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作者: ルーク 2010年07月21日(水) 15時45分12秒公開 ID:UIAOiqYuVxY |
駅前は、私が住んでいた街とは違い、緑が多く、のどかだった。 「ベンチ…、ってどこだろ」 こげ茶色の大きな旅行カバンを一度おろし、あたりを見回すと、ホームのすぐそばにペンキがはげかけた大きなベンチがあった。 しかし、困ったことに、ベンチは2つあり、2つとも満席であった。 帽子をかぶって寝ている人、新聞を広げたいる人、隣の人とおしゃべりしている人などなど……。 誰なんだろう。せめてわかるようにしててほしかったわ……。 と、小説を読んでいた、少しだけ長めの髪を後ろで縛っている少年がパタリと本を閉じて、こちらをまともに見つめた。 彼の髪の毛は、この辺りでは珍しい黒髪であった。その髪の色と、きれいな瑠璃色の瞳に少しだけ胸がときめいた……気がした。 その少年は立ち上がると、こちらへ歩いてきた。 「あなたですか。今日から別荘へ移るというお嬢様は」 ほんの少しだけ私よりも背の高い彼を見上げる。 「は……、はい。はじめまして。エイク・モーガンです」 名乗ると、その少年は嬉しそうにほほ笑んだ。 「ちょうどもうそろそろいらっしゃる頃ではないかと待っておりました。僕は、レイルと申します」 数分後、私とレイルは馬車に揺られていた。 「ここからどのくらいなの?別荘って」 「そうですね、10分くらいでしょうか」 へえ。意外と近いのね。結構田舎町に見えたから、私はてっきり30分くらいかかるのかと思っていた。 「ねえレイル。年はいくつなの?」 隣の少年の顔を覗き込むと、馬を操っていた彼は一瞬頬を赤く染めた。 「年ですか?今年で15になります」 「わあ、私と1つ違い!」 「え?14歳、なのですか?」 レイルは私の身なりを見ながら驚いたように目を大きく開かせた。 無理もない。私は、実は年相応のひざ下十数センチのスカートを好まないからなのか、12歳くらいに見られることが多いのだ。 「ふふ、以外でしょ」 そうやってポツリポツリと話をしている間に、大きな別荘が見えてきた。 「わ、きれいな庭!あそこなんでしょう?別荘って」 思わず前に身を大きく乗り出す。 「わわ、危ないっ」 馬車が大きく揺れた。 「わ、きゃぁっ」 ―落ちるっ。 思わず目をギュッと閉じた。 だが、いつまでたっても来るはずの衝撃が来なかった。 不思議に思って目をあけると、馬の操縦をとっさにやめたレイルが私の背中を支えてくれていた。 「だ、大丈夫ですかっ?」 「うん、大丈夫…。ごめんね、レイルこそ大丈夫?」 「はい、大丈夫です」 ほっとしたようにレイルはまた馬を操った。 大きな噴水を迂回すると、屋敷の入り口が姿を見せた。 「ここです。降りられますか?」 「平気っ」 と、私はスカートの裾が少し跳ね上がるのも気にせずに馬車から飛び降りた。 レイルは私の鞄を下して、衛兵を呼んだ。 「馬を小屋に戻しておいて下さい」 「はっ」 「じゃあ、行きましょう、お嬢様」 「はいっ」 ここが、今日から私の家なんだ。 [続く] |
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