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作者: ルーク 2010年07月30日(金) 09時16分23秒公開 ID:UIAOiqYuVxY |
ある日のことだった。 エイクが俺に唐突に尋ねてきた。 「ねえレイル、あなたは学校へ行ったこと、ある?」 「学校?」 俺は一瞬しかめっ面をした後、首を横に振った。 「ないよ。俺は旦那様に拾われた捨て子なんだから。まあ、教育自体は受けていないわけじゃないんだけど……。どうしたんだよ、いきなり?」 「私、学校って憧れてるんだ」 エイクが遠い目をして言った。 「へえ」 「私、ずっと大人の中に囲まれて暮らしてきたから、学校とか集団生活とかしたことなくって。たくさんの友達作りたいな、とか、他愛のないケンカしてみたいな、とか。家庭教師って、そりゃあ勉強のし甲斐はあるけど、つまんないんだもん」 こりゃ、完全に愚痴モードだな。 だけど、エイクの本音であることは確かだった。 俺の使命は、エイクのそばにいること。痛みを共有すること。守ること。自分のことよりも、エイク優先の日々を過ごしてきた。 だけど、正直な話、俺にもどうすることもできなかった。 「そっか…」 「うん。それより、レイル」 「ん?」 「庭園に行こうよ。今日は少し暑いから、池の辺りに行ったら少しは涼しくなるんじゃないのかな」 庭園、か。まあ、エイクの気晴らしになるなら、いいんじゃないのかな。 「じゃ、行くか」 「行く!」 エイクがやっと笑顔を見せた。 この屋敷の階段は、ほんの少しだけ傾斜が急だ。しかも、螺旋階段だから、俺が初めてこの屋敷に来た時、ものすごく怖かった。エイクが来た時も、初めは不慣れそうだった。 だけど、最近は俺もエイクもどうにか慣れてきた。 聞いたことがあるだろうか。けがは、慣れてきたころに起こりやすい、という言葉を。 まさに、そうだった。 階段の残り10段ほどに差し掛かった時、エイクが俺の一段前で足を滑らせてしまった。 「きゃ…っ」 彼女の体がぐらりと傾いた。 「危ないッ!」 体がとっさに反応していた。 とはいえ、どんなふうにしていたのか、自分でもよくわからなかった。でも、エイクの体を抱えて態勢を立て直していた。 ほっと安堵した、その時。 「うわぁっ!?」 足を滑らせて、エイクを抱えたまま腰からもろに8段下へと落ちて行った。 ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ドンッ。 「……痛ぇ〜」 俺は腰を打ったままあおむけに倒れていた。その上で、エイクが心配そうにこっちを見つめていた。 「だ、大丈夫?レイルッ」 「エイク、無事?」 「私は大丈夫だよ、でもレイルは……」 「うん、よかっ、た。俺は、別に…」 「馬鹿。ほんとに大丈夫なの!?」 「う、うん…、だい、じょぶ、だけど、とりあえず降りてくれると……」 エイクは一瞬きょとんとこちらを見た後、自分の足元を見て、自分がちょうど俺の上にまたがっているという状況を知って、 「あ……」 顔が見る見るうちに真っ赤になっていった。 「エイク、顔真っ赤だよ」 わざとからかうと、エイクの顔はもっと赤くなった。 「う、っるさい!」 早く行くよ、とエイクは半ば逃げるようにして早足に先へ行ってしまう。 まだ腰が痛む。でも、構うもんか。 その後ろ姿を追いかけて、エイクにも聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。 「……お前を守ることが、俺の生きがいだから……」 [続く] |
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