これCry Lovers 第2楽章 Play The Beat 瑠姫のパート |
作者: なぁび 2009年07月19日(日) 13時31分37秒公開 ID:te6yfYFg2XA |
音楽室。 先生に許可は取った。吹奏楽部員にも許可は取った。 瑠姫は今、スティック片手にドラムの前で一人佇んでいる。 久しぶりだ。ドラムを叩くのは。小学生の時、吹奏楽でやった経験がある。それ以来。 まずは、基本のエイトビート。自分のテンポから、徐々に慣れてきたらテンポアップ。 頭の中は不安でもそこは体がきっちり覚えている。だから、前のように叩くことが出来た。 「私のビートは、曲全体を支えるんだ」 それから、瑠姫はもともと持って来ていた小学生の頃の楽譜を取り出し、譜面台に乗っける。まずは基礎から、それからテンポの遅い曲からじっくりと練習していった。 キーンコーンカーンコーン…。 夢中でビートを刻み続ける瑠姫。が、ベルが鳴ってしまった。 生徒は速やかに下校しなければならない。 しかし自分の世界にハマり込んでいる瑠姫の耳にその音が聞こえる風もなく。 「おい、瑠姫!もうベル鳴ってんぞ?さっさと帰れよ!」 その刺々しい言い方でやっと目が覚める瑠姫。入って来たのは、 「…あれ、もうそんな時間?…やば!ご飯、作らないと!」 慌てて立ち上がると、瑠姫はカバンを掴み、すでに暗くなってしまった道を帰ったのだった。 ご飯も無事食べ終え、瑠姫はパソコンを開く。 特にこれといって用はないのだが、癖になりつつある。暇な時はネットサーフィン。 メールを開くと、今日は珍しく瑠姫宛てにメールが来ていた。誰が送って来たかと思えば―――― 『みんな元気かい?久しぶりだね、メールするの。 そういえば李玖、生徒会長になったんだって?…すごいなぁ、まるで妻じゃないか。 こっちは元気でやってるよ。最近はトムがうるさくって困ってるけどね。 それじゃ、僕は仕事に戻るよ。風邪とかひかないようにね。 From 千里 』 「勝手に育児放棄して出てった奴が何を言うか」 画面に一人突っ込む瑠姫。口ではこんなことを言いつつも、思わず顔はほほ笑んでいる。 咲島家は、いわゆるカカア天下である。――と、瑠姫は思う。 父、千里はいつだって母に負けてばっかり。仕事だなんだと家に帰ってくるのは年に数回。誰かの誕生日やら何かの記念日やら。 それでもお父さんはお父さん。瑠姫は、千里のことが好きだった。(決してファザコンではないが) 「そうだ。お父さんに、聞いてみようかな」 思い立ち、瑠姫は即座に文字を打ち込み始める。 『久々のメールありがとう。トムさん?新しい同僚?仲良くね。 ところで、相談なんだけど、私がバンドをやりたいって言ったらお父さんは怒る? まだお母さんには内緒。私が密かにやりたいだけ。 返事、ちょうだいね。それと、記念日とか忘れないようにね。 From 瑠姫 』 確認もせずに送信すると、今度は即座に返信が来た。 『瑠姫が、バンド?!…いいんじゃないか?僕は反対はしないさ。 だって瑠姫がやりたいんだろ?だったらいいよ。僕はね。ただ、決めたことなんだから途中で放棄しちゃだめだからね。そこさえ守ってくれればいいさ。 はは、記念日か。それもそうだね、忘れると後が…あ、これは妻には内緒にしてくれよ? それじゃあ、健闘を祈る。頑張るんだよ! From 千里 』 帰ってきた返事を見て、瑠姫はやっぱりお父さんが好きだなぁと思う。 反対したところですんなり受け入れる瑠姫でもないが。そこは誰に似たか頑固。 「私のビートは、曲全体を支えるんだ」 もう一度、自分自身に言い聞かせるため瑠姫は力強く言った。 すべては、ここから。 |
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