夏にここで :::: |
作者: 佐奈 2010年07月11日(日) 22時01分21秒公開 ID:2EbdM0k4XrU |
私は小学校から髪を伸ばしている。 今日の朝、母に「髪を切れ」と言われた。 私が長い髪をうざったそうにいているからだ。 自分でも切ろうとは思っていたにでいい機会だった。 私は母からお金をもらって近くの美容院に行くことにした。 少しだけ慣れた道を行くと、ボロイ(言っちゃ悪いけど)散髪屋があった。 私はそこに入る。 そこには優しそうなおばあさんがいた。 「見ない子だね。」 「はい。少し遠い町から引っ越してきました。」 私はできるだけ丁寧に対応したつもりだった。 「長いわね。バッサリ切るのかしら?」 「はい。肩まで、お願いします。」 おばあさんは優しく私の体に布を巻く。 おばあさんからは昔ながらの匂いがした。 丁寧にくしで梳かれた後、私の髪にハサミが入る。 ジャキッと音が鳴る。 少しだけ、むなしさがあった。 小学校の最初から、中学校の最初まで伸ばした髪・・・。 私は小学校の時、さほど目立ってはいなかったし、明るいわけではなかった。 同じ境遇の仲間とひっそりと学校生活を送っていた。 でも、退屈なわけではなかった。 友達とは上手くいっていたし、楽しかった。 そして、中学校。 本来ならば同じ小学校の人と通うはずが、親の都合によって違う場所にいる。 私はゼロに設定されてしまった。 「はい。もう良いわよ。」 体から布が外された。 なんだかんだ考えているうちに終わったようだ。 髪は切り揃えられ、肩までの長さに変わってしまった。 自分は・・・・・高校生みたいだ・・・・・・・・・・。 「あなたは顔が可愛いから、何でも髪型が似合うわね。」 私は顔が赤くなるのを感じた。 おばあさんはそれでも変わらない笑顔を見せていた。 私はお金を払った。 するとおばあさんは飴をくれた。 「ここの散髪屋も子どもが来なくなっちゃってね。こうやっていつでも飴を出せるように用意してたんだよ。」 おばあさんは部屋の片隅にあるゴミ箱をチラリと見た。 そこには賞味期限切れになった、飴の入った袋があった。 私は血の気が退くのを感じながらおばあさんを見た。 「大丈夫。その飴はさっき駄菓子屋で買ったものだよ。」 よかった・・・。 私はホッと溜息をついた。 帰り際、おばあさんは私をずっと見ていた。 「・・・ありがとうございました。」 私はただそう言った。 するとおばあさんは、 「また来て頂戴ね。」 と、若々しい笑顔でそう言った。 また来よう。 |
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