ポケモン不思議のダンジョン 二色の探検隊  〜 き ず な 〜
作者: なぁびandコマツ   2009年07月25日(土) 21時17分33秒公開   ID:te6yfYFg2XA
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 ――――時限の塔。

 無事、星の停止を食い止めることができた2匹――――ポッチャマとヒノアラシはトレジャータウンに戻るため、再び虹の石船を目指していた。

 これで、世界は救われた。やっとみんなに会えるんだ。会って、あった事を話すんだ。
 早く帰って、みんなを驚かせたい。「ただいま!」って、みんなを驚かせるんだ!
 ヒノアラシは、今すぐにでもかけだしたい衝動にかられていた。
 しかしそんな中、ふと振り返ると自分とは裏腹にパートナー・ポッチャマの様子がおかしい。
 ヒノアラシは足を止め、心配そうに声をかけた。

 「どうしたの、ポッチャマ。…ね、大丈夫?」

 すると、ポッチャマは口を開いた。

 「…だ、大丈夫だよ。私のことは、心配しないで?」

 とは言うものの、ポッチャマはその場を動こうとしない。ただひたすらにうつむき、あることに少なからず不安を持っていた。


 ――――未来から来たポケモンは、過去を変えると消えてしまう。

 それは、他人事ではない。
 なぜなら、ポッチャマ自身も未来から来たポケモン――――いや、もとはニンゲンだったからだ。


 ヒノアラシが再びポッチャマに声をかけようとした時、先にポッチャマが口を開いた。

 「あのね、ヒノアラシ…ひとつ聞きたいことがあるの。…私がいなくなったら、ヒノアラシはどう思う?」

 ヒノアラシは少なからず戸惑った。急にこんなことを聞かれたら、誰だって困るに決まっている。

 「え? ポッチャマがいなくなったら?」

 戸惑いながらもヒノアラシは考えてみる。

 (ポッチャマがいなくなる? 僕の前から? …そんなの)

 そんなの、考えられない。考えたくもない。

 2匹は、今までずっと一緒に旅を続けてきた。未来の世界に連れて行かれたこともある。
 すべてが順調だったわけでもないけれど、かといって嫌な思い出でもない。
 お互いがお互いを、信頼し合ってここまで来た。時には励ましたり、不安にさせたり、けんかしたり。

 (…でも、もし、もし君がいなくなるのなら…)

 「…そうだな、ポッチャマがいなくなったら、僕は…」

 そこでまたヒノアラシは考え込む。それが、ポッチャマの心を少し不安にさせる。

 どうして何かが順調だと何かが悪い方向に進むのだろう。

 時が狂わなくなれば、今度は2匹の運命が狂う。
 残酷な運命は、今に2匹を切り裂いてしまう。

 「…いなくなってもヒノアラシは平気だよね?だって強くなったもん。逢った時より、だいぶ…。だから、大丈夫だよね?」

 ヒノアラシよりまた先にポッチャマが言った。
 彼女はもう分かっている。もうすぐ、自分が消滅してしまうことを。
 だから、少しでも安心できるようにと笑顔で言ったつもりだった。けれども彼女の頬を一筋の涙が伝っている。

 「へっ!?えっあ、ぽ、ポッチャマ!?」

 ヒノアラシはあわててポッチャマの元へと駆け寄る。
 理由は分からないけど、ポッチャマが泣いているのは事実だ。

 大切な人に、泣かれて嬉しい人はいない。笑っていて欲しい。
 
 ――――いなくなってもヒノアラシは大丈夫だよね?

 (…そ、んなこと…!)

 ――――あってたまるか…!

 「ポッチャマ、違うよ。君がいなくなったら僕、絶対、平気でなんかいられないよ」

 ――――あ、違う。僕が言いたいのはこんなことじゃない。

 「僕は、君が幸せそうに笑っているのを見るのが僕にとって一番しあわせなことなんだよ」

 ――――だから、お願いだから、泣かないで?お願いだから、笑って…?

 「そうよ。私もそれは同じ」

 ポッチャマだって気持ちは同じ。これからもずっとずっとヒノアラシと旅をしていたい。
 本当は、過去を、歴史を変えるなんてしてはいけないこと。

 「でも…ジュプトルが言った言葉覚えてる?」
 「…ジュプトルが言ってた、言葉…?」

 ヒノアラシの脳裏に浮かんだのは。


 ――別れは辛いが…あとは頼んだぞ!――


 (あの、最後に言った言葉?)

 「言葉って、別れは辛い…ってこと?」

 (でも、なんで今、それを…?)

 そこでヒノアラシは自分でも考えたくもなかった考えに辿り着いてしまった。
 今、それを聞くのは、『もしも』が起ころうとしているから?

 「あのね、ヨノワールが言ってたんだ。歴史を変えると、未来から来たポケモンは消えてしまうんだって。それでね、私は――――…」

 次の瞬間、とんでもない言葉がポッチャマの口から飛び出した。







 「…未来から来たポケモンでしょう?」

 その言葉が、いったい何を意味するのか。ポッチャマが言いたいことは何か。

 「…………え…?」


 ヒノアラシは耳を疑った。

 未来から来たポケモンは消える。

 ポッチャマは未来から来たポケモン。





 つまり、それはポッチャマの消滅を意味している。


 「……そ、んな、嘘でしょ?」

 ヒノアラシは今、『そうだよ』の言葉を期待している。ポッチャマだって、『そうだよ』と言ってあげたい。

 (じょ、冗談だよね? きっと僕をからかってるんだ。だよね?)

 しかし、それは事実らしい。
 ポッチャマはそんなこと、冗談で言わない。それに、ヒノアラシをまっすぐ見つめるその瞳が、嘘ではないことを物語っていた。

 それでも、すぐには受け入れられることではない。

 「ヒノアラシ。今までありがとうね。貴方強くなった。私が保証、す…?!」

 涙ながらに話すポッチャマの体を、次の瞬間、無数の光が包み込んだ。

 とうとう、この時が、来たんだ。

 「…いやだよ。僕はポッチャマがいたから強くなれたんだよ!?」

 ポッチャマは、ヒノアラシが強くなったと言ったけれど、ヒノアラシは、ポッチャマが いたから強くなれた。いつも、どんな時も、ポッチャマがいてくれたから。

 でも、そのポッチャマは今。

 「ポッチャマがいなくなったら、僕、どうしたらいいかわかんないよ…」
 「しっかりしなさい!そんなんじゃ私が安心して消滅できないでしょ?!」

 弱気なヒノアラシにポッチャマは今までとは打って変わって強い口調で言った。

 「私、楽しかった。私、いっぱい迷惑かけたね。おっちょこちょいだから…。でもヒノアラシはヒノアラシで臆病すぎ!本当、よく探検隊やってこれたわね、ってくらい。…なんだかんだ言って、楽しかったよ」

 ポッチャマだって、ヒノアラシに笑っていて欲しかった。だからポッチャマも泣くのをやめて言った。

 「私は、笑ってるあなたが好きよ」
 「……な、んでそんなこと言うんだよ」

 そんなこと言われたら、ヒノアラシだって泣けなくなる。

 「もう、僕はそんなに臆病なんかじゃないよ!」

 ――――だって、君が僕を強くしてくれたから。



 別れは辛いって言うけれど、たしかにその通りだ。今、ヒノアラシの、ポッチャマの小さな胸は悲しみでつぶれそうなくらいだった。


 (…最後くらい、笑って過ごそう)

 ヒノアラシは決めた。


 「僕、ポッチャマに会えて本当によかったよ」
 「うん、私もよ。…ねぇ、『別れは出会いの始まり』って知ってる?だからきっと大丈夫」

 ポッチャマはほほ笑む。

 「これから、いろいろあると思うけど、ヒノアラシなら大丈夫だよね? ここから、生きて帰って、ここであったこと、話して欲しいの。もう、こんなことは二度と起こさないためにも…」

 言いたいことはまだまだあった。厳選しきれないほど、まだまだたくさんあった。



 ――――でも、もう、無理みたい。



 先ほどよりも今度はたくさんの光が彼女の体を包み込み始める。

 「…ポッチャマ…?!」

 もう、消滅の時が――別れの時が、来たんだ。
 本当は、泣きじゃくってすがりついて『消えないで』って言いたいけれど。

 (ポッチャマは、きっと望んでないよね)

 最後は男らしく。ヒノアラシは笑顔を作って、消えゆくポッチャマに叫んだ。



 「ありがとう! 大好きだよ! ポッチャマ…!!」




 「私も、大好きよ。今までもこれからもずっとずっと…大好き!」



 光の中で、ポッチャマも同じことを叫んだ。


 2匹が、固い絆で結ばれた瞬間だった。






 そしてポッチャマは、

         まるで、天使がふわっと消えてしまうように

                                             水に泡が解けるように





       
 ――――消滅していったのでした…――。








 「ポッチャマー! ポッチャマ―――――…!!」

ポッチャマが消えた後、今までこらえていた涙を一気に流し始めるヒノアラシ。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、ヒノアラシは歩き始めた。

 「…ぅ…ひ、っく…」

 すべては

 「…行かなくちゃ、みんなの元へ…帰って、このことをみんなに話すんだ…それがポッチャマの…ポッチャマの最後の願いだから…」


 彼女の最後の願いを叶えるべく。


 その一心で、彼は歩いていた。




 やっとの思いで虹の石船に辿り着き、足を乗せるとすぐに石船は帰還を始める。



 「時限の塔が、遠くなっていく…


                         ポッチャマが、ポッチャマが…離れていく――…」








 
こうしてポッチャマとヒノアラシは…見事使命を果たし…

 世界の危機を救いました

  また ヒノアラシは…崩れた幻の大地を踏み越え…

  ラプラスに乗り…無事 トレジャータウンに帰り着くのでした

  ヒノアラシはギルドに帰ってくると…みんなに今回の冒険のことを話しました

  幻の大地で起きたこと…時限の塔でのこと…ジュプトルやポッチャマのこと…

  もちろん 時の破壊を防ぐことができ…世界が平和になったことも…

  そしてヒノアラシはいろいろな場所で…出来る限り多くのポケモンに…

  今回あったことを必死に伝えたのです

  世界の平和を願うように…未来の平和を願うように…



  そうして月日は流れ…トレジャータウンにも平穏な日々が過ぎてゆきました

  そして今回の事件のほとぼりも…だいぶ冷めてきた頃――――…








 「あれ?ヒノアラシ、おでかけでゲスか?」

 夕暮れのギルド。
 そんな時間に出かけようとするヒノアラシにビッパは声をかけた。

 「うん。ちょっと散歩にね」
 「そうでゲスか〜。もうちょっとで夕飯だから早く帰って来るでゲスよ〜」
 「分かったよ」

 ヒノアラシは軽くビッパに手を振り、あの場所へと歩き出した。









 ――――クラブたちが泡を吹き、夕焼けの映える海岸。



 「うわ、きれいだぁ〜!」
 
 海岸は久しぶりに来たけれど、相も変わらず美しかった。

 「懐かしいな、最近忙しくて来れなかったし。…そういえば、最後に来たのって、いつだったっけ」

 ヒノアラシは記憶の糸を辿ってみた。

 「……そっか…前に見たのは、


    
                    ポッチャマと初めて会ったときだ――…」



 急に思い出した、懐かしいあの光景。

 「確かポッチャマはこの辺で倒れてたっけ。そうだ、ここからだ。ここから、僕たちのギルド修行が始まったんだ――――…」



 ヒノアラシの脳裏にフラッシュバックする、懐かしい思い出、思い出、思い出。


  初めての探検――…

  
     初めての遠征――…


                     
          初めてお尋ね者を倒した時――…


                           グラードン相手に戦った時――…


                 
そして最後の冒険――…





 「でも、もうポッチャマはいない。ポッチャマは、いないんだ…」

 「お〜いヒノアラシ〜もう夕飯出来てるでゲスよ〜」


 悲しさをこらえきれないヒノアラシとは打って変わって呑気な声でビッパが声をか
ける。

 「早くしないと、みんなに食べられ…どっ、どうしたんでゲスか?!」

 こらえきれずに流した涙をビッパは見てしまった。

 「…ビ、ビ、ッパ…ビッパ―――――――…ッ!!」

 ヒノアラシは力いっぱいビッパに抱きついた。

 「うわあぁぁ――――――――ん!!」
 「わわっ、本当にどうしたんでゲスか?!」

 なりふり構わずヒノアラシは泣きじゃくった。



 ヒノアラシをこんなにも苦しめているのは、ポッチャマとの思い出だ。

 こんなに苦しむくらいならもともと会わなければよかったかもしれない。

 それでも、大事に抱え込んでいる自分。

 それほど大事な大事な、パートナーで。それ以外の何でもなくて。

 1匹でも頑張っていこうと努力はしているけど





 ――――…どうしても、僕には無理みたいなんだ…。



 もしも、今、ひとつだけ願いが叶うとしたら。




         ―― 君 に 会 い た い … ――









⇒To Be Continued...

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