#学園HERO# 5話
作者: 神田 凪   2009年03月20日(金) 13時43分02秒公開   ID:Fpk3UqE6X6I
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カタカタ、と機械的な音がその空間に広がる。
学園の中にあるパソコン室にも、やはりたくさんのお金が使われていた。
最新式のパソコンだけではなく、それを乗せる机や座る椅子。壁紙にカーテン、上げるとキリがない。
広々としたそこは薄暗く、授業で使っている様子はない。だが、ある一点に青白い光が照らす。
その光に照らされた一つの影は、興味深そうに画面を眺めていた。そんな影の思考を止めたのは携帯の呼び出し音だった。
初期設定のまま変えていない音楽は質素だが、影は特に気にすることはない。ようは携帯電話の機能さえあればいいのだ。
「――はい?」
名前を見れば珍しい人物に思わず、笑みを含んだ声音になった。
《――――――――?》
相手は何か緊張めいた言い方で用件を言う。
ああ・・・本当に珍しい。


返事の代わりに笑いが漏れた。





 学園HERO

  − story 5 −  呼ぶ声








(真央side)

「こんな大事になるなんて、思っていなかった・・・。これは僕のせいだ」
「いいえ。違います、こんな事になるなんて誰も思っていなかった。だから、先生のせいではありません」
「宮城さん・・・」
私より最上先生が泣きそうな顔をしている。ああ、本当にこの人は優しいのだ。
あの騒動から、三日が経った。未だ落ち着きは見せず、私はあれから学校の方へは行ってはいない。教師の方から騒ぎになるからと止められたのだ。そのため寮のほうでおとなしく過ごしていた。だけど、この先生に報告するためここにやってきた。
「・・・学校、辞めることになりそうです」
三日間、私は両親と話し合った。両親は最初、悔しそうな、悲しそうな、私のことを憎むような、そんな風に話していた。仕方がない。学校では“下”とはいえ、家は会社を経営している。従業員も多いとはいえないが、それなりにいる。これは家族だけの問題ではないのだ。
だけど、
両親は、最終的に自分たちが悪かったと謝った。
《まだ何も権限もない、入社もしてない・・・ただ娘というだけでこんな大きなことを頼んでしまった。すまない・・・》
そんな声を聞いた瞬間、止まっていたはずの涙が再び流れてきた。


近江の力がなければ、この競争社会に乗り切ることは出来ない。
だけど、会社を潰さないことは出来るかも知れない。そのため、少しでもお金を大事にしなくてはならない。ここの学費は良家の子供が多く通うということもあって高い。だから、私は退学を決意した。
「先生と会えて良かったです。私、この学校で優しい人に会えたのは初めてだったから・・・」
「宮城さん、本当にこんな風に終わってしまって・・・」
「良いんです。それに、退学しなくてもこの学校に行きにくくなったし、」
改めて、この学園での安達様の影響力がいかほどのものか認識した。ちらりと時間を見ると、4限目がもう少しで終わるところだった。昼休みになると人がぞろぞろと多くなるだろう。その前に寮に帰らなくては。
「それじゃあ・・・私、」
「宮城さん」
席を立った瞬間、最上先生が私を止めるように呼んだ。
「ここには少ないけど相談に来ていた人がいたんだ」
「先生?」
「みんな苦しんでいて、それこそいろいろな悩みがあった。だけど・・・」
いったんそこで止まった。それからゆっくり、口を開いた。


「誰も【助けて】って言わなかった」


「みんな自分で解決しようとしていた。確かに、それは素晴らしいことなのかもしれない。君たちはそうやって教育されてきたのだろう。上に立つ者として甘えることは許されないと思うのかもしれない。でも・・・」
苦しそうに顔を歪め、それでも言葉は止まることはない。
「でも、僕にはそれが正しいとは思えない」
自分でも何と言えばいいのか分からないのだろう。思っている気持ちを感情をうまく言葉で表現出来ない。
それでも、必死になって私を引き止めていることは分かる。その気持ちは私に十分すぎるほど伝わった。
「こういうのを・・・綺麗事っていうのかな。ごめん、当事者ではない僕に君の気持ちを本当に理解できるはずがないのに」
「いいえ、先生。ありがとうございます」
良かった。この先生に会えて良かった。
今、本当にそう思う。






⇒To Be Continued...

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