』と呼ばれた男は、作り物じみた笑顔で言う。 詞は絶対だから、一度言ったことは消せない事実。 たとえ全ての人が忘れても、その者がいったことには変わりなく、人は全ての願いを口に出す。 口に出さずにはいられない。 あぁ、私の愛しい人間は、何と愚かで、頼もしいものか。 私が飽きることなど、永遠に来ないかのような、一時のまどろみ。 夢でも、現でも、人は人で、 何者よりも、変化を望んでいる。 「俺は、氏矢薫」 客の男、薫はそれだけ言うと、店を出て行った。 「私は、クロとお呼びください」 『店主様』はクロと名乗った。 薫の名前は本名だろう。 店を出る前に言った、『店主様』の名前は、偽りだろう。 それでも、この二人の縁は、出会ったことでつながって、話したことで、事実になった。 「俺は、もう誰も、失いたくない」 薫の願いは強烈で、純粋な、人としての欲望だった。 クロは、机に置かれたカップを手に取ると、冷め切った中身を一口飲んだ。 純粋な願いほど、神をも凌ぐ詞はない。 人の純粋な願いは、、時に神を凌駕し、世界を変える力を持つ。 「店主様、あの人間、もう一度来る?」 少年は、先ほどと同じように、顔を襖から覗かせて、そう言った。 「さぁ、でも、縁は繋がった。それは、紛れもない事実だからね、多分か、彼は来ると思うよ」 あぁ、愛しい人間よ。 罪深く、儚く、欲深く、誰にも負けない純粋な魂と心を持つ人間よ。 どこまでも深い愛情と狂気の中で、 私は、君たちに出会った。 その必然と偶然に、感謝しよう。 そして、二人はであった。 to be continue. |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |