交差する彼らの居場所  第五章『決断』
作者: 悠蓮   2009年05月24日(日) 00時29分32秒公開   ID:XnxKweJ8Y8w
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 家に帰った彰人は、とりあえず救急セットにある道具を使い、ヴェルに簡単な応急手当てを施していた。
 人型なら病院に行っても良かったのだが、獣の姿で病院に行くのは危険だろう。
 幸い傷の治りが早い。それが暴走した魔道具の力なのかどうかは知らないが、このままなら命に別状はないだろう。
 応急手当てもひと段落して特にやることがなくなると、彰人は妙に不安に駆られるようになってくる。
 痛々しいヴェルの姿を見ながら思う。

 やはりこれは自分のせいなのだろうか、と。

 もし、あのとき自分が無闇にサモン・フェアリーを追いかけていなければ。
もし、あのとき自分で攻撃から身を守れていたのならば。
 今更考えても仕方のないことだが、それでも彰人はそう思わずにはいられなかった。
 後悔ばかりが頭をよぎる。
『……っ』
「! ヴェル!」
『……アキト?』
 そうしているとヴェルがいきなり目を覚ました。
「ヴェル! 大丈夫か?」
『……問題はない。いつものことだ』
「……そうか」
 ちっとも大丈夫そうには見えないがそれを言っても目の前にいる魔道師はかならず否定するだろうと彰人は思った。
『……すまなかったな』
「え?」
『貴様から目を離すべきじゃなかった。……精霊《スピリット》を感知できる存在を奴らが見逃すわけなかったんだ』
 悔しそうにヴェルはつぶやく。
「いや、俺が悪かったんだ……」
『?』
「俺が、その……」
『自分が勝手な行動をしたせいだとでも思っているか?』
「う、……うん」
『……気にするな。もともと俺が巻き込んだんだ』
「……え、俺が勝手にやったことだろ?」
『いや……』
 そう言うヴェルの声音はどこか昔を省みるようで。
『俺が……本来しなくてもいいことをしようとしたせいだ』
 その声は辛さで満ちていて。彰人は何も言うことができなかった。
『俺はこの体になってから魔道師をやめろって言われてたんだよ』
「!」
 彰人にとってそれは驚くことだった。
 あれほど魔道師として誇りを持っていたのに?
『魔族の襲撃は止められず、封印していた精霊《スピリット》達を奪われ。魔道具の暴走でろくに行動ができない体になった』
 これはヴェルの悲鳴だ。彰人はそう思った。
『役割も遂行できず、目の前で仲間たちが傷ついていくとこを見て……』
 ヴェルの話は続く。彰人は黙ってそれを聞いていた。
『助けようと手を伸ばしたらすでにこれだ』
 辛そうにヴェルは己の腕を上げた。
『だから俺は魔道師をやめろと言われた。けどそれを認めてしまえば俺は俺でなくなる』
「……」
『だから自分で勝手に行動するようになった』
「え?」
『移動現象の高等精霊《スピリット》、サモン・フェアリーなら俺の体の暴走した力を別に移動できるのではって考えたんだ。だから……』
「自分の力で探そうとした?」
『あぁ。サモン・フェアリー以外に保護優先の高い精霊《スピリット》がいたからいつになるか分からなかったしな』
 そこまで言って、ヴェルは静かに目を閉じた。
『その結果がこれだ。やっぱり俺は魔道師をやめたほうが良かったのかもしれない』
 そんなことはないと彰人は言うことができなかった。
 自分はそんなことで悩んだことはなかったから。
『アキト……』
「! なんだ?」
 さっきとは違う雰囲気を彰人は不思議に思った。
『もうすぐ俺の仲間の魔道師が来る。だからそれまで貴様は隠れていろ』
「え? えっとじゃあサモン・フェアリーは?」
 彰人の言葉にヴェルは言葉を詰まらせる。
『上の命令だ。精霊《スピリット》より特異体質の少年保護を優先しろと』
 一瞬なんのことを言われてるか分からなかった。
「特異体質って……俺?」
『あぁ。精霊《スピリット》の存在を魔道師でもないのに感知するのは今のところお貴様だけだ。けど……』
 そこでヴェルは言葉を切った。
『サモン・フェアリーはそうじゃない。移動の現象を関する精霊《スピリット》は他にもいる』
 その言葉に彰人は愕然とする。
 自分のために他の誰かが犠牲になる。
『……俺が勝手にやったことで貴様が傷つくことはない。だから隠れていろ』
 ヴェルの言うことは彰人にもよく理解できる。
 けど、それじゃあんまりに……
『アキト。もしこのことに少しでも不満があるなら……これからどうするか自分でしっかり考えろ』
 それだけ言うと疲れ果てたようにヴェルは眠りについた。





⇒To Be Continued...

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