BLADE OF SWORD 第五夜 |
作者: 清嵐青梨 2009年04月27日(月) 01時00分27秒公開 ID:L6pfEASBmTs |
翌日アサシンを霊体化させて俺は同級生の衛宮士郎の家へと向かう。夜は柳洞寺の台所を借りて晩御飯の手伝いや自分用の夜食を作っているが、朝と昼は彼の家へ向かい朝御飯を集りに行くということをしている。 …集りに行く、というより彼女の作った御飯を食べに着たといった方が正しいのかもしれない。 朝のランニングと思い柳洞寺から走って数分、剣道場と蔵の屋根が見えたところで俺は足を止めて上がっている息を整えると長く続く塀を頼りに歩いていき、やがて向こうから見覚えのある虎柄のシャツを着た女性教師兼士郎のお父さんの知り合いが俺を見つけるなり、おっはよー高嶺くん!勉強は捗っていますかー?と相変わらずハイテンションな元気っぷりを発揮して腕を上げてブンブンと左右に激しく振る。確実に手を振っているのだが何故かその手が掌でなく拳なのは何故だ。 …絶対に俺を殴る気満々である、剣道を止めてしまった俺の事を今でもカンカンに怒っているのだ。一発殴って無理矢理剣道部へ再入部させる気だろう。 だけども俺は一度剣の道を止めた身…今更剣道部へ戻っていったって、高嶺お前なんで突然剣道部を止めてしまったんだよ!?と部長が涙目で俺に近寄ってわんわん泣き喚くだけだ。 本当なら剣道部を止めたくはなかった。然し聖杯戦争というものを知ってからにはこれ以上部活メンバーの皆に危険や迷惑をかけたくはない…だから剣道部を止めたのだ。 っと、此処で行き成りネガティブになるな俺。今は爽やかな朝に虎教師が手を振って挨拶しているのだ。此処はきっちりと挨拶を返すのが礼儀であろう。俺は冷静さを保ち乍ら襟元を正して彼女のところへ近寄る。 その時彼女の目がキラリンと光り、隙ありぃっ!と言って振っていた腕を俺の頭上へ振り下ろしてきた。勿論分かっていますよタイガー先生、貴女の行動は全てお見通しだ。迫ってくる拳を俺は空いた手でパシッと良い音を出して受け止める。 良しっと心の中で勝利の言葉を漏らした途端、彼女の口角がにやりと上げた時まだまだぁっ!と言って担いでいた鞄を下ろし、背中に仕込まれていた竹刀を取り出して片手で構え真っ直ぐ、確実に俺の頭上へ振り下ろしてきた。 しまった!タイガーの背中に竹刀を常備しているのを忘れてた!思わぬ不覚をとってしまった俺は観念して目を閉じて素直に竹刀の一撃を受けるのを覚悟した。 だがパシンッと音がしただけで頭上には竹刀の一撃が何処にも感じられない。そろそろと目を開いて見上げると竹刀は俺の頭上に届かず突如姿を現してきたアサシンの手に拠って受け止められていた。 竹刀の一撃をあっさりと受け止められて呆気に取られたタイガー先生の顔に俺は慌ててアサシンの服を掴んで竹刀を彼女に返すと少し距離を離して真っ直ぐ彼の顔を見る。 「アサシン…お前前触れもなく突然出てくるなよ!先生あんなに驚いてるじゃねーか!」 「いやいや、ユウが竹刀を受け止める気配もなかったものでな…代わりに竹刀の剣戟を受け止めたまでよ。然しユウもユウだな、振り上げてくる拳に気付いたのは良かったが竹刀に気付く 「う……そ、それはだな……俺の…そう、俺のミスだ。気付いたんだけどガードする時機が遅かっただけなんだって、」 「高嶺くん、そのイケメンな人誰?芸能人?若しかして若手俳優?」 と、後ろからきょとんとした顔をしたタイガー先生がじろじろとアサシンを見てきて聞いてきた。 そして即座にしまった…と俺はとてつもない失敗を侵してしまった、令呪も使わずに突然サーヴァントを出してしまったら魔術師は兎も角一般人の前で如何説明をすれば良いのか分からない。もう頭の中がパニクってしまっている。 どうやって対処すればいいのだろうか、かといって一般人に忘却魔術をかけてしまっては協会にバレてしまうし…あぁもう、本当に如何すればいいんだよ! 半分自暴自棄状態になっていた時、アサシンが無言で俺の肩に手を置いて俺を此方へ向かせる。私に任せろと彼の目がそう言っているのを直感で感じた俺は勝手にしろ、と短く返答すると承知したと言い俺の肩から手を離すとタイガー先生に近寄ってそっと手を差し伸べる。 「初めまして、私はユウの父方の知り合いに当たる津田小次郎と申します。以後お見知りおきを」 「はぁ…高嶺くんのお父さんの知り合いですか。これはご丁寧に初めまして。今回如何いった経緯で高嶺くんと…?」 「実は私、彼のお父さんの遺言により彼の保護者代理としてこの冬木町に引っ越してきたのですがまだ学校の方に報告していないもので、本日学校に行って保護者の名前を変更と同時に挨拶をと思い伺いに来たわけです」 「ははぁ、保護者代理の方ですか…。ハッ、た、高嶺くんの保護者に向けて竹刀を向けてしまいすみませんでした!」 「いやいや、御仁の鮮やかな剣捌き…実に見事でした。正直言って感服致します」 「いえいえそんな、立ち話も難ですし若し良かったらご一緒に御飯を召し上がっていてください。それでは高嶺くん、先生は先に士郎の家に入るからねーっ!」 タイガー先生…もとい、藤村先生はほんのりと顔を真っ赤にし乍ら先に士郎の家へ入って行った。多分アサシンの分を用意して呉れと士郎の後輩の間桐桜のいる台所へ向かったに違いない、少なくとも彼女が士郎の家に入って早々向かうところは必ず台所だ。 然し……俺は上目遣いでアサシンを見ると、保護者代理とはなんだ保護者代理って、と先ほど彼が発言した台詞に意見すると彼はふっと笑みを浮かび、ユウはまだ十六と葛木殿に聞いたのでな…と言い返す。 「だけどその“津田小次郎”って…態々偽名を使うか?普通に“佐々木小次郎”でも良かったのに」 「言ったであろう“佐々木小次郎”という人物は存在という殻を被った只の 「…うーん…俺にはタイガーが幽霊見て驚いた顔が思い浮かばないなぁ…多分竹刀で問答無用!と言って振りかかって来るかもしれないよ。少なくとも俺はそう思う」 「ははは、ユウはそうかもしれないが私は怯えて腰を抜かしてぶるぶる震えている姿を私は思うんだが…却説どちらが真偽だろうな」 「さぁ……っと、こんなところで悩んでないで早々と朝御飯食べようぜ。俺の後輩が作った御飯、凄く美味しいんだぜ」 「ほぉ…それは期待しておこうかな、然しユウの友達の家はとても広い敷地をしておる……夜此処で月見を楽しむのも悪くはないな」 「って、お前は相変わらず花鳥風月が好きなんだな」 塀越しで士郎の家を眺めてぽつりと言葉を放ったアサシンに小さな溜め息を吐くと、彼の手を掴んで早々と彼の家の門を潜り抜け彼の家に上がった。靴と草履を揃えて廊下を歩いていくと硝子張りの窓がある明るい廊下に出る。其処に丁度台所と座敷がある部屋の障子があり、其処に近寄って躊躇わずその障子を開ける。 顔だけを中に入れ座敷のテーブルに並べられた朝御飯の数々を見る、相変わらず豪勢な朝御飯だな…と野菜や肉などを使って作られた料理を見ていると、台所から摘み食いは駄目ですよ高嶺先輩、と可愛い声が窘める。 俺はそろそろと座敷に入り其処でずっと掴んでいたアサシンの手を離すと、彼は無言で座敷内へ入る。 ほら桜ちゃん、この人が高嶺くんのお父さんの知り合いで津田さん。すっごいイケメンでしょー?と何時の間に台所にいたのか、藤村先生がアサシンを見て桜に耳打ちをする。其処、耳打ちしても丸聞こえですよー。 でも桜はアサシンを見て、大丈夫ですよ。今回余分に多く作っちゃったので津田さんの分もありますよ、と相変わらず天使のような可愛い笑顔でそう言った。くぅ、可愛すぎるよ桜ちゃん。君のその笑顔に俺の心はいつもKOだぜ。 と、そんなことを置いといて座敷内に士郎がいないことに気付きまた蔵にいるのか…と想定してはぁーっと溜め息を吐くと、先輩なら私が呼んできますから藤村先生と高嶺先輩と津田さんはお先に席に座っていてください、と言って彼女はエプロンを取って丁寧に畳んで炊飯器の隣に置くと士郎のいる蔵へ向かった。 その小さな背中を見送ると、それじゃ先に席に座って士郎が来るまで待ちましょーかー!と言って朝御飯を目の前に意気揚々とした藤村先生が自分の場所である桜の向かい側に座る。 そういえばアサシンの席の分がないな、と気付き俺は押入れから座布団を一枚取り出すと俺の席の隣に座布団を敷くと、 それに習って俺も彼の隣に座ると彼の耳元に唇を寄せて藤村先生に聞こえないよう小さな声で言った。 「学校に着いたら人目につかないところに移動して霊体化しなくちゃいけないからな、だから早めに朝御飯を食べて朝の進学補習があるから先に行くと言う…万が一藤村先生がお前と一緒に行くと言ってくるかもしれないからその時は」 「丁重にお断りする…女性の頼みには正直断りたくはないがいま仕方ない」 「そうガッカリするなよ、学校でも会えるんだからさ」 「まぁな…ところでユウはあの桜という女に恋心を抱いてはあるまいな…?」 「…おい、今は朝御飯の後の行動について話してるんだよ?それがなんで桜の話に切り替わるんだよ、」 「悪ィ、遅くなっちまった……ってユウ、その人誰だ?」 と、話が終わらないうちに障子がガラッと開いて俺の友人・衛宮士郎が青い作業服ではなく学校の制服姿で食卓に現れてきた。でも彼は席に着く間もなく直ぐに俺の隣にいるアサシンに気付き、俺に彼の詳細を聞いてきた。 しまった…そういや未だ此奴には“津田小次郎”の事を話していなかったんだった…。輝かしい朝御飯の前に先ずはそれからだな、と俺はそう思い不審にアサシンをじろじろと見る彼に向けて俺は彼を紹介した。 無論、“佐々木”名義ではなく“津田”名義で。 |
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