血染めのノクテュルヌ-You know it's true- 序章 |
作者: 清嵐青梨 2009年02月18日(水) 23時37分47秒公開 ID:L6pfEASBmTs |
俺――高嶺優は到って普通の高校生なのだが、見た目は高校生でも人とは少し性質が違う。魔術師というのは読者の方々はご存知なのだろうが、無論俺もその魔術師の一人である。でも正確にはまだ見習い魔術剣士のようなもので、剣術と魔術も兼ね備えている。 でもあの日が来るまで俺は普通の高校生なのだ。魔力も備わってはいないし寧ろ剣術が主流だったのだ。それが――『聖杯戦争』という日がきたあの日、俺はあるサーヴァントから魔力を渡され、魔術の力を手に入れた。 本当は望んだことではなかった、魔力なんか欲しくもなかったし『聖杯戦争』という戦いには興味もなかった。だけどあるサーヴァントが俺に興味を持ったらしく、自分の下僕として俺の元にいろと言って魔力を供給されたのだ。 今となっては忘れもしない思い出だけど、自分が起こした選択肢は決して間違いではないと思っている。若しあの日彼奴に会わなければ、俺の人生は全く違う方向へと進むから……。 ふと半年前のことを思い出してしまった俺はふるふると頭を左右に振ると、そろそろ教会に戻らないと思い、ようやく帰路へ向かおうといつもの十字路を右へ曲がろうとしたときだった。 (パァン……――) 「……?…」 と、左のほうから何かが破裂した様な音が聞こえ教会に向かおうとした足を一旦止め、向こうを見る。向こうには電燈が少なく真っ暗な街路樹が続いている滅多に人が通らない道なのだが、何故その道から音がするのだろう? 益々気になってしまって仕方がなかった、俺は教会へ向かおうとした足を方向転換し、向こうの道へ向かう。 音がした場所は相当遠くはないところからなったので、多分公園の方向だろうと思い、取り敢えず公園の方へ向かおうとした途端、後ろから視線を感じるのを覚え振り向くと一つしかない街灯の下に一人の男がぽつりと突っ立っていた。 黄土色のコートの下には制服が着込んであったのだが色は紺色を主としたカジュアルな制服で士郎たちの高校の服ではなく明らかに他校の制服だと分かった。 黒い短髪に精悍な顔つきに合うサファイアのような 相手が握っている物は純白の銃だった。その銃口に紅い血の様なものが付着している。その血を男はコートの袖で拭い取ると、お前…さっきの音聞きつけたんかい?と関西訛りの関西弁で聞いてきた。 俺はその問いに答えようと口を開こうとしたが、もうええわ…お前が言おうとしてること分かるさかい、と言って右手でがしがしと黒い髪を掻き乱す。 「…ぶっつけな質問で失礼やけど…お前“聖母”みたいな顔しとるな。女か?」 「…お前の視力は節穴か?俺は男だ男!女顔で悪かったな」 「あ、せやったか。堪忍な、可愛くてつい見蕩れてしもたわ…けど、その顔優しすぎて狂っちまうわ」 「……なぁ、俺からも一寸聞いてもいいか?」 俺は男の顔を見て質問をしようと思い、少し一歩前に出て男に詰め寄ろうとした途端男が手を上げて制し、俺がお前が何を言おうとしてるか引き当ててもええか?と逆に聞いてきた。 何なんだこの男は…丸で人の話を聞こうとはしない性格なのか…俺は肩を落とし落胆すると、別に良いよ…と半分呆れた気分で男に言う。そんな俺を気にしたのか、堪忍なこないな性格で、と男はそう言って髪を掻いていた手を下ろした。 「此処で俺は何をしていたのか…そう聞きたいんやろ?」 「そうだよ…俺が推理するのもなんだけど、若しかしてその銃で…」 誰かを撃ったのか――? 俺は男が握り締めている銃を指さしてそう言うなり、男はふふっと含み笑いをし、正解と手短く言葉を切り出すと、若しかして俺を通報するのか?と聞いてきた。 人を殺したのならばそりゃ普通警察に通報して自首を求めるのが一般人の役割の一環である。けど何故か俺はそれをしようとはせず、只々男の笑う顔を見つめることしか出来なかった。 なんで自分が人を殺したとあっさりと言って、面白可笑しく平気で笑っていられるのだろうか――それが不思議で堪らなかった。彼が言っている通り本当に此奴は狂っているのかもしれないと思った。けれど明らかに男の目は正気だった、正気ってことは狂っていない証拠である。若しかしたらヨウキョウなのかもしれない。 と、俺が考えていることが分かったのか男は空いた手で軽く振り、 「ただお前は優しすぎるなぁ、と思てな。つい笑ってしまった」 「優しすぎるって…あのな、俺はこれでも――」 「正しいことをしていると言い張るンかいな」 と、行き成り男の口調がガラリと変わりさっきまで笑っていた顔が拭い取られたかの様に綺麗に消え去っていて、代わりに真剣な顔で俺を見ていた。 「なんべんも言うけど、お前は――優しすぎるんや。なんで人殺しの俺を ――俺は此処でお前を殺らなきゃ、俺の殺人定義が成り立たないんや。 男はそう言ってさっきまで握り締めていた白い銃の銃口が俺の左胸に標的を定める。 「――え?今、なんて言った……?」 「なんべんも言わせんな、俺は此処でお前を殺らなきゃ、俺の殺人定義が成り立たないんや言うたんや」 男は相変わらず真剣な顔つきのまま俺に向けて言うと、突きつけられたら逃げる…そう相場が決まっとる筈やろ?と俺に向けて尋ねてきた。 彼の言う通り本来なら俺はこの場から逃げ何処か安全な場所へ行く筈なのだ、だけど足が言うことを聞かなくてその場で立ち止まったままだった。そう――丸でこの場から逃げてはならないと訴えるかの様に。 動かない俺を見た男は、はぁ…と小さな溜め息を吐いて、だからお前は優しすぎるんやと一言呟くと彼の指が白い引き金に触れたとき、彼は俺に向けて言った。 「――冥土の果てでよぅ覚えておきぃ、高嶺優……俺は佐野陵牙や……」 「……さの…りょう…が…?…」 「……ほな、さいなら」 彼がそう言い、俺が何故己の名を知っているのか聞こうとした瞬間、引き金が下ろされ銃口から一弾の銃弾が撃ち放たれる。その放たれた銃弾は標的を逸らすことなく、俺の左胸を貫いた。 パァン、と張り詰めた音が耳に届いたかと思いきや視界が行き成りぼやけだして、そのまま重たい瞼を閉じ撃たれたその場で倒れた。 僅かだがぼやける視界の隅に、俺の返り血が彼のコートに付いた情景を脳裏に焼き付けたまま、意識が其処でプツンと途切れた。 また関係のない人を殺したいのかい、君は――後ろから黒羽勇輝の淡々とした声が聞こえた俺はアイリをコートのポケットに仕舞いこみ、煩瑣いなぁ…ンなの俺の勝手やろ、と投げ遣りに言って振り向くと、陰陽道のマークが描かれた紺色のコートを着た彼が携帯を弄っていた。 勿論彼がかけている場所は一つしかない――俺は顔を 「で…自身の願いとしては叶えられることは出来ましたか?」 「………まぁまぁやな」 虚ろで光のない目で途方を見ている彼の顔を見て、俺は彼の問いにぽつりと呟く様なか細い声で言うと倒れている彼に背を向け、ほら、早々と帰るで、と彼の隣を横切り先に他の仲間が待っている場所へ向かった。 |
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