機動戦士ガンダムSEED DESTINY 〜新生なる牙〜 PHASE-3 戦友(とも)との再会 |
作者: けん 2010年05月02日(日) 20時36分05秒公開 ID:cZUIXcDokvk |
ミネルバは大気圏に突入し、ユニウスセブンを陽電子砲タンホイザーの射程に捉え、発射した。主砲トリスタンの比にならないエネルギーの奔流は赤く燃えるプラントの残骸へと吸い込まれ、巨大なクラゲを砕いた。しかし、一発ではやはり足りず、当初のタリアの宣言通り、限界点までタンホイザーを撃ち続けた。その結果、破片をかなり小さくすることまで出来たが、それでも地球は無傷という訳にはいかず、小さな破片は地球へと次々と落下していき、燃え尽きることなく地表を直撃した。 南米某所……プラント資本で設立された外宇宙探査を目的とした機構DSSDの研究所でシャトルの打ち上げが行われようとしていた。しかし、その打ち上げに際して必ずシャトルに乗せなければならない人物は、現在ユニウスセブンが落下した際の津波に備えて近くにある都市フォルタレザのビルに非難していた。管制室のソル・リューネ・ランジュが話しているのがその人物の相方、現在DSSD技術開発センターの保安副部長で元連合軍人だった叔父、エドモンド・デュクロである。 〈そうだ。緊急事態対応のマニュアル、M−84に従って事を進めてくれ。〉 「それはやっています。だけど、叔父さんとセレーネの方は?」 ユニウスセブンの破片落下による津波に巻き込まれないか危惧するソルに叔父のエドモンドは笑って答える。 〈大丈夫、こっちはビルに…〉 脇から入ってきた長い深緑の髪の女性が受話器をひったくる。シャトルで打ち上げる物と共に宇宙へ行かせなければならないセレーネ・マクグリフ博士である。 〈401は!?打ち上げスケジュールはずらせないんだから!〉 「セレーネ…」 津波か破片落下で死ぬかも知れないのに自分より宇宙という姉同然の女性にソルは若干呆れてしまった。 〈トロヤステーションにもレーザー通信で!〉 「それもやってるけど…」 その時、突然モニターの向こうが騒がしくなりエドモンドが受話器を切った。 セレーネを無理矢理連れ出したエドモンドはビルの外を見る。破片がこの近くに落下して発生した津波が沿岸部をのみ込もうとしていた。 この階も危ないだろう。もっと上に登らねば! エドモンドはセレーネの手を引き、窓を破って入り込むであろう海水から逃れるために階段を上っていった。 東アジアの山中にある地球軍基地でスウェン・カル・バヤンは空を見上げていた。空では幾つもの流星が降り注いでいる。あれがかつてコーディネイターの住んでいたプラントの残骸だとはとても思えない。地球を滅ぼすためにコーディネイターが落とした物だとも… 「スウェン、出動待機。」 後ろから派手な化粧をした女性ミューディー・ホルクロフトが声をかけてきた。脇に座ってラジオを聞いていた黒人の青年シャムス・コーザが湯気の立つカップを片手に振り返り、面倒くさそうに言う。 「災害救助なんて言うなよ?」 「ファントムペインに助けを求める馬鹿が、この世界にいるの?」 彼の質問をミューディーは笑い飛ばす。彼らはアーモリーワンを襲撃した部隊の指揮官ネオ・ロアノークと同じ第八十一独立機動群通称ファントムペインのパイロットだ。彼らもまた、ユニウスセブンの落下のニュースは聞いていた。 「宇宙の人間もどきがまたやらかしたらしいの。」 「それが、この騒ぎか。」 ミューディーから真相を聞いてもシャムスは全く動じていない様子だった。 「だから一応乗ってろって。」 「また、戦争が出来るのか?」 シャムスは嬉しそうに呟きながら基地へと戻っていく。ミューディーも後に続くが、スウェンはまだ空を見上げ、眺め続けていた。 同じ頃、ある屋敷の地下シェルターで銀髪の男が膝の上に座る猫の頭を撫でながら地下まで来る振動を感じていた。ブルーコスモスの盟主ロード・ジブリールである。全体戦時の盟主にしてコーディネイター殲滅まで後一歩と言うところで命を落としたムルタ・アズラエルの死後、力が衰えたブルーコスモスを現在は地球軍にお抱えの部隊ファントムペイsを有するまでに至ったのは彼と彼が所属するあるグループによる物だ。振動を何処か楽しげに感じているジブリールの元にリアルタイムで通信が入り、モニターに黒髪の美しい女性が現れた。 〈ジブリール様、ご機嫌麗しく。〉 「情報部のマティスか。何の用だ?今地球の危機というスペクタクルを楽しんでいるところなのだぞ。」 〈申し訳ありません。しかし、ファントムペインが興味深い情報を持ち帰りまして。是非ごらんになって頂きたいと思いました。〉 マティスと呼ばれた女性は恭しく非礼をわび、興味深い情報をモニターに映した。その映像にジブリールは思わず息を飲んだ。その情報にはザフトのMSジンがユニウスセブンにフレアモーターを設置し、落下までの護衛を行っている映像だ。 素晴らしい!これは利用できるぞ! 〈では。青き清浄なる世界の為に…〉 マティスはそう告げて通信を切った。マティスの顔が消えた後もジブリールは高笑いを続けていた。彼女が持ってきた情報は自分達のプラン、そして悲願でもある青き清浄なる世界を取り戻す為に使える最高のカードなのだから。 ジブリールとの連絡回線を切った後、マティスはジブリールを内心あざ笑った。 ロゴス……せいぜい思い上がると良いわ。 世界を…人を幸福に導くのは自分とその一族である。マティスは幼い頃より祖母にそう教えられ、彼女自身もそう信じてきた。そのために彼女は姉であった人物をも一族から追放したのだ。 ユニウスセブンが落下した後……ザフトも連合も落下地点への救助、支援に動いていた。 北米大陸…… 〈A34、A34、状況を報告してくれ。〉 〈こちら、A34。現在ポーツマス上空、空気がかなり湿っている。サウスカロライナからメイン州一帯は内陸部まで完全に水没している。〉 極東アジア…かつて中華人民共和国の首都だった北京は完全に崩壊している。 〈司令部へ連絡、救援は無意味だ。北京は地図から消えた。〉 連合も各基地から医薬品や衣類、食料を運んでいた。しかし、直撃を受けなかった都市も津波に呑まれていたのでボートやホバークラフトを主に利用し、トラックも司令部からルートを聞きながら進んでいた。 「デュランダルの意志とは思えんな…」 「大西洋連邦もまだはっきりとした態度は取っておりません。」 〈信じがたいこの各地の惨状に…私もまた言葉もありません。〉 デュランダルはザフトによる支援を行うと同時に地球へ向けてメッセージを送っていた。 〈受けた傷は深く、また悲しみは果てないものと思いますが…でもどうか、地球の友人達よ。この絶望の今日から立ち上がってください。〉 ミネルバは大気圏突破後、無事であったインパルスとザクを発見、回収することに成功し、太平洋に降りた後、移乗せずに残ったカガリを送り届ける為にオーブへ進路を取った。 そしてオーブへと進路を取って数日後、クルー達はレクルームで今放送されているニュース映像に注目し、その中にはアスランとカガリもいた。内容はユニウスセブン落下から間もなく、南米フォルタレザで起こったジンによる無差別攻撃に関するニュースだ。十歳前後の少年少女がカメラに向き、中央の最年長と思われる少年が原稿を読み上げる。 〈パパの名前はアルフォンス・ロッシ、ママの名前はエカテリーナ・ロッシ、二人とも医者だった。だけど、ナチュラルはパパ達を殺した。コーディネイターだからって。〉 〈ナチュラルは野蛮だ。〉 〈これから僕達は仕返しをする。だけど悪いのはナチュラルだ!〉 少年は静かに、されど強く宣言する。脇の二人も同じく宣言する。 〈ナチュラルを殺せ!ブルーコスモスに死を!〉 映像が切り替わり、当時の事件の映像が映る。 〈ごらんの映像は、フォルタレザでのテロ事件後に地元のテレビ局に届けられた物です。この事件の背後には、テロ行為を支援するコーディネイターの組織的な活動の存在があるものと思わられます。ユニウスセブン落下以来、散発的に世界各地でコーディネイターによるテロ行為が発生しており、当局はコーディネイターの非人間性が明らかになったものと強く非難し、一層厳重な対応を関係各方面に求めていくことにすると、発表しました。〉 「あんな子供がMSに乗って人殺しを……」 ミサキが憂いの声を漏らす。親を殺したナチュラルを憎むというのは、アスラン自身も一度は抱いた思いだから判る。しかし、無関係な一般人を無差別に殺して良い筈がない。あの子達もユニウスセブンを落とした犯人達も自分と同じだ。大事な人を奪った物への怒りに身をゆだねている。それを利用するバックにいる者達に対する憤りもアスランの中で募る。 そして、世界は少しずつ終わらない憎しみの連鎖へと向かっていく。親を殺された子が誰かを殺し、その誰かの家族がまた誰かを殺す。その繰り返しだ。結局、人は同じ事を繰り返すのか? 時は少し遡り、地球に降下したミネルバがオーブへ向かい始めた頃…ファントムペイン基地の司令室ではユニウスセブン落下直後に南米で起こったザフトのMSによるテロが収まったという報告が入った。 「パトリック・ザラを信奉しているザフトの残党が各地で騒ぎを起こしているようだな。」 「プラントは今回の事件への関与を否定しているようだが。」 司令室に集まった士官達が各地で行われるコーディネイターのテロ活動に関して論じている時、オペレーターの一人が伝える。 「キルギスプラントより緊急救援信号です。ザフトのMSです。」 キルギスと聞いて一人の士官が顔色を悪くする。 「あそこは新型の駆動コンピューターを開発している!」 「あいつらを送ってやれ。」 禿頭が特徴のホアキン中佐は前もって待機させていたスウェン達のMS部隊に発進命令を出した。 〈GAT−X1022ブルデュエル、全システム機動を確認。〉 ミューディーは黙々とGAT−X1022ブルデュエルを機動させた。 GAT−X103APヴェルデバスターのシャムスは喜々と機体のシステムをオンにしていく。 〈GAT−X103APヴェルデバスター、全システム機動を確認。〉 ブルデュエルとヴェルデバスターがヘリに吊されて先に運ばれ、最後の一機スウェンのGAT−X105Eストライクノワールが機動する。 〈続いてX105Eストライクノワール、全システム機動を確認。〉 OSを立ち上げ、スウェンは青き清浄なる世界を汚すコーディネイターの殲滅のために出撃準備を進める。 「スウェン・カル・バヤン、ストライクノワール出る!」 専用武装ノワールストライカーを装備したストライクノワールのPSがオンになり、機体をその名の通り黒く染め、星が消えかけた夜明け前の空へと飛び立った。 ナチュラルとコーディネイターの争いは再び始まろうとしていた。 ミネルバはオーブに入港した。足早にタラップを降りてきたカガリを出迎えていた一団の中から紫の髪の青年が飛び出そうとしたが、それを突き飛ばして銀髪の青年が駆け寄る。 「カガリ!」 彼は一瞬茫然としたカガリを突然抱きしめる。突然の感動の再会にアーサーは唖然とするが、タリアはアスランが安心したような表情をしていたのを見逃さなかった。 恋敵……では無さそうだ。単に親しいという間柄なのだろう。 「無事で良かった…アーモリーワンのことを聞いた時は心配したぞ。」 「あ……あの、ちょっと兄様…!」 きつく抱きしめるカガリの兄という青年を後ろからサングラスをかけた禿頭の男が咎める。 「フブキ様、お気持ちは判りますが、場をわきまえて下さい。ザフトの方々が驚かれております。」 「…失礼。」 フブキと呼ばれた青年は不満そうな口調で下がり、先程押しのけられた男がカガリをアスランから遮るように立つ。 「お帰りなさいませ、代表。ご無事の帰国、何よりでございます。」 禿頭の男を戦闘に一同が礼をし、カガリも駆け寄って矢継ぎ早に問う。 「ウナト・エマ、大事の時に不在で済まなかった。留守の間の再拝、ありがたく思う。被害の状況など、どうなっているか?」 「沿岸部等は大分高波にやられましたが、幸いオーブに直撃は無く…詳しい話は後ほど行政府において…」 話を終えたウナト・エマという男に対してタリアがアーサーと共に前に出て敬礼しようとするが、フブキがウナトの前に割り込んでくる。タリアは僅かな戸惑いを隠して敬礼し、アーサーも習う。 「ザフト軍艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります。」 「同じく、副長のアーサー・トラインであります。」 「オーブ連合首長国、アスハ家長兄フブキ・クラ・アスハです。このたびは代表の帰国に尽力して頂きありがたく思い、また兄として妹を送り届けてくれたことを感謝します。」 フブキは律儀に口上を述べているが、その言葉が本当に誠意から発せられた物だとタリアは感じたが、同時にまだ若いとも思った。 「今はごゆっくりとお休み下さい。クルーの方々も上陸が出来るように手を打ちます。」 「お心遣いありがとうございます。また、この度の災害のお気持ちもお察しします……」 タリアが礼を言うと、フブキは軽く頭を下げてカガリを送ろうとするが、先程の男がカガリの肩を掴む。 「ああ、君達もご苦労だったね。アレックス、イツキ。良くカガリを守ってくれたね、ありがとう。」 「いえ…」 男は明らかな優越感と敵意を込めてアスランとイリアに言葉を放つ。 「報告書などは後で良いから、君達はゆっくり休み賜え。後ほど彼らとのパイプ役を頼むかも知れないからね?」 それは二人がコーディネイターであることを当てつけていた。カガリはアスランを見やりながら、男に強引に車へと送られていき、フブキがその様子に舌打ちしていた。どうやらあちらが恋敵のようで、フブキはアスランの味方でカガリのガードなのだろう。 でも、代表首長と戦犯の息子のロマンスは…… イリアは施設に戻った際、馴染みの顔を見つけた。フブキの護衛をしているリュウ・アスカだ。 「おかえり…」 「おう。」 イリアは自室に入り、冷蔵庫の水を一口飲む。一息入れ、リュウに問いかける。 「メール…見たか?」 「……ええ、本当なの?本当にあの子がザフトに?」 「オーブ出身のシン・アスカ…二年前の戦争で家族を殺された……ツンツンした黒髪に赤い瞳の小僧、違うか?」 イリアは軽い口調ながらも真剣に確認する。 「間違いないわ………」 「で、どうする…会うか?」 イリアの問いにリュウは答えない。 「今は…会えない。会ったら、そのままプラントに行きそうで。」 「……そうか。」 彼女はこの二年間、生きているか分からない弟のことを思いながらも恋人であるフブキの側にいることを選んだ。今、彼に会ったら衝動的にプラントへ行く選択をしてフブキを裏切ってしまう…そう感じたのだろう。 翌日、クルーに上陸許可が下り、シオンはミサキと共にあるマンションを訪ねた。呼び鈴を鳴らすと、中からシオンと同じ色の髪をした少女が出てきた。シオンの妹レナ・クールズだ。 「兄さん、久しぶり。」 「ああ、元気だったか?」 軽く抱擁を交わし、レナに招かれる形で二人は部屋にあがった。案内されたリビングでは、あの後戻っていたイリアがコーヒーを飲んでいたところだった。 「おう、ご両人。いらっしゃい。」 イリアは簡単に会釈すると再びカップに口を付ける。 「コーヒー、飲む?」 「ああ、砂糖とミルクを入れてな。」 「はいはい。」 レナは二人分のカップを追加で出し、サイホンに残っていたコーヒーを注いだ。 「レナのコーヒーは強烈だぞぉ。」 シオンは苦笑して砂糖とミルクを入れて口を付けると、顔をしかめる。確かに砂糖とミルクを入れているのにかなりきつい。以前、砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドにコーヒーを習っているとは聞いた。彼のコーヒーも相当な物であったが、これはバルトフェルドのコーヒーを超えて独特だ。ミサキは既に飲むのを諦めている。シオンはもう一口きついコーヒーをすすった後表情を引き締め、イリアに問いかける。 「オーブは……どうなっている?」 「やばいな。事件の犯人のことがばれていて大西洋連邦との同盟の話が出ている。」 ユニウスセブンの件以来、世論は連合に傾きつつある。先日見たニュースの子供達がナチュラルへの報復を叫ぶように今度は地球の人々がプラントへの報復を叫んでいる。そうなれば同じ事の繰り返しだ。もう二度と、あんな事をしてはならない。しかし今のカガリとフブキではセイランを筆頭にした首長達を押さえるのは難しい……おそらく同盟は締結されてしまうだろう。シオンはウズミの遺志を摘もうとしない首長達に、友に何も出来ない自分に苛立ちを覚えた。 |
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