「さよなら」なんて、聞きたくない。
作者: 一夜   2009年07月27日(月) 17時48分05秒公開   ID:5EwBxlXyk0.
雨が私を濡らす。
傘も差さずにただ呆然と立ち尽くす私の身体からだは冷たかった。
いや、それよりも何よりも…心が一番冷たかった。




             *   *   *




浪岡未来なみおかみく、16歳。
それは一週間前のあの日…私の全てを変えた日のこと。


何も変わらない、いつもの日常。

 「はぁー………。」

中学の時から超がつくほど苦手だった数学の時間を終えて、机に頬を押し付けた。
その瞬間だった。
がらりと勢い良くドアが開いた。開けたのは担任の新城先生。
がやがやとうるさかった教室は一気に静まり返った。

 「浪岡…浪岡いるかっ!?」

私を呼ぶ先生の声は…冷静を保っているように感じたが微かに震えていた。

 「は、い?」

何が何だか分からず、とりあえず返事をしてその場に立った。
そのまま先生は私を廊下に呼び出した。

 「浪岡、落ち着いて聞けよ…?」







確かにあの時、私の運命は変わった。
でもね、私は誰かを恨んだり憎んだりはしていない。
だってこれが…「運命」なのだから。







 「お前の両親が事故で…亡くなった。」

え…?
先生は一体、何を言っているの?お父さんとお母さんが、死んだ?

 「先生、嘘だよね?冗談だよねっ!」

私は先生の肩を掴んで揺さぶる。
先生は俯いて唇を噛んだまま…何も、言わない。
……あぁ「本当」だから、何も言うことがないんだ……?
ゆっくりと身体からだから力が抜けていくのが分かった。
先生の肩を掴んだ手がだらりと下がる。へたりと廊下の冷たい床に膝をつけた。
不思議と、涙は、溢れなかった。







それから先生が呼んでくれたタクシーで病院に行った。
死因は事故死。前方から来た重量オーバーのトラックがカーブで曲がりきれずに突撃して来た。
車は火をふき、お父さんとお母さんはトラックが積んでいた荷物の下敷きになった。
救出され、病院に運ばれた一時間後…死亡。

 「お父さん、お母さん……。」

目の前には傷だらけになって目を瞑ったまま動かない…二人の姿。
ゆっくりと手を握る。本当に人の手なのかと思うほど冷たくて…鳥肌がたつような感覚を覚えた。
朝。時間ギリギリで「行って来まーすっ!!」と言って家を出た私。
くすくすと笑いながらお母さんがお皿を洗いながら「行ってらっしゃい。」って。
お父さんは新聞を見ながらコーヒーを飲んで「遅刻するなよ、気をつけて。」って。
何も変わらないいつもの朝。ずっと…ずっと、続いていくと思ってた。なのに…なのに…

 「なんでっ…っ…なんでぇっ…!?」

今までおさえていたものが一気に溢れ出した。
いくら涙流しても、叫んでも、願っても…一度死んだ者は生き返らない。
分かってる。分かってるけど…現実を直視出来ない。

 「ねぇっ…!どぉしてよぉぉっ!……ねぇっ!!」










             *   *   *











雨が、強くなった。
視界が遮られてぼんやりとしか見えない。
私は思い出したかのようにのろのろと制服のポケットに手を入れた。
一つの感触を見つけるとそれを指で掴み、取り出した。
不気味な光を放つ刃…私はそれを、手首に当てた。






■作者からのメッセージ
久しぶりに書いて見ました。
なんか…怖い?哀しい?って感じがしますね。
これで終わっても話は分かりますけど続きありです。もう一話。
次もよろしくお願いします。

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