音が消えた時、光が見えた時 #1 |
作者: ちびハチ公 2010年07月26日(月) 19時58分04秒公開 ID:MRiX6gH5OZ6 |
「ピカリー。入るぞ。」 俺はケンゴと一緒にヒカリのいる病室に入った。 早速ケンゴにヒカリに伝えて欲しいことを手話で伝えた。それを見て、ケンゴが俺の代わりに言ってくれた。とは言っても、それがこいつの仕事の様なものなんだが。 「ピカリ。シンジが、『一週間後の手術、成功するといいな』だって。」 「本当?」 ヒカリは俺の肩をたたき、手話で『ありがとう』と伝えてきた。俺は再びケンゴに『どういたしまして』と伝えて欲しい、と手話で伝えた。 俺は先天性の病気で耳が聞こえない。だから、いつもポケモントレーナーである兄貴だけを見ていた。他人とは関わりもしなかった。家にこもってばかりだったからな。しかし、あるバトルで負けた事をきっかけに戻ってきた。本当は俺もトレーナーになって兄貴のようにならずに進んでみたかった。でも耳が聞こえない俺には、ポケモンに指示をだせない。家にこもりっ放しで手話でしか人と話したことがなかったからな。だから、育て屋になった兄貴をただ見ているしかなかった。 そんな時、近くにヒカリとケンゴという同じ年の奴がいる事を知った。早速会ってみると、二人は初めから手話を使って話しかけてきた。『何故手話が使えるのか』と訊いたら、『シンジと友達になるために勉強した』という答えが返ってきた。その手話は少しぎこちなかったが、その時は嬉しい気持ちでいっぱいになっていて気にもしなかった。 俺は家にこもりっ放しの生活から脱出し、毎日のように二人と遊んだ。一緒に外で遊んだり、雨の日にはゲームをしたり。暑い夏に三人で普段着のまま近くの川で水遊びをしてしまって、三人びしょぬれで俺の家に戻り、兄貴に笑われた、なんて事もあった。 だが、今は違う。ヒカリが病気になり、失明したのだ。 今まで出来ていた手話も俺一人では分からなくなった。だから今はケンゴを介して話している。 ヒカリは先天性ではないので、手術を受けて再び光を見ることが出来る。最初は少し抵抗があったようだが、最終的にヒカリはその手術を受けることにしたのだ。 帰り道、ケンゴが突然肩をたたいてきた。 『どうしたんだよ。浮かない顔してるぜ』 ケンゴは手話でそう言った。俺は答えなかった。すると、ケンゴはこう続けた。 『もしかして、手術が失敗したらとか思ってんのか?』 ケンゴの言う通りだった。だが素直にそうだ、と答えるのは俺のプライドが許さない。だから代わりにこう伝えた。 『そんなこと考えるかよ、バカ。』 ケンゴはそれを見て、ため息をついたようだった。そして、すぐにこう伝えてきた。 『バカですいませんでした。また明日、同じ時間でな。』 俺たちはそれぞれの帰路についた。[/size] |
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