BLADE OF SWORD 第九夜 |
作者: 清嵐青梨 2009年05月06日(水) 23時09分18秒公開 ID:L6pfEASBmTs |
巨大な石剣が一瞬左腕を掠めて行ったが掠めた左腕からは一筋の血がツ…と滴り落ちて行った。掠ったのは今ので二度目か…俺は数分前から流れ出ている右頬の血を手の甲で拭い取ると、肩で息を整え乍ら興奮の冷めない巨人を再び見据える。 開始してから何分経ったのだろうか、巨人の石剣を避けてはその隙を狙って振るっているのだが石の様に硬い身体に傷一つ付けられず、強行手段として使ったガンドも丸で歯が立たない。 チッ…と舌打ちをするとその様子を嬉々と見ていたイリヤが、無駄だよお兄ちゃん、と可愛い声で俺を指差すと小さくほくそ笑む。 「そんな小さなものじゃ私のヘラクレスに傷一つ付けることなんか出来ないよ」 「ヘラクレス…ギリシャ神話の大英雄を引き当てるとは、なんと幸運の強いお嬢ちゃんだこと」 「褒め言葉なら有り難く頂戴するわ、でもそんなことを話しているうちに…」 ほら、次行っちゃうよーっとイリヤがニコッと笑みを浮かべた時バーサーカーが再び咆哮を上げ石剣を振り下ろす。彼女の話にすっかりハマってしまっていた俺は直ぐに気持ちを切り替え相手を変えると、振り下ろしてくる石剣の刃を避けるが巨人は手を休まず次々と石剣を かなり乱暴に振り回す石剣の刃を避け乍ら相手の隙を見つけようとするが、相手はその隙を見せないかの様に上下左右から石剣を形振り構わず振り下ろして来る。 仕方ない…俺は石剣を潜り抜け相手の背後へ移動するとポケットから紅い宝石を一つ出し、バーサーカーの後頭部目掛けて投げる。 咄嗟にバーサーカーは後ろを振り向いたと同時に宝石が巨人の額を直撃した途端爆発した。クリアが当たった…俺はその隙を狙って一気に懐へ潜り込み、相手の右脇腹目掛けて木刀を振り下ろした。 バキッと硬い身体の受け身に耐え切れなかった木刀が二つに割れてしまったが、今のでかなりのダメージを受けた筈…俺はちらりと上目遣いで巨人の頭を見上げる。 クリアの爆破に拠って顔の殆どが吹き飛んでいた、確実にもう息はしていない。一瞬だけ勝利の光が見えたのだけども、イリヤが言っていたバーサーカーの真名を思い出した途端、見えてきた光が一瞬にして掻き消されてしまった。 殆ど吹き飛ばされた顔が丸で巻き戻されていくビデオテープの様に段々元の顔へと再生していき、ギラギラと輝く紅い目が俺の姿を映した途端低く唸り声を上げ一度緩んでいた石剣を持っている右手を再び握り締めると、俺の腹目掛けて刃を振る。 俺は咄嗟にポケットから紅い宝石を出して石剣の衝撃を緩和させようと石剣の刃の間に宝石を挟む様にしてその場で爆発を起こす。だけど一瞬だけ石剣の切っ先が腹を掠める様に他の傷とは違って少し切り傷の深い一筋の傷を残す。 巨人から2・3メートル距離を取り左腕で腹の傷を抑えると、チッと二度目の舌打ちをする。惜しかったねぇ、とイリヤがニコニコと笑みの絶えない表情で俺を見る。 「あと一寸でお兄ちゃんの身体を真っ二つに出来る筈だと思ったのになぁ」 「…はは、冗談キツイこと言うなよお嬢ちゃん。俺だって未だ死ぬ運命じゃないからさ」 「そうかもしれないけど…お兄ちゃんの死ぬ運命はもうとっくに決まっているもの」 そう言って彼女はちらりとバーサーカーを見て、苦しませないようにトドメをさせなさい、バーサーカー!と鉛色の巨人に向けて命令を下す。その命令に従う様に巨人は俺を見下し、高々と石剣を持ち上げる。 …本当に此処で死んでしまうのか…。動かなければと思い感じてくる痛みに耐え乍ら後ろへ後退りしたのだが、背中に当たったのは冷たい電柱だった。此処から逃げようとしても既に疲れきっている足は其処で動こうともしないし、何度も石剣の重みに耐えていた左腕も棒切れのように動こうともしない。 アサシンを呼ぶしか打つ手はない、か…。俺はふっと笑みを零し疲れきった左腕を無理矢理動かして令呪のある右腕をギュッと掴む。 巨人はそれが“死”を覚悟したかという合図に思えたのだろう、低い咆哮を上げると持ち上げた石剣を思い切り振り下ろしてきた。 その時だった、その間を割って入ってきた青い影がサッと俺を傍らへ寄せると左足に一瞬の力を篭めその場から素早く避ける。突然現れてきた別のサーヴァントにイリヤは、え?と目を丸くするとバーサーカーがいる場所からイリヤの背後に移動する。彼女は恐る恐る自分の後ろに居るサーヴァントへ視線を向ける。 俺は令呪を抑えていた左手を緩んで腕を下ろし、遅い…と隣にいるサーヴァントに向けて一言かけるが、本人は離れて行った俺のことを相当心配したらしく、勝手に一人で逃げて行ったかと思ったぜ、と言い放つ。 「幾ら仮マスターだからって侮るんじゃねーぞ。それと、魔術師なのにバーサーカーに押し負けているじゃねーか、だらしねーなぁ」 「そういうお前こそ、真逆本当に深追いしてきたんじゃないだろうな?それで負け犬らしく主人のところに戻ってくるとは…」 だらしない…と、皮肉っぽく彼に投げかけると彼――ランサーはちらりと俺を見て、一々うるせー餓鬼だな、と此方も皮肉っぽく投げると黙って凝乎と此方を見詰めているイリヤを見る。 彼女は突然現れてきたサーヴァントに相当驚いているらしく紅い目を丸くしていると瞼を閉じて右腕を上げる。それがバーサーカーを霊体化させる合図らしく巨人はその合図に従って巨体の身体が段々夜の闇の中へと消えていった。 完全に消えたことを確認した彼女は瞼を開け再び俺を見る。 「本当は最後までやりたかったんだけど、次の相手を控えているから今日は此処までにしておいてあげるわ」 「つまり…此奴を見逃すのと言いてぇのか、嬢ちゃん」 「うん、残念だけどまた今度…次こそはちゃんとサーヴァントを連れてきてね、お兄ちゃん」 「…ユウ、高嶺優香だ。それが俺の名前だ、イリヤ」 「へぇー…良い名前だねお兄ちゃんの名前」 そう言って彼女はニコッと笑顔を見せると、じゃあまたね…ユウ、と言って可愛らしい身体を翻し背を向けると向こうへ行ってしまった。 最後まで小さくなっていく女の子の背中を見送っていたら、ズキッと腹から感じてくる疼痛に顔を顰めると相当無茶しやがって…とランサーは屈んで腹の傷を診ると再び俺を傍らへ寄せ夜空へと跳躍した。 傷の痛みで動くことの出来ない俺を態々送ってあげるらしい…。何気ない優しさに俺はギュッと青い服を掴み、俺の家…柳洞寺のところで居候してるんだ、と彼に言った。 「柳洞寺、か……。折角だからユウのサーヴァントの顔を拝みにでも行くかな」 「……許可した覚えもないくせに勝手に呼ぶなよ」 「俺と初対面の時は教えて呉れなかったじゃねーか、だから名前知らなかったんだよ」 「そういえば教えていなかったな、ランサーにだけ俺の名前……あとお前の真名知らないんだけど」 「そういえば教えるの忘れたな、クーフーリンって言ったら分かるか?」 「………御免、全然分からん。俺神話には興味なくて」 思わず小さく手を上げて上目遣いでランサーの顔を見ると彼は、はぁーっと溜め息を吐き捨て、馬鹿だろてめぇは…と小さく言い捨て真っ直ぐ柳洞寺へと駆けて行った。 |
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