BLADE OF SWORD 第八夜 |
作者: 清嵐青梨 2009年05月05日(火) 23時47分49秒公開 ID:L6pfEASBmTs |
「良し…これでOKだろ」 右端の床を濡れ雑巾で一直線に拭き終えるとバケツの中を覗き込み水が薄黒く汚れているのを見ると、雑巾をバケツの縁にかけ水を捨てに外へ向かう。 ザバーッと下水道へ流れゆく水を見送り、水場に繋がれているホースから清らかな水を出すとバケツの中と汚れた濡れ雑巾を洗い、再び水を含んだ雑巾を絞り水気を完全に落とすと再びバケツの縁にかけ水場の傍に置く。 其処でうんと背伸びをして身体を和らげると段々沈んでいく夕日を眺める。夕日が沈んでいくまで床掃除や道着・防具の整理をしていたのだなと振り返っていると、弓道場からドタドタと足音が聞こえてくるのを耳が捉えると、まだ誰かいるのかと思い早々と鞄と脱いだ制服の上着を持って弓道場へ向かう。 勝手に上がりこんで道場を覗き込むと其処には先ほど俺がやっていたと同じ濡れ雑巾で床掃除をしている士郎がいた。然し掃除をやっている彼の表情がなんだか楽しそうな表情をしていて、思わずその表情を凝乎と見詰めていた。 と、彼がようやく顔を上げ此方を見て俺を見つけると、あれ…ユウ、お前剣道場の掃除終わったのか?と聞いてきた。 突然聞いてきた質問に俺はハッと我に返り彼の質問に、あぁ、と短く答えるとお前こそなんで弓道場の掃除なんかしてるんだよ、と今度は此方から質問を投げる。彼は一瞬だけきょとんとした表情をし持っている濡れ雑巾に一瞥すると、あぁ…慎二に頼まれたんだよ、と言った。 「間桐兄にか?っはぁー、士郎はお人好しすぎる。なんでそう友人の言葉に甘いんだよ」 「あのなぁ、これでも一成に頼まれてテレビの修理を終えたばかりなんだ」 「あり、お前生徒会に 台詞が最後まで言おうとした時だった、校庭の方から金属音同士がぶつかり合う音が響き渡った。その音を逸早く気付いた士郎は脱いでいた上着を着て先に外へ飛び出して行った。俺はそれに遅れて彼の後についていく。 若しかしてもう既にサーヴァント同士の戦いが始まっているのか…だから凛はアーチャーと二人で今夜学校に残ってサーヴァントの戦火に飛び込んだのだ。昼間のことに全く気づくことが出来なかった俺は、不覚…と小さく呟いて自身を ぼうっと校庭で繰り広げられているその状況を黙って見ていることしか出来ない彼の前に並び、アーチャーは一体誰と戦っているのか目を凝らして見る。 凛のサーヴァントが持っている陰陽の夫婦剣を握り締めて一人のサーヴァントに立ち向かっている。但し彼が相手になっているサーヴァントを見て思わず息を呑んだ。 (ランサー…?) 陰陽の夫婦剣の刃を避けてアーチャーに向け紅い槍を振り下ろす青いサーヴァントに、俺はその状況を受け入れず只々繰り広げている戦いを見ていることしか出来なかった。 だけどなんで彼奴が此処にいるんだ…仮マスターは普通に本来のマスターに従うだけじゃなかったのか…。と、俺は一昨日彼奴に仮契約を交わした時彼奴が放った言葉を思い出す。 俺のものだと確かに彼奴はそう言った、なら自分のものに手を出す 彼はどうやら今の状況に驚き受け入れようとはしなかった、だけど彼はハッと我に返り俺の手を取ると、学校の中に逃げるぞ、と俺に一言放つとグイッと腕を引っ張り真っ直ぐ校内へ向かう。 「え…けど……あ、というかお前鞄は」 「そんなことより自分の身を守れ!兎に角急げ!」 士郎は必死な表情で言うと土足のまま生徒玄関を抜け一気に階段を駆け上り暫く廊下を走ると彼は壁に寄りかかりその場で座り込み、俺は壁に手をついて完全に上がっている息を整える。 流石に彼奴も此処まで来る筈はないな…額からツ…と流れ伝う冷や汗を手の甲で拭い取ると、士郎…お前、必死すぎ…と完全に息が整えてないまま士郎に向けて言うと、仕方ないじゃないか…あの場に居たら…確実に殺されるって…と彼も完全に息が整えてないまま俺に向けて言った。 「それに彼奴が持っていた槍…あれって絶対に殺人事件に使われていたものと一致するんじゃないか?」 「槍……あぁ、そういえば殺人事件に使われていた凶器が槍か薙刀で………真逆士郎、彼奴がその犯人だと言うのか?」 「それしか思い浮かばないじゃないか、それに彼奴は確実に俺とユウを」 「俺が如何した…小僧」 と、俺の後ろから低い声が聞こえた。でも吐き出された台詞は俺ではなく確実に士郎に向けられた台詞だ。それにさっきから感じてくる殺気も間違いなくあの戦いを目撃した一般人の士郎に向けて放っていた。 俺はその場で固まったまま振り向こうとはせず、代わりに士郎の前へ近寄る青いサーヴァントを横目で見る。青色の瞳に映ったのはあの時と同じ爛々とした輝きを放つ赤い目を持つサーヴァントの姿だった。 士郎の殺す気だ…俺は目の前で彼奴を見て目を見開く友人を助けようと手を伸ばそうとしたが、その手は友人には届かずサーヴァントの行動を止められず、ランサーは紅い槍で士郎の心臓を一突きすると、彼の身体から槍を抜いて彼の身体をうつ伏せにさせ槍を抱えもつ。 行くぞ…と今度こそ俺に向けて一言放つのだが俺はその言葉を受け入れず、只々動くことの出来ない友人を見詰めることしか出来なかった。 そっと彼に向けて手を差し伸べようとしたが、その手は届かずランサーは行き成り俺を抱えるとその場を後にしようと足を進める。 ふと彼は抵抗してこない俺に疑問を抱いたのか、外へ向かっている間彼は呆然とさっきの光景から目が離れない俺に向けて言った。 「……なんであの時のような抵抗はしねーんだ、友人の死がそんなに信じられないのか」 「信じられないのはそうだけど……なんで仮マスターの俺に構うんだよ」 「仮マスターでも気に入っている相手なら俺のものになるんだよ」 「なんだよそれ……そっちの方が信じられんよ」 ようやく寒く暗い外に出るなり俺はそっと指で額に触れそのまま右半分を覆うように被せ言い返すと、そうかい、とランサーは短く俺の台詞を言い返し俺を抱えたまま跳躍し電柱の上を駆ける。 このまま俺を彼奴のマスターのところに行って顔を合わせることになるのか…そう思っていたのだが、明らかに彼が向かっているところは見覚えのあるルートだってことに気付き思わず彼に抱えられたまま身動ぎする。 「何処に向かっているんだよ、明らかにこの道は士郎の……」 「気付いてねーのかよ…如何いうわけか俺が殺したあの小僧が生きている匂いがしているのによぉ」 「生きている……?なんで、」 と、ようやく此処で彼が戦っていたもう一人のサーヴァント・アーチャーの存在を思い出した。アーチャーがいるということは当然傍にはマスターである凛がいる。ということは凛が死にかけている士郎を見つけて魔術で彼に再び生を与えてあげたに違いない。 でも士郎の家に行くのなら俺も当然連れて行く筈、然しマスターを自分の傍にいさせては自分は只の足枷にしかならない。なら足枷にならぬよう、そして相手のマスターの正体を隠すほうが自分にとってはかなり得になり得るかもしれない。 「ランサー、俺を何処か安全なところに下ろして呉れないか?」 「なんでだ、真逆一人で逃げるっていう卑怯なことは」 「しないよ。俺が居ちゃ足枷になっちまうくらいにしかならないから、」 「つまり…俺の仮マスターの正体をあの小僧にはばらしたくはないんだな」 「分かって呉れて結構。…あと、深追いはするんじゃねーぞ」 「了解した」 そう言って彼は向かおうとしている進路を変え一画の公園に着地し俺を此処で下ろすと、じゃまた後でな、と背を向けたまま言うと再び夜の空を飛んで士郎の家へ向かった。 ぼんやりと浮かんでいる青白い満月に彼の黒い影が一緒に映り、なんだか絵になるような図が浮かび上がった。 却説、此処で彼奴の帰りを待たなければいけないわけだが……俺はうーんと低く唸り声を上げて腕を組みベンチに座り込む。 今更弓道場に置いてきたままの鞄を取りに再び夜の学校へ戻りたいのも山々なのだが、無闇に夜の道を歩いては何時他のサーヴァントが襲い掛かってくるのか分からない。 明日一番に鞄を取りに行かなきゃいけないか…俺は背中に ランサーが戻ってくるまで自分の身は自分の手で守るしかない…そう決断し俺は普通の木刀に強化魔術をかけておくと木刀を自分の傍に置くと青白い満月が照らしている夜空を見上げた。 と、行き成りふわりっと冷たい でもなんとかそれに堪えきると木刀を持って殺気が放っている場所へ向かった。だけど殺気を放っているサーヴァントの気配は近づくにつれ其方も丸で此方が近づいてくることを予想していたかのように行き成り気配が立ち止まる。 それに気付いた俺は上がっている息を整えて何処にいるか周囲を見回すと、背を向けていた場所から、こんばんわ、お兄ちゃんと女の子の声が聞こえた。振り向くと5メートルほど離れた場所に白く長い髪をした赤目の女の子とその隣に居る赤い目と黄色い目を持つ巨人が立っていた。 俺を見下すように凝乎と表情を見せずに見詰めているその巨人の双眸からは先ほど感じた殺気を帯びていた。早く目の前の人物を殺したい…正しく殺人を犯したいという意思が篭められていた。 真逆な…俺はふっと笑みを零すと木刀を肩に置いて軽く叩くと優しく微笑している女の子に向けて聞いた。 「こんばんわ、お嬢ちゃん。君が引き連れている巨人は若しかして 「うん、当たりだよ。序でにお兄ちゃんのサーヴァントも当てようか?ズバリ、 「……正解。でも俺は、」 「うん知ってるよ。ランサーと仮契約してるんでしょ?イリヤ、お兄ちゃんの仮契約の瞬間の一部始終を見てるもの」 「へぇー、イリヤって言うんだお嬢ちゃん。でも勝手に盗み見しちゃ行けないなー」 「えへへ、御免なさい。でも今のお兄ちゃんはサーヴァントも連れてきていないからイリヤにとっては絶好の 「つまりお嬢ちゃんは…俺を殺すために態々俺のところに来たんだ」 「うん。そうだよ…それでね、お兄ちゃんの令呪をイリヤのものにするんだよ」 そう言って彼女――イリヤはニコッと俺に向けて小悪魔の笑みを浮かぶと、隣にいた狂戦士が咆哮を上げ跳躍し、片手に持っている巨大な石剣を俺に向けて振り下ろしてきた。 矢っ張り此処で戦わなきゃいけない羽目になっちゃったな…俺は決死の覚悟を抱き強化魔術を施した木刀で石剣の一撃を上手く受け止めるとその石剣を押して振り払うと此方も跳躍し巨人に向けて木刀を振り下ろした。 |
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