これCry Lovers 第1楽章 誰だってスタートラインは一緒
作者: なぁび   2009年07月19日(日) 00時44分31秒公開   ID:te6yfYFg2XA
【PAGE 1/2】 [1] [2]










 昔から、好きなものは音楽だった。

 聴くのも好きだったし、楽器を弾くのも好きだった。

 いつだったか誕生日にキーボードを買ってもらったっけ。そしていつまでも飽きずに弾いてた。




 そんなことを思い出した、中2の春。


 教室の窓辺で一人佇んでいる少女がいた。

 「瑠姫るき、帰らないの?」
 「…ん…」

 彼女の名は瑠姫というらしい。本名、咲島さきしま 瑠姫るき
 彼女に話しかけるのは、ここらでは名の知れたお嬢様。水城みずき なぎさ

 「もう放課後だよ?」
 「あ、渚…」
 「ちなみに梗樺きょうかは補習だってさ。数学、宿題忘れたみたい☆」

 渚は力なく笑う。

 



 「わーっ、もう、俺に何着せようとするんですか!」


 そこに聞こえた誰かの声。次の瞬間、教室に誰かが入って来た。

 「何って、メイド服じゃないですか。見れば分かるでしょう?」
 「冷静にそんなこと言わないでよっ!俺男だし!」
 「あ、実晴みはる霧斗きりとじゃん」

 入って来たのは、二人の男子、実晴に霧斗。本名、倉本くらもと 実晴みはる桜坂さくらざか 霧斗きりと
 
 「あ、瑠姫さん、渚さん…」
 「何?霧斗さんってば実晴にメイド服着せようとしてるんですか?」
 「そうなんですよ。僕の趣味ではなくて、先輩、後輩、そして同級生からのリクエストでして」
 「だから、なんで俺なんだぁぁ…」

 なぜ実晴なのか。それは、全員一致でこの答え。

 「性格、見た目ともに女っぽいからでしょ」

 瑠姫がぶっきらぼうに言い放つ。

 瑠姫の言う通りなのだ。制服はブレザーだが、実晴の場合、肩幅が余っているし、髪の毛も耳を覆っているほどなので、なんとなく女の子っぽい。
 それに性格。何年か見てきたが、限りなく女らしかった。

 「だからってメイド服…なんで…」
 「だから僕はどうでもいいんですが、男子からの支持が大きいんですよ。その方々に言っていただけませんか?」
 「うぅ…男子にモテても嬉しくない…」
 「何が嬉しくないって?」

 そこに入って来たのは、先程渚が言っていた、梗樺――――本名、桜島さくらじま 梗樺きょうかだった。

 「あ、梗樺、おかえり〜」
 「おー、ただいま。なんで霧斗メイド服なんて持ってんの?」
 「実晴に着せないと僕が怒られるという一種の罰ゲームです」

 霧斗は、ポーカーフェイスだ。

 「じゃああたしも手伝おうか?」
 「そうしていただけるとありがたいのですが」
 「梗樺さんには力じゃ勝てませんって!」

 梗樺の家族は武道万能一家だ。家にいる兄も、父も武道が何かしら得意である。
 そしてちなみに、霧斗と梗樺ははとこである。男子でさえ梗樺に敵う者はいないという…。

 「実晴って何気女装すると可愛いのにね。そんじょそこらの女子より」

 その光景を見ながら瑠姫はぼそっと呟く。渚もそこは相槌を打つ。

 「ていうか女装してアイドルになったら売れそうだよね、実晴って」
 「私も思った」

 アイドル、か――――簡単なものではないけど、瑠姫は憧れていた。
 正確に言えば、バンドを組んでみたかった。

 「ねぇ、渚。バンド、興味ない?」
 「えっ?バンド?」
 「うん。この5人で。どうかな?ツインギターで」

 いつもは素っ気ない瑠姫の一言一言に、今日は希望が感じられた。

 「でも、難しいんじゃあ…」
 「大丈夫」

 弱気な渚に、瑠姫は笑ってこう言った。





 「誰だって、スタートラインは一緒なんだから。私たちだって、今、そこに立ってるの」












⇒To Be Continued...

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集