エイライブブルー-the another bloodlly world- 第一話・近未来都市 |
作者: 清嵐青梨 2009年10月05日(月) 02時39分50秒公開 ID:L6pfEASBmTs |
白いカーテンが微風に煽られて室内に冷たく涼しい風が送られる。その風の心地よさに安らかな良い眠りを堪能する中、ジリリと枕元に置いてあったデジタル時計のアラームが鳴り響いてきた。 喧ましく鳴っているアラームに少し眉間に皺を寄せ乍ら布団から手を伸ばしデジタル時計を捜し求める。ふと指先に触れた塊に咄嗟に掴み出しアラームのスイッチを押すとアラームは其処でぴたりと止まった。 喧ましい音が止んだことにより再び室内に静かな空気が戻ってきた、ようやく戻ってきた静寂の空気にすぅ…と小さく息を吸って再び眠りにつこうとした時、誰かが室内に侵入してきたガチャッというドアが開く擬音が耳に届いてきた後、いつまで寝てンだー起きろーと言われ布団を掴みかかったと思いきや、思いきり布団を剥いでベッドから引き摺り下ろした。 冷たい風が身体の上を通ると身体が寒気を感じて小さく身震いすると、深く閉じられた重たい瞼を恐る恐る開くと目に飛び込んできたのは、いつもの自分の部屋に異物が立っているという風景だった。 もう既に見慣れたその異物の姿に俺は目尻についた目脂を取り、うんと腹筋で起き上がり背伸びをすると再び俺を起こした彼に視線を向ける。 「……あー、お早う大樹。今日も気持ちの良い朝だな」 「そりゃそうですか。気持ちの良い目覚めかもしれないですが今日は何の日か分かっているのか」 今日は定期健診の日だぞと言って俺の友人はもう既に着替え終えている学校の制服を纏い乍ら、言っとくが朝飯はもう済んだからな。早めに食っておかねーと身体持たねーぞと言って室内を後にした。 再びバタンと閉じられたドアを見て、俺は再びうんと背伸びをするとベッドから下り真っ直ぐクローゼットの扉を開けハンガーにかけられた白いシャツと黒いズボンを取り出しベッドに投げ出すと、何もかけられていないハンガーを再びクローゼットの中に仕舞い込み扉を閉める。 時間がかからないうちに早々と寝巻きから制服に着替えると机の上に置かれた青いラインが入った白いスポーツバックを手にすると、あんまり時間をロスにさせないうちに早々と自室から出ると紅いカーペットが敷かれた廊下を歩き、エレベータに着くと下のボタンを押しエレベータが来るまで部屋に置いていったものはないか身の回りを確認した。 そうしているうちにチーンとエレベータの到着を告げる短いベルが鳴りエレベータの両扉が開かれた。俺はエレベータの中に入り【@】とあったボタンを押すと自動的にエレベータの両扉が閉じられ、一階へ降りていく。 その間俺はエレベータ内に取り付けられた鏡に向かって黒い髪に癖っ毛がないか丁寧に確認していった。 早々と朝食を済ませ外に出ると青々と晴れた快晴の青空を見上げ、うんと三度背伸びをすると長く伸びた生徒用の歩道を一人でのらりくらり歩いていると後ろから、ようやく朝飯食ってきたか寝ぼ助と言って友人が俺の首に腕を回して無理矢理此方へ向かせる。ちらりと後ろを見ると金髪のツンツン頭をした赤色の目を持った友人の顔が飛び込んできた。 先ほど言われた友人の言葉に、嗚呼食ったよと短く返し首に回された腕を解くと先行ってたかと思ったぜ…どっか道草でもしてきたのか?と聞くと道草と言われることなんかしてないよ、と返されるなり利き手ではないほうの手に持っているコンビニの袋を見せる。 「焼きそばパン買いにコンビニに寄って行っただけだって……って、寝癖すげぇ。ワックス貸そうか?」 「いや良い、水つけときゃ直るって。…それにしてもよりにもよって今日は定期健診だなんて」 最悪だ…俺は近くの電柱で小さくはぁーっと溜め息を吐き捨てた。その様子を哀れむように見ていた友人が、矢っ張りお前のほうこそ道草してるように見えるんだが、と言った。 「そりゃお前がそんなに最悪な気分になるのも当たり前か…お前は特別だからなぁ」 「そういうてめぇこそ特別じゃねえか。人のことちゃんと言えてねーじゃねえかよ」 「そりゃそうだけどな…そもそもお前と俺はレベルが違いすぎるんだよ」 そう言って友人は近くに置いてあった自販機の釣り銭の蓋から回収しそびれたと思われる誰かの釣り銭を取り出し、そのうちの百円を俺に渡すと掌から五個の十円玉を取ると俺の目の前に出す。 そして百円がお前のレベル、五個の十円玉が俺のレベル。お金で比べるとこんなにも差があるんだぞと言って掌の釣り銭を自分の財布の中に入れると、その百円いらねーんなら俺に呉れよと言ってきたのであげねーよと返し自分の財布を取り出すとさっき渡された百円を財布の中へ入れた。 俺たちが住んでいるこの街は近未来的な幻想をイメージしたとされており、どの街にも昔から開発し続けてきた沢山のロボットたちが歩道や街中でも馴染んでいて、今でも更なる上へと開発が続けられている。歩道を暫く歩いていると【流川】という名の川の向こうに電子力で動いている風車がいくつか見受けられている。隣町には風力のみで動いている風車があるのだが、その風車を実際に見たことはない。 友人との何気ない会話をし続けていると歩道を列で連なって動いている掃除ロボットが俺たちの横を通り、新たなゴミを探しに出回っていたり、信号を待っていると車が渋滞になっている車道で案内表示板が状況を考えて自動的に切り替えたりと正に昔の人が憧れていた近未来という世界がもう其処に近づこうとしていた。 そんな素晴らしい街なのだけども時には近未来の世界観に反対している人がおり、今でも何処かでテロ爆発が起きているのかもしれない。または多くの尊い命が奪われているのかもしれない。そんな過酷な現実なのだが幸いにも俺の街にはそういった過酷な事件は発生しておらず、至って普通の生活をこうして淡々と送っているのである。 信号が青になり、また暫く歩いていくと俺たちが通っている【私立ヴィアガル学園】の紅い鉄の門が見えてきた。紅い鉄の門を抜けると白い壁を纏った学校の屋上に取り付けられた小さな時計塔の鐘が大きく鳴り響いて、登校終了の合図を告げる。 良かったな遅刻にならずに済んで、と言って友人は昇降口で俺の肩を軽く叩くと早々と靴を履き替え鞄の中からIDカードを取り出し掲示板の前に置かれた機械にカードを差し込むと、機械がピッと短い音を出しカードを吐き出すと機械の隣に置いてあった自動棚からガシャンと動き、中から彼の名簿を出す。 彼は出された自分の名簿を取り出すと、ほら早くしなよトールと言って彼は急いで靴を履き替えている俺を掲示板に背中を預けたまま待って呉れた。 矢張り待って呉れる優しい友達を持って良かった…と心の中でしみじみ呟くと中から自分のIDカードを取り出し機械で読み込むと自動棚の自分の名簿を持って早々と自分の教室へ向かった。 □□□□□ 五つ目の健診が終え次の健診の部屋へ向かおうとしたところを、やぁやぁ瀬戸くん今日も頑張っているか〜い?と一つ上の先輩が瀬戸大樹に近寄るなり彼の肩に手を乗せ、彼の定期健診の結果を覗き込む。 至って順調のままですよ、と言って彼は先輩の手を振り払うと先へ急ごうと廊下を歩くのだが、そう冷たくなるなよと言って先輩が大樹の後ろを尾行し乍らさらに話を続ける。 「君はレベル5の超能力者なんだから、成績は相当優秀の筈なんだよ。なのに何で彼奴ばっか構っていられることが出来るんだよ」 「彼奴……あぁ、トールですか。彼は俺と違ってレベルは五つ違い…つまり超能力者のレベルで言う【最上能力者】なんですからね、何時何処で彼奴が能力を使うか考えただけでも胃が持たないので、毎日毎日監視というか…一緒に行動していられるんです」 「そうは言ってもなぁ……この前彼奴暴漢に襲われていた後輩を助けたって聞いたんだけどよ、あれもやっぱ能力を使ったからじゃ、」 「そんなことの為に能力を使うのは【いざという時、若しもの時】或いは【自分がピンチになってしまった時】だけ……」 彼奴は多分能力を使っていないと思いますよ、と言って大樹は次の部屋のドアに近寄りガラッと開くなり今日は瀬戸くん…と言って机に置いてある一台のノートパソコンと向き合っている一人の女医が只管キーボードに叩き込んでいる指を止めず、大樹に顔を合わせようとせず挨拶だけ彼に向ける。 いつもこの人は機械に向かって碌に顔すら合わせようとはしない…大樹は敢えて思ったことを口には出さず、廊下にいる先輩に軽く挨拶だけ交わすと早々と室内に入りドアを閉める。 バタンッという音を聞きつけた女医が其処で指を止めキーボードから離し顔を上げるとようやく大樹の顔を見て、早速だけど其処の椅子に座ってと言って青い付け爪を付けた細い指で一台の丸椅子を指差す。大樹はそれに従い丸椅子の上に腰掛けると、今日はどんな健診を受けさせて呉れるんですか?と尋ねる。 と、彼女は今日は健診じゃなくて君に聞きたいことがあるのと言って縁なしの眼鏡をかけ直す。 「最近浅山くんと上手くいっているかしら?【最上能力者】…レベル10の超能力者と普通に接している貴方に」 「……確かにトールとは上手くいっています。特に身体の変化とかは見られませんし増してや日に日にストレスが溜まっていく一方ですよ、簡潔に纏めたら普通の学園生活に異常はありません」 きっぱりと眼鏡のかけた女医に向かって言うと、話はそれだけなら俺は次の健診に行きますよと言って腰を浮かせようとした時待って頂戴、と彼女は手をあげ彼に制止する。その合図を見た彼は浮かせようとした腰を再び丸椅子の上に深々とかける。 再び席についたところを確認した女医は、再びノートパソコンに向かってキーボードを打ち続け乍ら先ほどの会話をし続ける。 「何度も言うけども【最上能力者】の身に少しでも衝撃的なものを目にした瞬間、必ず心の何処かにある“歪み”が生じることがある。その“歪み”が生じたら最後…貴方と浅山透くんの身に何かあったら……」 「【最上能力者】及び超能力者の保護、若しくは【最上能力者】の対処……」 「そう。先生はね、君たちにそんなことがあってはならぬよう成るべく距離を置いて接してほしいと思っているの。それなのに君たちはなんで其処までして普通に接していられることが出来るのか分からなくて今その解析に、」 「お言葉ですが要先生……その解析に関してなんですがもう少し待っていて呉れませんか」 そう言って大樹はようやく腰を浮かせ立ち上がり窓に近寄りガラッと窓を開けた瞬間、グラウンドからドオオ…ンと爆発音が学園内の振動し、その影響で巻き起こした強風が開かれた窓を突き抜け机のプリントを撒き散らす。開けられた窓以外の窓はビリビリと振動と共に硝子を震え上がらせ互いに共鳴しあっている。 女医はきょとんとした目を瞬かせ、今何か起きたのかという状況を把握しようとした時だから彼奴の対処はもう少し先延ばしにしては呉れませんかと言って彼は自分の定期健診の結果が書かれた紙を持ち、ドアに近寄ると間髪入れずにガラッと開け再び間髪入れずにピシャンと閉める。 そのままずるずるとドアに寄りかかりリノリウムの床に尻をつかせ、ふぅ…と小さく息を吐き捨てる。 この街には近未来の発展と共に【超能力者】という特殊な能力を持った人たちが増加し始めていた。レベル1〜9までの超能力者の人たちは普通に【超能力者】と呼ぶのだがそれ以外の人間、つまりレベル10に到達した超能力者たちのことを【最上能力者】と呼ぶ。 その最上能力者と超能力者と一緒に行動を共にすることにより互いに共鳴しあえることが出来るのだが、【最上能力者】に衝撃的なもの或いは窮地の瞬間に立たされた時、心の何処かにある“歪み”という所謂心の亀裂が生じてしまったら【最上能力者】の身に何が起きるという事実は未だ解明されてはおらず、多くの研究者がその原因の解明や【最上能力者】の最期の解明に取り組んでいる。 先ほど大樹と話していた女医――要未来もその研究者の一員である。 “歪み”の原因が一刻も経っても分からぬまま彼女が出した決断はレベル5の超能力者である大樹にレベル10の浅山透を合わせさせ彼の健康面と行動パターンを観察・監視してほしいと依頼してきたのだ。 無論、大樹は超能力者という事実を除いて何処にでもいる只の高校生である。日常の中を生きている彼に危険な橋を渡せるというのには彼でも些かではあったが彼は何度も浅山透が起こした行動をこの目で何度も見続けてきたのだ、その友人の危機の為ならば…という決断で彼はその依頼を二年前から引き受けてきたのだ。 それなのに相変わらず彼の健康面はシステムオールグリーン…至って正常のままだ、オールレッドとの点滅がなければ暴れる形跡も見当たらない。あるとすれば自分の超能力を別のところで活用しているのみ…。 大樹は髪をくしゃくしゃにし、ふぅ…と再び息を吐き捨てると立ち上がって次の健診へ向かおうとしたとき、たーいじゅー。と後ろからトールが彼の背中にダイブしてきた。 ぐぇっと小さく態と汚れた擬音語を発言して自分の首に回している彼の腕に触れ、一通り終わったのか?と尋ねるとそりゃ勿論!と言って彼が持っている自身の定期健診の結果の紙を見せる。その紙に大樹は手に取りその結果を自分の結果と比べる。 「相変わらずレベル10のまま、おまけに身体検査では全て異常なし…お前は化け物か?普段何食べてンだよ」 「そういうてめぇこそ………ねぇねぇ、要先生と何話してたんだ?」 「お前には関係のない話だよ、一々首突っ込むんじゃねえ」 「何だよ冷たいなぁ……なぁ大樹、定期健診終わったらどっか食べに行こうぜ」 「俺には焼きそばパンという頼もしい昼食の味方がついていますから結構です」 「一人でもそもそ焼きそばパン食べても寂しいだけじゃねえか、だからさ一緒にどっか食べに行こうぜ」 執拗くなぁなぁ食べに行こうよーと強請ってくるトールに大樹は、はぁーっと盛大に溜め息を吐き捨て彼の紙を返すと、で…何処に食べに行くんだ?と彼に場所を要求する。 こうなったらとことん彼に振り回されていこう…それが大樹の決断だった、彼は自分の首に回しているトールの腕を離すと俺は未だ健診終わってねえから先教室に戻ってろ、と言って彼は早々と次の健診へと向かった。 □□□□□ カチャ…と銀のフォークを空になった皿の上に置いて、ご馳走様と言ってナプキンで口角についたミートソースの欠片を拭い取る。と、カルボナーラを黙々と食べていた大樹が、デザートは今回食べないんだなと聞いてきた。 確かに俺は大の甘いもの好きではあるが今回は遠慮しておくよと言って鞄の中から数学のノートを取り出し一枚ページを捲り、なぁ大樹…飯食い終わったら数学教えてくんねーか?と頼む。 数学、その単語を聞いた彼はスパゲティを巻いていたフォークを持っている手をぴたりと止め昼飯から俺の顔を見るなり、矢っ張り数学サボりやがったな…と憎たらしい目つきで俺を睨めつける。 矢張り予想通りの反応をして呉れるな…そう思った俺は、あんな数字や記号ばっかの問題を如何やって解けというんだよと言ってコーラを一口飲む。 そう反論する俺に、それだからお前は数学以外の成績だけ百点の点数ばっか取るんだよと言って再びフォークを持っている手を動かしてフォークの先に絡まりついたカルボナーラを口に入れる。 「なんでお前は数学で零点っていう最悪な点数を取るんだよ、数学なんか公式を解いて後は計算するだけじゃねえか」 「でもさその公式がすげーややこしくってさ、解くには時間かけるじゃん。そうしていたらあっという間に終わっちゃう…公式だけでもどれだけ時間を費やすんだが」 「ジグソーパズルとかマインスイーパとかのゲームもどっちみち時間かけるぞ、お前はそういうゲームが好きなのにも関わらずなんで数学だけ、」 「ジグソーパズルと数学は何の関係もないじゃんか」 そう言って空になったコップを脇へ置き代わりに筆箱から愛用のシャーペンを取り出し芯を出すと、だから教えて呉れねーか?と再度要求をすると真逆食べ乍らお前に数学を教える気か…と言われた。 食べるのと教えるのと二択のうちどちらかを選べと言いたい雰囲気である、低血圧でストレスが溜まりやすい性格をしている彼にとっては今の俺の発言はかなりきたようだ。 食べ終えてから教えて呉れれば良いよ、と慌てて先ほどの発言を訂正すると大樹は非常に呆れた表情で溜め息を吐き、じゃあその間に少しでも分かるようにしておくんだなと言って再び昼食を摂り始めた。 そうとは言っても本当に数学の公式を如何解けばいいのか分からない、だからこの間の夏季中間テストでは何も分からず長々と頭を捻って考えては思い当たる答えを一回書いたのだが全て間違っているという結果に終わった。 それを三週間後にある期末テストで少しでも点数が取れるのか心配だ…俺は溜め息を吐いて、取り敢えずノートに書かれた数式の一つを解こうかと思いシャーペンでノートに記そうとした途端。 外からドオオ…ン!と激しい爆発音が聞こえ衝撃により吹っ飛ばされた瓦礫が店の窓硝子を破った。その音に驚いた他の客が安全な場所へと避難を開始する。 そんな中俺は目の前に散ったきらきらと輝く硝子の破片に思わず見蕩れていると、何ぼうっとしてんだと言って大樹が左手の人差し指で空に円を描いたと思いきや何処からか小さな風が俺の前を横切り、目の前に散っていた破片が風により煽られ壁に当たる。 その音にはっと我に返り、有難うな大樹と礼を交わすとコップと皿以外に広げているもの全て片付けると、ほら暢気にカルボナーラ食ってる場合か!と三度孤独な昼食を摂っている大樹をど突いた後、鞄を置いたまま一旦店の外へ出て外の状況を確認する。 未だいくつもの瓦礫の欠片が散乱している車道に百八十を超えるラフな格好をした男が立っており、太い二の腕には一人の少女を人質にとっていた。 深緑色の髪に同色の瞳をして裾が長い淡い水色のシャツの下に黒のタンクトップと黒色のミニズボンを着た、身長が百六十cm行っているか行っていないかの小柄な少女が怯えきった表情をし乍ら誰か自分を助けて呉れないかと救助を求めている。 爆発があった場所を辿ると、先ほど爆発事故があった場所は銀行のようで入り口が全て破損されて跡形もない。若しかしたらこの男は銀行強盗の実行犯で、その計画を阻止された又は別行動を取っていた彼女を逃走用の人質として確保しているかもしれない。 だったら人質の少女を助けるのが先決だろうな…俺は冷静に考えた決断により、ジリジリと逃走用車が止めてある路肩へ向かおうとしている男に声を掛ける。 「なぁオジサン。あんた若しかして其処で強盗か何かしてたの?」 「あ゛?なんだてめぇ、ぶっ殺されてーのか!?」 「ぶっ殺されるも何も…オジサンレベル5の炎属性の超能力者でしょう?だったらあんな派手な爆発しねーもんな」 「……へっ、なんだ。其処のガキも超能力者ってか、てめぇみたいなガキなんか怖くもなんともねーんだ。なんたって俺は、」 「長々と自慢話も良いけどよ、俺はその子を離して欲しいって言おうとしたんだよ」 そう言って未だ顔が強張ったままになっている少女を指差す。男はじろりと彼女の後頭部を見ると嗚呼…俺がこの車に乗ったらこの子は返すと行って俺を睨めつけ乍ら再び車に近寄り、ガチャッと運転席のドアを開けた。 その時だった。少女の目が一瞬何かを決心したようなキリッとした表情になったかと思ったら、果敢にも男の小脇に抱え持っている黒のバックを引っ手繰り男の腕から脱出して真っ直ぐ俺のところへ向かおうとしていた。 が、黒のバックを引っ手繰られ頭に血が上った男がじろりと彼女の背中を睨み、っの女ァ!!と叫んだ時ポケットから金属製のライターを取り出し彼女の背中目掛けて火を付けた瞬間、小さな灯火を点してるライターの火力が一気に上昇し火の鳥の様な異型な姿になり真っ直ぐ彼女に向かって襲い掛かってきた。 咄嗟に俺は此方に向かってくる少女の華奢な腕を掴み向かってくる火の鳥から回避しようと、一台の車の陰に隠れ車を盾にすると大樹の名を呼ぶ。さっきまで店内にいた友人が俺の声に反応しちらりと外を見るなりやれやれと呆れた表情になり、お冷をテーブルに戻しさっきまでお冷を飲んでた、水滴で少々濡れた手で人差し指と親指でデコピンの形を作り出し、車に近寄ってくる火の鳥に向かって弾いた。 彼の指先から強風が吹いてきて車に向かってきた火の鳥の体を突っ切る。さっきまで勢いのあった火の塊は突如巻き起こしてきた風の体当たりにより微塵もなくあっという間に掻き消されてしまった。 それを見た男は慌てて車に乗り込みエンジンをかけこの場から早々と逃げ出そうと猛スピードで車道を駆け走ろうとしている。 その現場を見逃す自分ではない、俺は立ち上がり車の陰から出てくるとポケットから財布を取り出し近くに自販機があるかどうか辺りを見回していると、少女が提げていた白いバックの中身に水が入った水筒が顔を覗かせていた。 俺はそれを見て出したばかりの財布を再びポケットの中に仕舞うと、一旦しゃがみこみ彼女の顔を見る。 「なぁ、その水筒一寸貸して呉れねーか?」 「え……良いですけど…」 と、其処で一旦言葉を区切りちらりと俺の顔を上目遣いで見る。咄嗟に彼女が何を言いたいのか大体予想がつき、大丈夫…直ぐ返すからと言う。その返事を聞いた彼女は俺の言葉を一応信じて呉れたのだろう、バックの中に入っている水筒を取り出し俺に渡す。水色の水筒を俺は受け取ると再び立ち上がって猛スピードでこの場から離れようと駆け走っている車の後ろを見る。 水筒の蓋を開けきっちり閉め切られている中蓋も開け車道に向けて中身を確かめる、黒い道に一滴の水が落ちて直ぐに晴れた天気により乾いてしまった。 中身を確認したところで俺は中身の水で自身の右手を濡らすとその指で先ほど大樹がしたことと同じようなポーズを作ると車の横に目標を定めると標準したその場所に向けて水滴を弾き飛ばした。 その瞬間、弾き飛ばされた水滴が冷気に当てられたかのように一瞬にして凍り出したと思いきや他の水滴も凍り出していき、それは無数の水滴から一つの氷の槍となって標的に向かって一直線に駆けて行く。男が乗っている車の横を一瞬にして追い越して車の前で勢いを落として信号機の後ろでコトンと落ちた瞬間、両側から氷の亀裂が走り氷の上から巨大な霜柱が現れた。 その巨大な霜柱に驚いた男の乗せた車はその霜柱に衝突し、黒い排気ガスを出している車の中で気絶したのだろう男は二度と車を動かそうともこの場から逃走しようとはしなかった。 俺は巨大な霜柱を見て、ふぅ…とストレス発散して満足した息を吐くと濡れた手を拭いて水筒の中蓋と蓋を閉めると彼女に水筒を返した。 彼女はきょとんとした目で水筒を受け取り、俺を見ると今のなんだったんですか…?と聞いてきた。その問いに答えようと口を開いたとき、超能力ですよと俺の後ろから聞き覚えのある声がその問いに答える。 「とはいっても超能力だけでも様々な能力を持った人間がいる、火・水・木・金・土といった五大要素や軌道、または天気まで思うように操る超能力だって存在する。その中でも俺は木…つまり風を操る超能力者【 「おーおー、結構哲学的な説明お疲れさんと言いたいところなんだけどよ。それは今俺が言おうとしたんだけどなぁー大樹くーん」 「てめぇの説明は大雑把で端折りすぎなんだよ」 そう言って大樹は俺の横を通り、少女の手を掴んで立たせると未だ何か言いたげな彼女の表情を見て未だ何か…?と聞いてきた。一瞬だけ彼女は彼の態度にビクッと怯えたのだけれども、恐る恐る彼に向けて聞いてきた。 「……えっと、つまりさっきの火の鳥をあっという間に打ち消した強風も車を止めたあのでかい霜柱も全て超能力で…?」 「先ほど言ったとおり俺はレベル5の【超能力者】なんですが此奴だけは別格なんだよ、なんたって【最上能力者】の一人なんだからな」 「最上…能力者?」 「簡単に言えば超能力者の上の上…首位に中る人間だよ、その首位に立つには過酷な訓練や検査が用いられることになるんだけど此奴は生まれつき【最上能力者】に近いレベル8の実力を手にしているんだよ。無論その訓練には長きに渡る時間が費やすことになるんだけど……」 此奴の場合僅か二年で【最上能力者】の仲間入りを果たしたんだよ、と言って俺を指差す。その事実に少女は驚いた表情をして凝乎と俺の顔を見る。 その視線に気づいた俺は此奴の言ったことは本当だよと言って大樹の肩を軽く叩くと、彼の横を通り彼女の前に立ってそっと右手を差し伸べる。 「初めまして、【 「此方こそ初めまして…トールさん……織笠カエデと言います」 そう言って其処で初めて少女は俺に向けて微笑むと白い手で俺の手を握り返して呉れた。 □□□□□ 「……ねぇ烈火。ハリベルトの少女の行方は見つかった?」 『いいや…たった今一人のハリベルトの男を殺って結晶を回収したばかりだ。殺す前に彼女の行方を尋ねてみたが』 スカ、か…白髪の少年は自分の予想が中ってしまったことにがっかりしたのだろう小さくはぁ…と溜め息を吐き捨てると、じゃ引き続きその子の行方を捜してきてと電話の向こうの男に向けて命令すると、通話ボタンを切り携帯をベッドの上へ投げつける。 少年は座っている椅子を回転してコンピュータに向かい合うと左手でマウスを掴んでカーソルを動かし、メニューバーに表示されているあるページを押すと縮小されたページが拡大され画面から現れる。 現れたページ――どうやら医療施設からコピーした名簿のようだった――を凝乎と見るなり、ふっと口角を吊り上げると後ろへ仰け反り後頭部に両手を当てる。 「さーって、我等が求めし彼の姫は一体何処へ行かれたのでしょうかー?」 そう言って少年は表示されているページの左上にでている×ボタンを押すとページは其処で跡形もなく消え去ってしまった。 |
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