#学園HERO# 3話 |
作者: 神田 凪 2008年11月16日(日) 17時16分20秒公開 ID:Fpk3UqE6X6I |
最近、学園中はある噂で持ちきりだ。 仮面を被った謎のヒーロー。 家柄重視なこの学園で、なぜか『下』の者を助ける。 一体正体は誰なのか、何が目的なのか・・・。 『下』は自分たちの味方が出来たと、表には出さないが喜び 『上』は自分たちを脅かす存在だと、罵り怯える だけど、そのどれもが男子の間だけだった。 女子生徒は噂を楽しむが、それだけ。自分には害も利益もない。 なぜなら、今まで被害にあったのも助けられたのもすべて男子だったから。 そう、だから関係がない。 だから・・・期待するだけ無駄なのだ。 学園HERO - story3 - 少女の転機 古閑学園 初等部から専門部までエスカレータ式の学校。 ここに通うことは、一種のステータスのなっており金に余裕がある家の子供は必ずここに通っていた。だが、金持ちというのはピンからキリまである。 そう、だからこの学園には『上』と呼ばれる者と『下』と呼ばれる者がいる。 性格や顔なんて関係ない、ここは家柄さえ良ければ誰もがひれ伏す。 それは教師も同じ事。例え、何か犯罪行為が起きてもその家が事実ごと消し去る。 だから、ここでは制裁という名の暴力は当たり前。死ななければ何をしてもいいと傲慢な考えが通ってしまう。ふざけるな、それが言えない小さな世界。 「宮城さん」 その声に私の肩は揺れた。振り向きたくない。だが、ここで無視なぞしたら後々面倒なことになる。 ギュッと拳を握り、必死に笑顔を作った。 「はい。何ですか?」 振り向いた先にいたのは、同い年の少女。高等部の二年に通う私のクラスメイトでもある。長くウェーブのかかった明らかに天然ではないであろう茶色の混じった髪。きつそうな目元をさらに化粧がしてある。見た目には美人だが、誰が見ても気の強い我が儘娘だと分かる。 そんな彼女の周りでニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている数人の少女達。私と同じ『下』の者。だからこそ、一応『上』に分類される彼女の側につくのだろう。 ・・・実際、私もそうなのだから。 私の名は、宮城真央(みやぎまお)。 家は宮城化粧品会社を運営しており、割と裕福な家庭だ。それでも、この学園では『下』の身分。 目の前の少女は、近江香苗(おうみかなえ)。世界的デザイナー近江佐知子の孫である。近江家は祖母の地名を大きく利用して今の地位にいる。いわゆる成り上がりなのだが、それでも金さえあればこの学園では認められる。 「今度、私の家でパーティーがありますの。よければいらっしゃります?」 にっこりと笑う近江“様”の言葉に私が口を開く前に周りの取り巻きが入る。 「ダメですよ。近江様、宮城さんはパーティーが嫌いのようですから」 「そうそう、先日も断りましたし。きっと御家のことで忙しいのですわ」 勝手にそう決めて笑いを含みながら彼女らは話す。 御家のこととは、最近家が危なくなっていることを言っているのだ。今や、化粧品会社は世の中にたくさん存在している。家も、競争率にだんだんと勝てなくなっているのだ。 だから、この近江様の家の力が必要なのだ。 化粧品の入れ物を近江がデザインを書いてくれれば、どうにかなる。この際中身なんか関係ない。女性達はブランド品を持つことで満足する。それを家は狙っているのだ。 私だけではない。彼女の周りの取り巻き達も同じようなものだ。近江にデザインを書いてもらうことで何とか地位を上げようと必死なのだ。 《真央、頼む。お前だけが頼りだ。どうにか近江様に気に入られてくれ》 《このままじゃ、会社は終わりになるわ。お願い真央》 両親の必死な姿が頭に浮かぶ。 そう。気に入られなければならない。我慢をするしかない。 「宮城さん、その髪似合ってますわね」 「本当・・・この前近江様が切ってくださったお陰ですわね」 「ええ、すごくお似合いですわ」 「・・・ありがとうございます」 自分の肩までない髪に触れながら、頭を下げる。 長年伸ばしていた長い髪を、突然切られた時は呆然とした。気に入っていた。でも、私の意志は必要ない。文句なんて言える立場じゃない。 これだけでは無かった。 私の何が気に入らないのか、こういう役回りが多かった。他の子たちはそれを見て、自分じゃないと安堵し嘲笑する。 男子が体の暴力なら、女子は心の暴力だった。 陰湿ないじめ。それは男子も女子も関係がない。だけど、証拠が残らないのは女子のほうが圧倒的だった。耐えるしかない。それしかない。 −−パシャ 一瞬何が起きたのか分からなかった。 気付くと、ポタポタと水滴が廊下に落ちていく。そこで自分が濡れているのだと気付いた。 視線を上げるとバケツを持った近江様の姿。 「あら、ごめなさい。貴女の顔が汚れていたのでつい」 「近江様はお優しいですね。そんな事まで気にしてくれるなんて」 「本当ですね。宮城さん、お礼を言ったらどうですか?」 「そうそう、近江様に感謝をしたらどうです?」 怒りで拳が震える。 今にも、この目の前の存在をどうにかしたい。 だけど、私には家族の、会社の未来がかかっている。 震える唇をかみしめ、ゆっくりと開く。 「ありが「安達様ー、次は科学室ですね。お荷物お持ちします」 私の言葉を遮ったのは、明るい声。 ハッとして、階段から下りてくる存在に目をやった。ここは特別第二棟で、人気が少ないが選択科目を取っている者なら来てもおかしくない。だけど、今の今まで誰の姿もなかった。女子のいじめの証拠が残らないのはこういうことを計算して行っているからだった。しかし、第3者の声。 驚いたのは、私だけではない。目の前の近江様もその取り巻きも。 なぜなら、第3者の発した名前に問題があるからだ。 「あれ?」 最初に私達に気付いたのは、目の細い少年。櫻井多喜だ。そして、彼がいるということは・・・ 「安達様・・・」 呆然と近江様は口に出す。 安達悠。この学園の『上』の者でも更にトップクラスと呼ばれる家柄の持ち主。そんな彼のパシリと認証されている櫻井多喜は不思議そうな顔をしながら私達のいる方へと近づいてきた。 そして、私に視線を向けたのだ。 「大丈夫ですか?びしょ濡れですよ・・・?」 笑みを浮かべながら言う言葉ではないだろう。だが、私は、いや・・・この学園の誰もがきっと彼の笑顔以外見たことがないに違いない。 「何かあったのですか?」 安達様が櫻井多喜の言葉に続きそう聞いた。笑顔の櫻井に対し、安達様は滅多に表情が出ない。機械的な問いだが、近江様は真っ青になった。 見られたのが近江よりも『下』の者ならきっと見て見ぬ振りをされたであろう。 しかし、安達は近江よりも更に『上』の者だった。 慌てて、何も言えない近江様に変わり取り巻きが口を開く。 「いえ、何でもないんです。急に・・・そうです、急に彼女、宮城さんがバケツを頭から被って・・・」 「そ、そうなんです!! 私達はそれを止めようとしていただけで・・・」 「きっと御家のことでごたごたしていて疲れているんだわ。だからこんな行動を・・・」 「そうですよね、宮城さん?」 苦しい言い訳だ。だけど、この言い訳を本当にしなければならない。 「・・・そうです。安達様には不快な思いをさせたことをお詫びします」 私の言葉にあからさまにホッとした様子の近江様の姿を見て、苛立った。取り巻きのお陰だ。だけど、彼女はそれを感謝しないだろう。それが当たり前だと感じているのだ。 「そうですか、」 安達様は納得されたのか、それとも問題には関わりたくないのか、それだけを言って先に進もうとする。その姿を見て、近江様は何を思いついたのか彼の側に行く。 「安達様、あの、今度私の家の方でパーティーを行いますの。その、よろしければぜひ・・・」 頬を真っ赤に染め、たどたどしく話す近江様の姿。彼女はきっと安達様を好きなんだろう。家柄とこの容姿だ。近づきたくなるのはしょうがないのかもしれない。 「そうですわ。安達様もぜひっ」 「安達様、近江様をご存じですよね? あのデザイナー近江佐知子様の・・・」 「いやですわ。皆さん、こんな所で・・・」 取り巻きの言葉に、近江様は困ったような声を上げるが顔はにやけている。 ああ、何て醜い会話。聞いているだけで鳥肌が立ってくる。でも、もしかしたらこういう会話が出来ないから近江様は私のことを気に入らないのかもしれない。 クスッ え、と慌てて横を見ると櫻井多喜がいた。 やばい・・・!! 呆れた目で見ていたのに気付かれてしまった。 「申し訳ございませんが。その日は先約がありますので・・・」 「その先約は他の日に延ばせませんの? 私の祖母もきっと安達様を気に入ってくださると思いますわ」 滅多に話せない安達様と口を聞けたせいか、だんだんと近江様の我が儘が出てきた。しかも、なぜか恋人気取りで家族に紹介したいと言っているようなものだ。 「ねぇ、安達様」 甘えた舌足らずな声。計算でやっていることぐらい誰でも分かる。表情は変わらないが困っているだろう安達様の様子。令嬢に手を上げることは出来ないため、どうにかしてこの場を切り上げようと考えているに違いない。 「安達様」 その場の雰囲気を変えたのは、またしても櫻井多喜の声。 不思議だ。普通なら『上』同士の会話には入れないはずなのに、彼は気にすることもなく口を開く。いや、もしかしたら安達様を助けようとしたのかもしれない。そんな櫻井の行動に近江様は睨み付けた。その視線を感じているだろうに、相変わらず笑みは絶えない。 「彼女が風邪をひきそうなので、私は保健室に連れて行きたいのですが」 は!? 彼女というのは、私のことだろう。 なぜそこで私を話の中心に入れるのか。 「・・・そうか。だったら、俺も行こう」 な、何で!? あの安達様も付いてくると言ったのだ。 例えこの場から逃げたいだけでも他に方法はあるだろう。 どうして、その方法に私を使うのだ。 「さ、行きましょうか」 櫻井の笑顔が一瞬、悪魔に感じたのはきっと気のせいではない。 昨日まで、同じような日常だったのだ。 例え、近江様に邪険に扱われようとそれはいつものことだった。 なのに、いきなり何かが変わってしまった気がした。 歯車が一気に回り始めてしまったのか。 しかし・・・この出逢いが私にとって、最高のものになるなんて今の私にはきっと分かるはずもない。 |
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