ring-a-ring W |
作者: ルーク 2010年07月26日(月) 15時07分49秒公開 ID:UIAOiqYuVxY |
エイクが屋敷に来て、俺とおそろいの指輪を渡した次の日、窓の外は土砂降りの雨が降っていた。 「つまんないなぁ」 ふわふわのソファに座り込んだ俺のお嬢様はさっきから10回以上もその言葉を繰り返していた。なぜなら、今日の午前中、本当ならば屋敷自慢の庭を案内する、と約束していたからだった。 正直な話、まだ半信半疑なのだ。まさか、三大公爵家のお嬢様がそんなことを望んでいたなんて。 俺は、生まれた場所も、両親の顔も、名前も、何も知らない捨て子だった。そんな俺を、この屋敷の主であるエイクの叔父が拾って召使として育て上げてくれた。 「そうだっ、ねえレイルッ」 いきなり、エイクががばっと立ち上がったものだから、びっくりして俺は床の上に無様に転がってしまった。 「い、いってぇ……」 肩をもろにぶつけた。じんと熱をもった痛みが走る。 エイクは、そんな俺の痛みをまるで気にしないように目をキラキラさせて俺に向き直った。 「そうよ、そうなんだよっ」 「だから、何がなんだよっ。俺にはわけわかんねぇよ」 「私、まだ屋敷のことを何にも知らないわ。ねぇ、だから、屋敷の中を案内してくれない?」 屋敷の中を? 案内? まあ、悪くはないだろうけど。 壁にかかった振り子時計を見上げる。時計の針は、11時30分を指そうとしていた。 「だけど、エイク。午後からは誕生日パーティー用のドレスの採寸に仕立て屋が来るって言ったじゃないか。あんまり時間はないぞ」 「いいの!お願い、まだ30分もあるじゃない。せめて、この3階だけでも案内してよ、ねっ?」 今俺たちがいるエイクの部屋は、5階建ての屋敷の3階にある。 他にこの階にあるのはせいぜい物置部屋とかしかないと思うのだが。 「っていうか、無断で部屋あけると旦那さまに怒られるかも知れないんだけど」 旦那さま、と言うのはエイクの叔父のことだ。 「いいよ。叔父さまには私が連れまわしましたって言うから」 おいおい。 「この部屋が、多分最後だと思うんだけど……」 3階は、もともとゲストルームの為に作られたような階だから、特に面白いものはなかった。だけど、今俺たちが目の前にしているこの扉からは、なんだか不思議な雰囲気がかもし出されていた。 「なにかあるよ、きっと」 すっかりこの部屋の中身が気になって仕方がないエイクが早く早くとせかす。 「じゃあ、開けるぞ」 ギィィッ。 「わぁ……、懐かしいなぁ」 ランタンで中を照らすと同時に、エイクが声を上げた。 「この部屋は?何か、わかるのか?」 そう尋ねてみると、彼女は嬉しそうにうなずいた。 「物置部屋。私、叔父さまの屋敷に来ると必ずここに来ていたんだ。今思い出したんだけど。…………」 しばらく沈黙が続く。ランタンに照らされて、指輪の石がきらりと光る。 やがて、何かを隠すかのようにエイクは俺もろとも部屋の外へ出た。 「ほら、もうすぐお昼だよ。行こ行こ」 何か、あるのだろうか。この部屋に。 少し、引っかかったけど、その時は彼女に押されるがまま、昼食が用意されているであろう広間へと足を運んだ。 [続く] |
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