BLADE OF SWORD 第六夜
作者: 清嵐青梨   2009年05月03日(日) 00時53分36秒公開   ID:L6pfEASBmTs
その日の放課後、俺はこっそり誰もいない職員室に入り自分の個人情報を探してみると保護者名が父親の名ではなく“津田小次郎”という名が記されていた(但し名前の後ろに「保護者代理」と書かれてあった)。
予め葛木先生が変えてくれたのだろうか、或いはメディアの魔術で名前を擦り変えて呉れたのだろうか、却説どちらが真偽だろうか考えている場合ではなかった。

折角進学補習の休みを狙って夕方の職員室へ忍び込んだ甲斐があったようなないような…複雑な心境で職員室から出て一人廊下を歩き出し生徒玄関へ向かう。この時間帯だと既にアサシンは柳洞寺に着いて門番しているだろうし、凛は儀式の準備のため早めに家に着いて準備に取り掛かっている筈だ。


誰もいない夕方の学校だと少し寂しい感じがして不安だな、と思うのだがいざという時の為に木刀に強化魔術を施したのだ。サーヴァント対策の一つや二つでもして置かなければ絶対に生き残りは出来ないだろう。

念のため校内に怪しいところはないか確認する為、竹刀を仕舞いいれておく袋から木刀を取り出し鞄を生徒玄関の下足箱の傍に袋と共に置いておくと、利き手である右手に木刀を持ち一階廊下を歩き回る。




既に日が東へ傾いて赤々と燃えるように街を照らし出している日光が廊下の窓硝子に差し込む。廊下までもが赤々と鮮やかな色彩を彩っていて丸で火の道を歩いているようにしか思えない。
それは置いといて俺は教室の一室一室隅々まで怪しい箇所がないか確認し回っていたら夕日が向こうへ沈んで行って気がつけば既に三階の教室の見回りを終えていた。

結局怪しいところはなかったしサーヴァントの気配もなかった…俺はふーっと安堵の息を吐いてガラガラと教室の引き戸を閉め、鮮やかな色彩を徐々に失い段々暗くなっていく廊下を見る。


此方もそろそろ帰らなければと思い生徒玄関へ向かおうと足を動かした時、身体中からビリビリと静電気が迸るような感覚に襲われた。それが相手の視線だと直ぐに気付き、右手に握り締めている木刀を一層強く握り締める。

この近くにサーヴァントがいる…俺は警戒心を鋭くさせ辺りを見回す。一体何処から此方の動向を見ているんだ…、一歩一歩歩き乍ら回りをきょろきょろさせる。若しサーヴァントが現れなかったら階段まで一気に走れば良い、いざという時は令呪を使ってアサシンを呼び出せば直ぐ片がつける筈。




その時だった、背を向けていた場所から殺気を感じ振り向くと紅い目が視界に映りその隅が自身へ迫って来ようとする紅い槍を捉える。俺は襲い掛かってくる紅い槍を強化魔術を施した木刀で一撃を受け止めると弾き返し、相手の距離を2・3メートル離しておくと、顔を上げて相手の姿を観察する。

自分より身長がやや上の男だった。肩まで伸ばしている青い髪を後ろに束ねており、獣のような紅い目が爛々とした輝きを放っている。丸で飢えている野犬のようだ。全体的に青い服を纏っており右手には自分の身長より倍くらいはある紅い槍を持っていた。


俺は凝乎と相手を注視していると、中々反応が良かったぜ、と男はにっと口角を吊り上げて笑みを浮かべて言った台詞に、どうもと短い返答を返すと握り締めている木刀を構え持つ。




「それで?如何いった事情で俺のところに着たんだ、槍士ランサー?」

「ほぅ、俺のクラスをご存知だとは有り難いねぇ…っつってもこれ持っているから直ぐに分かっちまったか」
「当たり前、だけど俺は真名を知らないんでね…悪いけど俺を倒すのなら冥土の土産として真名を教えちゃくんねーかな?」




そう言って余裕の笑みで返すと相手が如何動くか動向を窺っていたら、彼は俺の台詞を聞いてきょとんとした表情で、何言ってンだお前さん、と逆に聞き返された。

戦いに来たというわけではないのか…俺は、え?と短い返事を返すと男はその様子を見て、はぁ…と短い息を吐き捨てると俺はマスターの命令でお前さんのところに顔出しに着ただけなんだよ、と返す。




「マスターの命令で…。へぇー、早速マスターの命令でやってきたのか。それで、俺を倒しに着たんじゃなかったら何しに来たんだよ」

「単刀直入だな、ま…そういう性格は嫌いじゃないんだけどよ。俺がお前さんのところに来た理由は、」




これをしに着ただけなんだよ、と言って一瞬だけ俺の視界から消えたかと思いきや行き成り背後に回って右手首を掴み捻らせ右手から木刀を落とすと、そのまま俺を壁に押し当て両手を左手だけで頭上へ纏める。

彼の思わぬ行動に俺は抵抗しようと足を彼の腹目掛けて蹴り出そうとしたが、その一撃を右手であっさりと受け止められてしまい、威勢だけは立派だな、と完全に身動きが取れなくなった俺に向けて言うと、右手首をガリッと齧り其処から出た自分の血を吸い出す。


行き成り自分の手首を噛み切って何する気だ…俺は只々その行動を見て此処から抜け出せる解決策を考えていたら、顎を掴まされ無理矢理顔を上げさせると血で紅く濡れた唇でそっと俺の唇を重ね合わせた。

思わず目を見開いて近すぎる男の顔を見やる。行き成り自分の手首を傷つけ血を吸い出したと思ったら、無理矢理顔を上げられ突然キスしてきたかと思いきや舌が歯列を割って進入していき、口内から生暖かい血が流し込まれた。


生々しい血の味を感じ思わずガリッと相手の舌を噛む。突然感じてきた微痛に彼は目を顰めると唇から離し、同時にツ…と口角から伝う一筋の血を舐め取ると再びニッと笑みを浮かばせる。




「仮契約は完了した、これで晴れてあんたは俺の仮マスターものだ」




有り難く感謝しろよ、と言って彼は手首を押さえつけている手を離すと俺に背を向けてその場から風の様に立ち去って行った。


そのまま俺は見送ることなくズルズルとその場で腰を抜かしたかのように座り込むと、キスされた唇を手で覆い隠すとありのままに起きた今の出来事を一から順に思い出していた。

仮契約…仮マスター…聖杯戦争でそんなルールなんか設けられていたなんて知らなかった。俺は今でも喉に残っている生々しい血の味に咽せ血を吐き出そうとしたがもう既に奴の血は身体中を駆け回っているようで中々吐き出すことが出来なかった。


俺は涙目で今でも脳裏にくっきりと残っている奴の顔を思い出すと、次に会ったら絶対に反抗してやると心に誓うと木刀を掴んで既に暗くなってしまった廊下を走った。






















------------------------------------------------





「ランサーの仮マスター……それをキャスターには話したのか」

「いや、お前に話したのが初めて。それにキャスターにばらしたら裏切ったと勘違いされてしまうかもしれないから話さなかったんだ」




柳洞寺の山門で門番をしているアサシンに早速今日起きた出来事を話すと、彼は気難しそうな表情になり、ふむ…と一言唸ると黙って俺を見ようとはせず只々向こうを見詰めていた。

解決策を練っているに違いない、然し既にランサーの血が体内に取り込まれた以上どうやってサーヴァントの血を無理矢理抜き出せようとする策を練ろうと考えた案はどちらも不可である。ならこのまま奴の仮マスターとして二人のサーヴァントを使役するしか術は無いのか。


矢張りこのまま奴の仮マスターとして聖杯戦争に挑むしかないな、とアサシンは俺を見て俺と同じことを言うと、今日の出来事で非常に当惑している俺の表情を見たのか、彼はそんなに悩むことは無い、と言ってそっと俺の髪に触れ撫でると俺を此方へ向かせるよう促す。

それに従い彼の顔を見ると彼は、マスターの責任を感じているようだがそう深く落ち込むことは無い、と言って髪を撫でた手を頬へ移動し優しく撫で下ろす。




「ユウの傍にいなかったこと、そしてマスターを守れなかったことに私は充分反省している。若しユウの傍にいたならば直ぐサーヴァントと向き合い刃を交えることが出来たに違いない。だけど結果は不運にもマスターを守ることが出来なかった……その事実に反省しているし後悔もしている、マスターを守ることが出来なかった責任を充分に感じている。けどユウまで責任を感じることはない、こういう事実になってしまった以上、お前は二人のサーヴァントを使役しなければならない責務を果たさなければいけない」

「…そういうお前まで後悔するなよ、後悔しているのは奴の仮マスターになってしまった俺の方が後悔しているからさ…だから何もマスターの守ることが出来なかった責任とか、今日の出来事に反省と後悔をしているとか、何も其処まで自分を責めることなんかしなくても良いよ。けどお前の言うとおり、こういう事実になってしまった以上、俺はアサシンとランサーの二人のサーヴァントを使役しなければいけない責務を果たさなければいけなくなったな」




そう言って俺は頬を撫でているアサシンの手に触れ優しく握りふっと優しい笑みを返すと、彼はその表情を見て目を閉じてふっと笑みを浮かべ、……マスターに慰めて貰えるとは、私も未だ未だ甘いなと言って俺の手を優しく握り返すと、ところでランサーはどんな方法でユウを仮マスターにしたのだ?と聞いてきた。

その問いに俺の脳裏は再びあの衝撃的なシーンが蘇ってきた。俺はそのシーンを思い出してしまい、再び目を潤ませアサシンの顔を見ると彼の懐に飛び込んで、彼奴あいつに俺のファーストキス奪いやがった〜!と涙声で彼の着物を掴むと、アサシンはそれを見兼ねたのか再び俺の髪を撫で、良し良しそう落ち込むな、と俺に向けて慰めの言葉をかけた。




うぅ…ランサーの野郎…次にお前に会った時は絶対に…絶対に八つ裂きにしてやる!勿論木刀じゃなくて日本刀で。
■作者からのメッセージ
※1位・ランサー、2位・小次郎、3位・アーチャーズという清嵐的Fateで好きな男性キャラランキング。

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集