BLADE OF SWORD 第四夜
作者: 清嵐青梨   2009年04月26日(日) 00時40分06秒公開   ID:L6pfEASBmTs
「アサシンを貴女のサーヴァントに…?」
「えぇ、彼を私のサーヴァントとしてこの柳洞寺の門番をさせたいのです」




柳洞寺の座敷の床で上半身を起こした、白い着物を綺麗に着こなした女性――魔術師キャスターのサーヴァント・メディアが浅黄色の着物を着た俺を見て真剣な瞳で俺の姿を映して言った。

彼女の看病をしていた葛木先生と一緒についてきたアサシンは、彼女の要望により席を外している。只アサシンだけ山門の警備をしてくると言ってそのまま外へ行って今この座敷にいるのは彼女と俺しか居ない。
正直に言ってメディアが下した決断には驚いている、其処までして聖杯戦争に勝ちたいという意志が篭められていて、仮令下手な作戦でも自分の勝利の為ならば手段を選ばない。正にそういう感じである。


然し乍ら俺は彼女の決断に有無の言葉が出ない。というよりこのまま彼女にアサシンのマスターの権利を引き渡すわけには行かないのだ。俺にだって叶えたい願いが一つ二つある、その願いを今更ノコノコと引き下がるわけにも行かない。




「……正直に申し上げますと、俺は貴女にアサシンのマスターの権利を引き渡すわけにはいきません」

「……貴方ならそういうと思いました。ですが貴方は私の宝具の事を良くご存知ないでしょうですから」




と、彼女は何もないところから一つの短剣を取り出して握り締めているそれを俺の前に翳す。
非常に禍々しい形をした短剣だった、細長い刃が歪つな形をしてあり鋼色をしてある刃の色は禍々しい紫色をしていた。

いかにも“裏切りの魔女”の名として相応しい宝具、としか言いようがない。俺はその宝具を見て手に取ろうとはせず、只々その禍々しい輝きを放つ短剣を凝乎と見ていることしか出来なかった。




「これが私の宝具…あらゆる魔術による生成物を初期化す対魔術宝具破戒すべき全ての符ルールブレイカー…。これを貴方のサーヴァントに刺したら令呪とマスター権は全て私のものになるんです」
「……確かに裏切りの魔女の名に相応しい宝具だな。でもさ、アサシンでなくても俺に刺せばマスター権もサーヴァントも貴女のものになるんでは?」

「いいえ、宝具はあくまで対サーヴァント戦に使う武器…人間に宝具を使ったら殺すだけでなく禁忌を犯すことにもなるんです。ですからマスターである優香さんに宝具を振るってはいけないのです」
「成る程ね、だから俺が座敷に入っても貴女は宝具を一度も使わなかった……。禁忌という最大な罪を犯してしまうことになるから」

「えぇ…。今からでも考えを改めては呉れないのでしょうか?貴方は聖杯戦争に初めて参加した魔術師の身…この危険な戦争を回避出来るのは今しかないのです」




そう言ってメディアは宝具を仕舞いこみ俺の傍へ寄り、そっと手を掴むと顔を上げ訴えるような目で俺を見詰めて言った。
危険な戦争を回避出来るのは今しかない…確かに俺は聖杯戦争に初めて参加した魔術師で、実戦で戦える戦法といえば投影魔術とガンドと宝石魔術しか出来ない。とても凛の実力には敵わない。修行中の魔術師である。

だけど、俺には聖杯戦争を回避することが出来ない…如何しても知りたい理由があるのだ。その理由を一度も理解出来ないまま聖杯戦争を脱落するのは嫌だ…。折角自分が望んで召還したサーヴァントをこのまま手放すわけには行かないし、彼を裏切るわけにも行かないのだ。


俺は彼女の手を握り返し細いその手を離すと、一旦目を閉じ再び開くと彼女の顔を見て言った。




「ではこうしたら如何でしょう、朝・昼はサーヴァント同士の戦いはない。サーヴァント同士の戦いは夜だけ…なら朝・昼はアサシンを霊体化させて連れて行く、夜は柳洞寺の門番をさせるというのは如何でしょうか。それでもご満足頂けなかったら寺の周りに貴女の結界と俺の結界の二重結界を張る…それで宜しいでしょうか?」

「……本当に貴方は其処までして私にアサシンを渡したくはないんですね」
「俺が望んで召還したサーヴァント…此処で裏切ったりしたら微塵切りにされてしまうのでね」
「良いでしょう…その案、喜んで受けましょう。然し優香さんだけでなく宗一郎様の事も」
「勿論葛木先生の身もお守りいたします。あの先生は魔術師じゃなくて教師ですからね。貴女を助けた命の恩人に危険が着てしまったら貴女に殺されるかもしれませんし」

「あら、大丈夫よ。こうやって話がついた以上私は優香さんの味方ですからご安心を」
「そう言うのでしたら俺は甘んじて貴女の言葉を信じましょう」




彼女が柔らかな笑みで答えて来たので俺もふっと笑みで答えるとメディアに、では明日…と一言残して座敷を後にした。

座敷から廊下へ出たと同時に葛木先生が現れてきて、話は済んだか…と聞いてきた。素っ気無い言葉に対し俺はもう済みましたと学校にいるときと同じ対応で答えると、頼まれてきた本買ってきましたので、明日お渡ししても宜しいですか?と聞いてみると彼は眼鏡を直して、構わん…と短く答えて座敷に入って行った。


それを見送った俺は置石の上に置いた靴を履き番傘をさすと、雨の外を歩き出した。砂利の上を歩き乍らこのままだと雨が止むのは明日だなと今後の天気を予想していたら、何時の間にか帰路ではなく山門まで歩いていた。

だけど丁度良いかもしれない…俺は山門の下を潜り抜け柱に寄りかかって門の下で目を閉じて雨音を聞いていたサーヴァントに近寄る。




「雨空の次に雨音ですか…」

「ん…ユウ、キャスターとの話は済んだのか?」

「済んだよ…結果、引き続きお前のマスターは俺となりました」
「そうか…それを聞いて安心したぞユウ。引き続き私のマスターとなって」
「それは良かったな、俺は冷や冷やしたぞ。何しろ相手は魔女だから俺を蛙にして手足切断されるかと思ったんだから」
「然し蛙にならなくて済んだと思え。それとも本当に心が蛙になってしまったのか」

「んなわけねーだろう。それと明日一緒に学校に行くことになったからな…それとも嫌か?」
「……いや、寧ろその方が葛木殿とユウの護衛に腕が鳴ると言っても良い」
「素直に嬉しいと言えば良いじゃないか…」




そう言って俺はノックする手でアサシンの肩を小突くとその手で彼の冷たい手を握って、早々と帰って明日に備えて寝るぞーと言って彼を番傘の中に入れ引っ張ると真っ直ぐ帰路へ向かった。

そんな俺を彼は照れていて可愛いところがあると見たのか、くすくすと笑って風邪を引かぬようにな、と言った。それを聞いて俺は彼を見ずに風邪なんか引きません、と断言してザーザーと雨が降る外を走った。
■作者からのメッセージ
メディアさん登場。然しランサーの出番がまだ(ry

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