金の太陽 銀の月 学園篇―1
作者: めるる   2009年11月02日(月) 22時41分06秒公開   ID:s2/IWHRoys.
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金糸雀色かなりあいろの髪が、廊下を歩く少女の動きに合わせて揺れる。
少女は片手で手の平サイズの小説本を持ち、歩きながら読書をしていた。
それを見て、隣を歩く亜麻色あまいろの髪の少女が、眉をひそめる。

「陽咲ちゃん、歩きながら読書するのは危ないよ」
「んー……でもこの小説、今日の放課後には返却しなきゃいけないし」

そう言いながら、金糸雀色の髪をサイドテールにした少女――日向ひゅうが陽咲ひさきは、教室のドアに手を伸ばす。
だが、陽咲が開ける前に、目の前のドアはガララと音を立てながら開いた。

「おっはよー!陽咲ぃ!!」
「おわっ!?」

教室の中から茶褐色ちゃかっしょくの髪をポニーテールにした少女が飛び出し、陽咲に体当たりをするかのように抱きついてきた。
読書に夢中だった陽咲はそれを受け止めきれず、尻餅をついて廊下に倒れこむ。

「いったあぁ……」
「あーごめん、陽咲ぃ……受け止めきれるかと思ってて」
「……綾乃、あんたねぇ」
「ふ、二人共大丈夫?」
「おー大丈夫だよ、月子!」
「あたしは大丈夫じゃないっての!」

勢い良く倒れこんだ陽咲たちに、赤いチョーカーが特徴的な亜麻色の髪の少女――夜城やしろ月子つきこが慌てて近寄る。
綾乃あやのはへらりと笑いながら片手を振り、陽咲は綾乃の頭を小突きながら文句を言った。

「まったく……とりあえずどいて」
「はいはーい」

綾乃が退くと、陽咲は起き上がり、制服の上着やスカートを手で軽く叩く。
ふと片手を見ると、さっきの衝撃で小説本をどこかに飛ばしたことに気付き、辺りを見渡した。

「ん、どうした陽咲?」
「小説どっかに落とした、綾乃も捜して」
「えー」
「……あんたが抱きついてきたから、どっか飛んでいったんでしょうが」

陽咲がギロリと睨むと、綾乃は「ふぁ〜い」とやる気の無さそうな返事をして、渋々と小説本を捜し始めた。

「ここの廊下、滑りがいいから向こうのほうに飛んでいったかもね」
「そんなコントのような展開、あるわけないでしょ」
「でもこの間、伊藤先生が落ちてた消しゴムを踏んで滑って転んだんだって」
「月子、それは正しい情報なのか……」

綾乃と月子の言葉に突っ込みをいれて、陽咲は溜め息を吐いた。

「この小説、君の?」

背後から声をかけられて、陽咲はくるりと後ろを振り向く。
そこには陽咲が落とした小説本を持った、眼鏡をかけた群青色ぐんじょういろの髪の少年がいた。
陽咲は眼鏡の奥の透き通るような灰藍色はいあいいろの目に見惚れ、一瞬反応が遅れる。

「……う、うん。それあたしの、というか、図書室から借りた小説」
「そうか、向こうの廊下に落ちてたよ」

眼鏡の少年が小説本を差し出し、陽咲は両手で受け取る。

「ありがと……」

陽咲は少しはにかみながら、礼を言う。
その横から、綾乃がひょこっと出てきて、嬉しそうに笑った。

「ほら、向こうのほうまで飛んでいってたじゃん!」
「ちょ、綾乃」
「それ向こうで拾ったんでしょ?」

綾乃が聞くと、眼鏡の少年は表情を崩さず、淡々と喋った。

「拾ったというか、落ちてるのに気付かないでその小説を踏んで滑って転んだんだ」
「……」
「足跡の汚れはちゃんと拭っといたから」
「……あ、ありがとう」

陽咲は頬を引き攣らせながら、礼を言った。
綾乃と月子は嬉しそうに笑っている。

(ま、まるでコントみたい)

「じゃ、もうすぐ朝礼が始まるから」

そう言うと、眼鏡の少年は陽咲たちのクラスの教室の隣にある教室に入っていった。

「あたしたちもそろそろ教室に入ろうよ」
「誰の所為で廊下でウロウロするはめになったか分かってるの?」
「まぁまぁ落ち着いて」

能天気に言う綾乃を陽咲が睨み付け、それを月子が宥めながら、三人は教室に入っていった。



***



担任の伊藤いとうが朝の挨拶の号令をかけて、朝礼が始まる。
陽咲はぼんやりと窓の外を見つめながら、伊藤の話を聞いていた。

「最近、学園や寮の近くで野犬に襲われる事件が多発している」
(野犬……?)

野犬という言葉に、陽咲は疑問を覚える。
ここ――神織かみおり学園は全寮制で、厳重な警備がされているはずだ。
警備の内容は詳しく知らないが、学園全体が高いフェンスで覆われており、校門には登校と下校時以外は重く堅い錠がかけられている。
そんな学園に野犬が忍び込めるのだろうか。

他の生徒もそう思ったのか、ざわざわと騒ぎ始め、伊藤がそれを叱ると、教室がシンと静まり返る。
静かな教室に伊藤の声が響いた。

「既に五人も野犬に襲われている……どこから進入してきたのかはまだ分からないが、しばらくは大勢で行動するように気をつけてくれ」


⇒To Be Continued...

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