これCry Lovers 第3楽章 弟と母の存在 |
作者: なぁび 2009年07月31日(金) 19時06分04秒公開 ID:sw0xlSukK4E |
夕食を食べ終えた瑠姫は今でぼーっとテレビを見ていた。 見ているのは、『最新! 歌パラダイス!』という音楽番組だ。 「さー今日も気になるメンバーが勢ぞろい! さてさてまずはこのコーナーから…」 「あれ、瑠姫姉好きだな、それ」 とそこへ現れたのはマグカップを片手に持った李玖。瑠姫の隣に座り、李玖もそれを見始める。 「今日も出るの?」 「…出るからチェックしてるんだよ。出なかったら本でも読んでる」 二人が言っているのは、とあるバンドのことである。こんなにも気にかけるのはある理由がいろいろとあって。 「お次は、大人気! 『DARK HORSE』のみなさんです!」 『DARK HORSE』、その名前を出た瞬間、瑠姫は心持背筋を伸ばした。 「なんか、兄弟がテレビに出てるって変な感じ」 「…ん、だよね」 そうなのだ。 このバンドには、瑠姫の弟、そして李玖の兄の遥がいる。 メンバーは 「なんかこー…劣等感感じる。私なんて何にもないじゃん」 「俺も何もないよ」 「いや、あんたは生徒会長なだけいいでしょ」 「だったら俺は〜?」 なんとなくよく見たら犬の耳としっぽが見えそうなこの少年。 彼の名は 緋月の特徴は一言で言えば犬、なのである。好きな遊びはボールを使った遊び、好きな食べ物はなんとビーフジャーキーらしい。前にお父さんのおつまみを食べたら病みつきになったそうだ。 「犬。かな」 「犬ぅ? それって特徴?」 「うんうん、立派な特徴だよ」 末っ子のせいもあってか、甘えん坊に育ってしまった、と瑠姫は思う。個性のある四つ子なのだ。 「んじゃー李玖は猫だよね。意地っ張り子猫」 「お前に言われたくない。姉ちゃんこそ猫じゃん。それこそ意地っ張り子猫」 「黙りなさいよ、意地っ張り子猫」 「誰に似たんだろうね、意地っ張りなのは…」 少々ケンカ腰になって来た。緋月はどうするべきかおろおろしている。 「私がいちばん上だからっていつもいつも! そういうの本当、嫌なんだよね! 結局私なんて誰も見てないんじゃん!」 「…誰もそんなこと言ってねーだろ。逆切れすんなよ。それよりさっさとご飯」 二人の間に入って来たのは、今しがたテレビに映っていた、と思われる『DARK HORSE』のメンバー、の4人のうちの3人。 「…修ちゃん!」 「何ケンカしてるの? 夕飯のおかずでもとりあいしてたの?」 この、呑気な突っ込みを入れたのが遥。 「ないない。俺が意地っ張り子猫って瑠姫姉が言うからそれはお前だろって言って…」 「で、なんで私が! みたいになって…」 「「「それで?」」」 3人の突っ込みに瑠姫、李玖は黙った。 「「それだけです…」」 二人がバツが悪そうに言うと、もうすでに他は自分の行動に移っていた。 瑠姫はご飯の支度をするため、台所へとぱたぱたと去って行った。 「そういえば宿題ってなんか出てたっけ」 ご飯を食べ終えた後、李玖がふと言う。 「知らない。古文でも出てたんじゃないの」 「古文なんて大っ嫌いだ…昔の人はよくあんなのを…」 ちなみに。瑠姫が嫌いなのは社会(主に歴史)で、遥が嫌いなのは数学、李玖が嫌いなのは古文、緋月が嫌いなのは英語である。そして共通で嫌いなのは茄子。 だから自分に嫌な宿題が出た時は兄弟で助け合いながらこなしている。 「じゃあ私に歴史のプリントが出てたからそれはハルのノルマ」 「俺の英語は李玖兄ー♪」 「じゃあ俺のは…」 「助け合いの意味が違うだろ」 修が突っ込みを入れる。 修は、四つ子のいとこだ。小さい頃から四つ子は修に懐きっぱなし。そして、今は。 「助け合ってるじゃん。充分」 「意地っ張り子猫同士助け合うのか。いいことだ」 「それって褒めてるの?」 「充分、俺は褒めてるつもりだけど」 瑠姫は複雑な表情を浮かべる。 今は、いつからか瑠姫の好きな人。けれども芸能人である修と、一般人の自分。告白は、当分出来ないだろうと瑠姫は思う。 「……」 だから、ではないがいつの間にか瑠姫の中に生まれた決心。 (お母さんに、相談してみようかな…?) 咲島家、母。 実は、瑠姫の家、と、いうか咲島家母は、ある有名な事務所の社長であった。 その事務所の名はFLO事務所と言った。 気になる名前の由来は超単純で、F= 「あの、お母さん…」 「…何?」 普段瑠姫は母親に頼ることが少ない。部屋は同じだが、母親は仕事で一緒に過ごすことも少ない。 「私、ね…こんなこと言うのも変かもしれないけど…」 この先は不安はいっぱいだ。でも、みんなと一緒なら。 「私、ハルみたく修ちゃんみたく…っ、バンド、やりたいの…!」 ――――…やれる、気がする。 言ってしまって、瑠姫はぎゅっと下唇をかんだ。 「…やっぱり?!」 これが、その後の母親の第一声。瑠姫は顔を上げる。 「やっぱり…って、予想、してたの?」 「なんとなく? だって私の娘ですもの!」 こんな母親ではあったなーと瑠姫は今やっと思い出す。 「それに、あんた、私が反対したところで素直にうんっていう性格じゃないもの」 「…まぁね。お父さんに似たんだよ、そこは」 これで、夢に一歩近づいた。瑠姫は自分自身を元気づけるように頷いた。 |
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