血染めのノクテュルヌ-You know it's true- 第一章
作者: 清嵐青梨   2009年02月20日(金) 01時17分05秒公開   ID:L6pfEASBmTs
黒い世界に白い箱が置いてあった。開けてみたいと思ったが、同時に開けてはいけないと俺の中が訴える。目の前にあるパンドラの箱が危険なものか否か分からないからであり、開けた瞬間に何かが起きるような気がして……――。


でも夢の中の俺はその白い箱に見覚えがあった、確か幼い頃当時の御三家の頭首だった曾お婆ちゃんが俺の為に見せて呉れた箱だった。中身こそは教えて呉れなかったが、この中に入っているものは、いつか陵牙が誰かを護る為に役に立つものだよとか言っていたな…。




でもなんであの箱が夢の中に突然出てくるんだ…いつかその箱が結果を出して呉れるのか…。


俺はその白い箱に触れようと手を伸ばし、指先が白い箱の蓋に触れようとしたところで……――。












携帯の目覚ましのアラーム音が鳴り、夢は此処で醒めてしまった。












(でもなんで行き成りあの箱が夢の中に出てきたんやろ…?)


櫛で少しはねている黒髪を梳かし乍ら俺はさっき見た夢に頭の中が悶々としていた。あの箱がいつか役に立つとか曾お婆ちゃんが言っていたけど、中は一体何が入ってあるのか昔はあんまり気にならなかった俺も流石に今となっては中身が気になって仕方なかった。

今度実家に戻ろうかな…ぼんやりとした頭でそう思った矢先、朝っぱらから行き成り携帯の着信音が鳴り始めた。何事だろうかと俺は携帯を手に取り通話ボタンを押す。


「――はい佐野ですがー…なんや隼人かいな、てっきり勇輝かと…え?今直ぐテレビ付けろ?はいはい、言われなくても付けますよっと」


俺は勇輝かと思っていた電話の相手――北条隼人の会話に耳を傾ける。いつもは彼の電話を無視するのだがたまには通話に出ないと彼から何かと文句を言われる羽目になるので仕方なくその会話を聞く。

携帯を片手に俺は言われた通り空いた手でテレビのリモコンを持ち電源のスイッチを押して、真っ暗だった液晶テレビに電源を付ける。直ぐに液晶画面は朝のニュースを伝えていた。然も不運なことに昨夜の出来事をニュースで流れていた。


そのニュースの情報をもう片方の耳に傾けたまま俺はしきりに話す隼人の話を聞き乍らテレビのリモコンを置き、髪を梳かす前に淹れた珈琲が入ったコップを持ちその中身を飲んだ。
その時だった、ニュースキャスターがその昨夜の出来事に“生還者”の情報を話し出した。その情報を聞いた俺は隼人の話を逸らし、視線を液晶画面に向ける。


『昨夜の事件現場にいた高嶺優香さん十七歳が左胸に銃弾を撃たれ、病院に搬送され先ほど命を取り留めましたが意識不明の重体です――』




「………なんや彼奴、意外と生命力強いやないか」




というか…“優”という名は呼び名だったのか…そんなことを思い乍ら俺は生還者の情報に向けぽつりと言い、電話の向こうでしきりに言っている隼人を完全無視し、そのまま電話の通話を切ると残りの珈琲を一気に飲み干し、ふふっと含み笑いをした。

矢張り、聖母はそんなに呆気なく死ぬ奴じゃなかったか――俺はそう思い、空になった珈琲のコップを流し台に向かい、空のコップの中に水を入れ、洗いもせずそのままシンクの中に入れておくと、デスクに置いてあった鞄を持って玄関口へ向かう前にテレビの電源を落とす。


「……今夜、お前をまた殺しに行くで。高嶺優」


生きている間、俺が来るまでくたばるんやないで…俺はシーンとなったテレビに向けて言うと、ドアノブを回し朝の外へ一歩踏み出した。













「そういえば…手前てめぇが殺した男、まだ生きてたってニュース見たか?」
「見たでそりゃ…なんやその、珍しいものを見たような目は」


午後、全ての授業が終えた放課後所属しているバスケ部で自主練をしていると、部長でチームの副隊長である飛馬大地がバスケットボールを片手に持って俺のところに寄るなり、ぽつりと今朝のニュースの事を切り出した。

彼がその事を話しかけてくるまで俺は狙いを定めてシュートを放ったボールがゴールから弾け飛んで此方へバウンドして戻ってきた。そのボールを捕まえて顔を上げると、大地が俺の顔を物珍しそうな目でじろじろと見てきた。途端に不快な気分なり言い返すと、いや…真逆まさか仕留め損ねたんじゃないかな、とか思ってたんだと言った。


「何せ高嶺といったらとある名高い剣道道場で大将を努めたほどの実力者だからな、そんな奴を本当に殺したのなら、ちゃんとした褒め言葉を讃えてあげたとこなのにな。お前…本当に惜しいところを逃したな」
「……誰が逃した言うたんや、まだ諦めたわけやないで。俺にはまだ彼奴を殺す“勝機チャンス”が山ほど残っているんやからな」




「……夜に行くのか、あの男を殺しに」

「せや。このまま見逃すわけには行かないからな」




本当…彼奴あいつ面白おもしれー奴やな――俺はニッと口角を吊り上げ笑みを浮かべるとボールを軽くバウンドさせ再びゴールに向けてシュートを放つ。
その軌跡を目で追った大地がでも…と一言呟いた後少し間を置いてまた呟く様な声で言った。


「絶対に彼奴にガードマンがいるかも知れないから…行くなら要注意しとけ」
「真逆…あんな聖母の様な野郎にガードマンがおるわけないやん」


ガゴンッとボールがゴールの中に入り、バウンドし乍ら向こうへ転がり行ってしまうと同時に、俺と大地の会話は此処で一時中断となる。
彼の台詞は一理あるに近かったが、彼奴を護るガードマンが果たして本当にいるのだろうか。若しいたのならば、俺は彼奴を殺す前に先ずそのガードマンを如何にかしなければいけなかった。


若し――ガードマンが俺より強い奴だとしたら――其処まで考えた後、真逆…と俺は首を左右に振り、さっきの考えを取り消して早々とボールを取りに走る。

半年前――【GAME】の中でそりゃ沢山の殺人者たちと生死を争い乍ら殺し合いを続けてきた。凶悪な殺人犯や【GAME】の主犯者・十四年前の当事者たちを除く他の人たちは皆俺に太刀打ち出来ず死の底へ堕ちていってしまった。

凶悪な殺人犯や十四年前の当事者たちは兎も角、俺より強い奴が俺の上に立つなんてそれこそ許し難い現実である。俺の上に立とうとしている奴等は皆殺し尽くすだけ殺してやったのに、それでもまだ俺の上を目指そうとしている奴がいるというのか…。




そんな事…俺が信じるわけがない。いや…絶対に信じたくはない。俺より強い奴なんか皆……。




「――おーい、陵牙ぁー。手前何処まで行くつもりなんだー?」


後ろから大地の声が聞こえ、俺は走っていた足を止め後ろを振り向く。何時の間にか転がっていたボールが止まったところから大分通り過ぎていって、体育館の半分を走っていた。
先ほど言った彼の言葉が頭から離れずに云々考えていたら何時の間にかボールの存在をすっかり忘れていた。周りから言われる通り“周りの目を気にしないで考える”短所が直っていなかったか…。

また何か考え事していたなーっと俺のことを一番良くわかっている大地が遠くから大声でそう言うのが耳に届き、俺は表情一つ変えずに何も考えてないでー!と大声で返すとボールが止まっているところへ引き返した。




本当…今の俺はどうかしている。一体どうかしているのだろうかというところまではまだ分からないのだが、多分自分の上を目指している奴のことを考えたからなのだろうと思ったのだが、直ぐにそうではないと否定する。

若しかして、あの少年を殺すという宣言のせいでどうかしているのだろうか…。そんなことはないと自身を徹底否定するのだが、如何しても脳裏にあの少年の顔が浮かんでくる。何度消そうとしても直ぐに靄となって浮かび上がってくる。


本当に俺はあの少年のせいでどうかしているというのか…。俺は頭を左右に振るとボールを手に取ると、大地のド阿呆ー!と彼に向けて勢い良くボールを投げつけた。大地は何のことなのか分からず、はぁ!?と驚いた顔と素っ頓狂な声を上げると突然接近してきたボールを受け止める。


「陵牙!!手前行き成り何しやがるんだ!!」
「煩瑣いなぁ、大体大地が変なこと言うからやろうが!!」
「俺が何時変なこと言った!??」
「ついさっきやっ、このボケッ!」


俺は未だきょとんと状況を把握しきれていない大地に向けて精一杯の怒声を放つと、指定の体操服の上に着ていた赤色のゼッケンを脱いで二つに折り畳んで黄色い籠の中へ投げ入れると、先に体育館から出て制服に着替えるべく外に設置してあるバスケ部の部室へ向かった。













今日の陵牙、なんだか荒々しいな…と、隣で魔術の封印解除を詠唱している勇輝が途中で詠唱を破棄して、俺の横顔をちらり見してきた。
昼間の大地の言葉を未だ気にしていたのを見計らって話しかけてきたのか、俺はそう解釈し、調整し終えたアイリをコートのポケットに仕舞いこむ。


「何や…荒々しくて悪いか?」
「いや…只、君は何に気にしているのか気になってね。話しかけてみたけど不快だったかい?」
「……俺が何を気にしているのか自分でも全く分からん。せやけど厭な予感やないことは確かや」


それが如何かしたか?と今度は俺から聞いてみると、いや…と彼は曖昧な返事をするなり黒い手袋を嵌めた指を交差すると、大地がね…俺が何かしたかなとか言っていたからね、と素直に言った。

昼間のこと、彼奴はだ気にしていたのか…。何だか呆れた気分になり俺は、はぁ…と溜め息を吐くと、人の事気にしないでもええのに…と嘆く様な声で呟くと黒髪をくしゃくしゃと掻き、戻ってきたら謝らんとアカンなぁと言うと勇輝はくすくすと笑い、そうした方が良いと思うよと言った。

そして彼は交差した指を解いて再び魔術の封印解除の詠唱を唱えようとしているところを今度は見計らい、俺は先に行くで、と彼に背を向けてひらひらと手を振るとご武運を…と勇輝がエールを送るかの様に一言を送る。
そのエールを先ほど振った手で再度振ると、件の彼奴が入院している病院へと向かった。




俺としては幸運にも、夜の時間帯は既に面会時間は終えていて看護婦は皆夜の見回りの最中だった。俺は看護婦にバレないよう正面からではなく裏の入り口から出入りすると、他に人がいないか確認し、彼奴が入院している病室へ向かった。

と、途中で渡り廊下の窓硝子から差し込んでくる月光を見て、俺は一度立ち止まって窓硝子の向こうを見る。
彼奴を殺したあの闇い夜を不気味に明るく照らす青白い満月が躊躇いなく俺を照らしている。同時に半年前の出来事が脳裏に明瞭と思い出してきた、ほんの少しだけ目を顰めると満月から目を逸らし、再び渡り廊下を渡り歩こうとしたときだった。


向こうから一人の男性が渡り廊下の手摺りに寄りかかって満月を見ていた。こんな夜中に一般人が入ってくるわけがない、かといって面会時間もとっくに過ぎているし、第一面会に着たという感じすら漂ってこない。

俺は改めて男性の姿を確認する。肩まで伸ばした青い髪を綺麗に後ろに束ね、紅いで青白い満月を見ていた。服装は到ってラフな格好で白いTシャツとジーパンという風体だった。


ふと彼を見ていたら、イメージ的に青が似合うなどという感想が出てきた。なんで青なのか分からないが、多分青い髪と紅い瞳が印象的に合うからかもしれない。
そんな事を思い乍ら俺はいつもの表情を崩さず、平然と装ったまま男性の前を通ろうと歩みを進む。
進むうちに段々男性との距離が縮んでいき、遂には三メートルというところまで着た。それでも俺は平然を保ちつつその前を通る。

ようやくバレずに済んだみたいだ…、ほっと胸を撫で下ろし渡り廊下を渡りきろうとした途端だった。


「血の臭いがするな……てめぇのコートに」

「――!?…」


今まで黙って満月を見ていた男性が行き成りぽつりと俺に向けて言い放ってきた。今まで平然を装ってきた俺も、彼の意外な言葉に動揺が隠し切れず目を見開くと振り向く暇もなく、後ろからビュンッと風切り音が聞こえた。


その音を聞きつけた俺は咄嗟に屈んで足蹴を仕掛けてきた男性の足を避けると、ちらりと相手をちらり見して再び攻撃が来ないうちに、足に力を篭めて一歩踏み込むとそのまま渡り廊下を走りきり、件の病室へ行く前にあの男を如何にかしなければと思い、件の病室とは違う方向へ向かい屋上へ繋がる階段を一気に駆け上がった。




二段飛びで階段を一気に上り、目の前に飛び込んだ錆びついたドアに向け体当たりで開け放つと、男性が追ってこないよう早々と開け放ったドアを勢いよく閉めた。
■作者からのメッセージ
フェイト×オリジナルのコラボ連載第一話です。第二章からは多分バトルシーンが多くなるかもしれません。取り敢えず第一話は軽く体術の描写だけでもと思い、成るべく分かりやすい描写に書いたつもりです。いかがでしょうか?
それでは、第二話でお会いしましょう。

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