アリスたちの物語―アリスト蛇ト迷イ人― |
作者: ユミ 2009年02月11日(水) 12時44分21秒公開 ID:AWVzgvjC/3k |
ある森に、小さな小屋がありました。 そこには老婆が1人住んでいました。 滅多に客人など来ないのですが、この日は誰かが来たようです。 〜アリスト蛇ト迷イ人〜 あらあら、今日は珍しい日だねぇ。 旅人さんかい? まだ明るいけど、この時期はすぐ暗くなるからね。 今日は泊まっておいきよ。 そうそう、遠慮はしないで。 ・・・でも、ここは本当になにも無いからねぇ・・・・・・。 そうだ、退屈しないようにあたしがお話を聞かせてあげよう。 哀れで愉快な、女の子の話をね―――。 あるところに、とても美しい女の子がいました。 名前はアリスといいます。 アリスはその美しい容姿に加え、頭も良く運動もできたので、 彼女の周りには常にたくさんの取り巻きがいました。 そして、そんなアリスには恋人もいました。 とても優しく、気配りのできる青年でした。 実のところ、アリスには少し悩みがありました。 それは誰にも話したことが無いのですが・・・。 毎日毎日、午後7時きっかりにそれはやってくるのです。 ボーン・・・ボーン・・・ 今日もまた、振り子時計が午後7時を告げました。 そして、 ――アリス、アリス、その体を私におくれよ。 いつ入ってきたのか、蛇が言いました。 ――イヤよ、イヤよ、これは私の体だもの。 アリスが言います。 黒っぽい緑色の蛇はところどころ鱗が剥げていて、醜い姿です。 アリスの答えを聞くと、蛇はどこかへ行ってしまいました。 毎日毎日、午後7時きっかり。 それはもはやアリスの日課となっていました。 そんなある日、アリスは近所の娘にこう言いました。 ――あなたが魔女だっていうことはわかっているわ。 アリスの取り巻き達ががざわっとどよめきます。 ――魔女は焼き払わないと。ねぇ? 取り巻き達は準備を始め、娘を焼き殺しました。 アリスはしばしば、こんな風に暇つぶしをしていました。 咎める者は誰もいません。 アリスは人気者ですから。 そしてこの日も、午後7時がきました。 ――アリス、アリス、その体を私におくれよ。 いつ入ってきたのか、蛇が言いました。 ――イヤよ、イヤよ、これは私の体だもの。 アリスが言います。 アリスの答えを聞くと、蛇はどこかへ行ってしまいました。 そしてある日。 愛する恋人にアリスは呼びだされました。 ――何かしら、話って? 少しだけ頬を赤らめて、アリスは尋ねます。 ――別れてほしい。 恋人は少しだけ目を伏せて言いました。 ――君の我が儘にはみんな困っているんだ。 ――僕にはなにもできないけど・・・君とは一緒にいたくない。 恋人はそう告げて、去っていきました。 アリスは嘆き、苦しみました。 私が・・・嫌われて・・・。 我が儘・・・別れる・・・? 頭の中がごちゃごちゃになって、アリスは涙を流しました。 振り子時計が7回鳴り、 そして、 ――アリス、アリス、その体を私におくれよ。 醜い姿の蛇が言いました。 ――・・・あげられるものならあげたいわ。 泣き腫らした瞳の美しいアリスが言いました。 そして、 「 言 っ た ね ? 」 その声はとてつもなく重く、深く、アリスの心に響きました。 あるところに、とても美しい女の子がいました。 名前はアリスといいます。 アリスはその美しい容姿に加え、頭も良く運動もできたので、 彼女の周りには常にたくさんの取り巻きがいました。 アリスはとても優しく、気立ての良い女の子です。 最近嬉しかったことと言えば、別れた恋人とよりを戻したことです。 ボーン・・・ボーン・・・ 今日もまた、振り子時計が午後7時を告げました。 そして、 ――アリス、アリス、その体を私に返して。 いつ入ってきたのか、醜い姿の蛇が言いました。 ――イヤよ、イヤよ、これは私の体だもの。 冷たく微笑んでアリスが言いました。 ・・・さあ、あたしの話はこれで終わりだよ。 旅人さん、これはね、本当の話なんだよ。 ・・・信じられないって顔だね。 まぁ、信じてもらおうなんて思っちゃいないけど。 それにしても・・・あのときあの人がアリスを振ってくれてよかった・・・。 そう老婆が呟いたとき、 ボーン・・・ボーン・・・ 今日もまた、振り子時計が午後7時を告げました。 そして、 いつ入ってきたのか、黒っぽい緑色でところどころ鱗の剥げた蛇と、 冷たく微笑む老婆と、 奇妙な場所に迷い込んでしまった旅人が、 何か言いたげな顔でお互いを見つめていました。 |
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