Dark & Free |
作者: 一夜 2008年12月05日(金) 17時24分10秒公開 ID:5EwBxlXyk0. |
何も無い真っ白な部屋。その隅に壁にもたれかかるようにして一人の女がいた。 乱れたままの短い金髪に女の体に不釣合いなほどに長い黒色のドレス、肌は傷だらけである。 女はただ瞳を閉じて小さく呟くようにして歌っていた。 いつになったらこの白すぎる場所から抜け出せるのだろう…私はこんなにも黒すぎるのに。 ここに入れられてから、どれくらいの時が過ぎたのかさえわからない。 そんなことを思っていると、扉の外に人の気配を感じて女は歌うのをぴたりと止めた。 ゆっくりと瞳を開き、自分の手元にある透明な皿にのった小さい 紫色の瞳が射るかのように扉を睨みつけた。…いや、扉の外にいる気配を睨みつける。 口元に寄せた果実を握りつぶす。果実は指の隙間から血のように流れ出てその手を染めていく。 女はその場に立ち上がる。手から果実が滑り落ち、床に叩きつけられた。 気付くと扉が開いており、そこには漆黒色の装束で全身を覆った二人の男がいた。 扉に向かって女は歩き始めた。床に落ちていた果実を裸足で踏みつけると、それはまた血のように床を染めた。 真っ白な廊下をただ歩く。二人の男は前を歩き、女はその後を付いていく。その手は後ろ手で白い縄で結ばれていた。 何も言葉はない。歩く音だけが虚しく廊下に響くだけだった。 残酷なほど美しすぎる世界に、血に染まった私はいらない。…この魂は今までどれくらいの人間を殺してきたのだろう。 今思うと憎しみという感情を誰かにぶつけていた。憎んでいなきゃ私は自分を保てなかった。 そのためだけにただ殺して、殺して、殺して。それで何を得たつもりだったのだろう。自分を傷つけるだけだったのに。 でもそんな時に、手を差し伸べてくれたのは……………。 女はゆっくりとその瞳を閉じて、俯いた。廊下に響いていた足音がふと消えた。 俯いた顔を上げると、目の前には銀色の大きな扉があった。男たちがその扉を開く。 静かな廊下に響く鈍く重い音が廊下の端まで聴こえるんじゃないかというほどだった。 扉が、開いた。その奥は深いほど真っ暗で自分にお似合いだと女は思った。 男たちが扉から手を離し、両端に立つ。そしてじっと女を見た。その表情は漆黒色の装束のせいでわからなかった。 この奥に行けば、全てが消滅する。この身体も、この心も、この魂も……これでいい。これが私の願い。 扉に向かって歩く女の頬に一筋の光るものが伝っていった。その時女の頭に声が響いた。 闇にしか愛されなかった女よ。 そのたった一つの愛だけを抱いて何もかも償えばいい。 永遠に……―――――。 そこから女の姿が消えたと同時に男たちの姿も消えて、その場に漆黒色の装束だけが残った。 そして銀色の扉が大きな音を立てながら崩れていった。 ねぇ、愛しい人…―――。 あなたは美しいものばかりを私に見せてくれた。 だからこそ、罵って突き放して欲しかった。 でもね、孤独は嫌なの。ずっとそうだったから。 これが最初で最後の我が儘よ。 独りに、しないで……―――――? |
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