交差する彼らの居場所  第四章『遭遇』
作者: 悠蓮   2009年05月24日(日) 00時18分49秒公開   ID:XnxKweJ8Y8w
【PAGE 1/2】 [1] [2]



 少女を必死に追っていくとそこは閑散とした路地裏だった。
 否、路地裏に人が少ないのは当たり前だ。だが、そこは異常といってもいいほど生き物の気配がしなかった。
 しかしそんなことも気づかないほど彰人は少女を追っていった。
 路地の一番奥まで来るとそこで少女――サモン・フェアリーは静止した。
「……」
 一旦呼吸を整え、彰人は彼女を見据える。
 そこでようやく彰人は気づいた。
「……追いついたけど、どうしよ……」
 昨日の箱は好奇心からだったはずだが、今回は正体も全て分かってる状態で追ってしまった。
 意味がないと分かっていたはずなのに。
 彰人がそうやって自分の行動の無意味さに気づき悩んでいると、ふいに少女の周りにいくつもの波紋ができ、

 そこから大降りのナイフがいくつも飛んできた。彰人に向かって。

「!」
 突然だったが防衛本能とはすばらしいもので、ギリギリのところで彰人はナイフをよける。
「なにが……」
 あったんだかと続けようとしたが、その前に上から声が降ってきた。
「こんにちは」
 その声のほうに視線を向けるとそこには大鎌を持った少女が佇んでいた。
 簡素なドレスを身にまとった、長い髪の少女。
 それだけならどんなに良かっただろうか。しかし、残念ながら手の中の大鎌を含め彼女には「異常」な部分が多かった。
 空ろな瞳、とがった耳。そして顔半分には本来そこにあるはずのものに成り代わるかのように何かが縫い付けられていた。
「……っ」
 見るものを畏怖させる異常の塊。それが目の前の少女だった。
「ふふ。魔道師でもないのに精霊《スピリット》を追ってるからどんな子かと思ったら……なるほどね。思ったよりおもしろそうじゃない」
 少女の言葉の意味を彰人は汲み取ることができなかった。自分のことを言ってるということは分かったが。
「自己紹介がまだだったわね。私はエイダ。獣の魔道師から聞いてるかしら?」
「なに……を……?」
「魔族のことよ。私がそうなのだけど」
 ……魔族。その言葉が実感を持つ。目の前の少女――エイダにピッタリな言葉だと彰人は思った。
「ねえ少年。私たちの仲間にならない? あなたの力、私はとても興味がある」
「え……」
「どうせ今の世界に居てもあなたは誰からも必要とされないわ。でも、私はあなたを必要としているのよ」
 そう言ってエイダはくすっと笑った。
 エイダのその言葉は彰人の精神を大きく揺さぶった。
 彼女の言った言葉は彰人が一番得たいと思っていたもの。甘い蜜。
「……どうする少年?」
「俺は……」
 誘惑に乗りそうになった彰人に声が聞こえた。

――ダメ……

 鼓膜を震わすようなものではなく心に直接響く声。
 彰人は少女に視線を向ける。エイダではなくサモン・フェアリーの方へ。
 初めて聞く声だが、彰人はそれがサモン・フェアリーの声だと確信できた。何故だかは自分でも分からない。
 改めて四枚羽の少女に目を向けると最初に見たときより様子がおかしい。
 顔色がどことなく悪い。表情もどことなく辛そうだった。
『魔族は精霊《スピリット》が消滅するほどの力を酷使するんだ』
 ヴェルの言葉が脳裏に蘇る。それが本当だとすれば彼女は……。
「断る」
「え?」
「あんたの仲間には……ならない」
「そう……」
 残念そうにエイダは目を伏せる。
「そう。それじゃあ……」

「ここでちゃんと殺しておかないとね」

「!」
 突如、エイダのまとう気配が一転した。
 今までエイダの姿形に畏怖することはあっても彼女自身に恐怖を感じることはなかった。
 だが今の彼女からは負の感情しか感じられない。多分これが殺気というものなんだろうと彰人は現実逃避する頭で考えた。
「じゃ、よろしくね」
 エイダはサモン・フェアリーに向かってそう言った。
 サモン・フェアリーの周りに波紋ができる。今度は最初よりもかなり多い。
「発射♪」
 何がそんなに楽しいのかと思える声でエイダはそう宣言した。
 ナイフが一斉に飛んでくる。
 慌てて彰人は避けようとする。が、数が多い。何十本ものナイフが飛んでくる。
「! ……っ!」
 そのうち一本が彰人の足を掠めた。激痛が走る。
「あらあら。その足じゃ逃げるのしんどいんじゃない?」
 楽しそうなエイダの声が聞こえてくる。
 エイダの言うとおり、日常では感じることのない痛みと恐怖で彰人はもうろくに動くことができなかった。
「じゃ次でちゃんと死ねるよねえ? さようなら」
 エイダが大鎌を振り回した。それを合図にサモン・フェアリーの周りに波紋が展開する。

……イヤ……イヤダ

 声が聞こえる。今にも泣きそうな顔を見ながら、彰人はどうしようもできなかった。
 ……本当にそうか?
 ゆっくりとナイフが出てくる。あぁ死んだなと彰人は思い、衝撃に備えて目を閉じた。



⇒To Be Continued...

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集