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作者: ルーク 2010年08月17日(火) 18時07分54秒公開 ID:UIAOiqYuVxY |
「叔父さま、今年はずいぶん人が多いみたいね」 階段を下りて、ワイングラスを片手に誰かと談笑していた叔父さまが振り返った。 今は、パーティー開始から20分後だ。 「うん。今年は僕の友達まで読んでしまったからね。緊張するかい?」 笑顔で尋ねてきた叔父さまに、ほんの少しだけうなずいた。 「さすがに、こんな人数の前でスピーチをするのは初めてですもの」 会場を見回すと、ざっと100人ほどの人がみなグラスを片手に談笑していた。 「あなたが跡取りのお嬢様ですか」 叔父さまと話していた30代ほどの男の人が話しかけてきた。 「は、はじめまして。本日はお忙しい中いらっしゃっていただき、ありがとうございます。エイク・モーガンと申します」 ぺこりと頭を下げる。 「いえいえ、そんなことはありませんよ。お誕生日おめでとうございます」 「ありがとうございます」 「あれ、そういえば、レイル…大丈夫?」 後ろを振り返って、彼のあまりの表情に、思わず笑いそうになった。 「は、はいっ、だ、だだ、大丈夫、です」 私以上に緊張しているのだろう。かちんこちんに固まっていた。 私はふうっとため息をついて、レイルの手を引いた。 「それでは、失礼いたします」 「……ごめん」 「謝らなくていいのよ。やっぱ、緊張するんだ?」 広いホールの、隅っこにある小さなテーブルとイスまで彼の手を引いて歩いて座らせた。私もその向かい側のイスに座る。 「や、あんまり大勢人がいて、びっくりした…」 「うん、私も。…あ、そうだ。ちょっと待ってて?」 やっぱり、緊張をほぐすためには、これあるのみ、かな。 そう思って私はたくさんのおいしそうな食事が置いてあるテーブルに近寄った。 お皿を2枚とって、とりあえず目に付いたエビフライと温野菜、仔牛のパイをそれぞれによそう。 元のイスに戻るときに、近くにいたメイドに 「オレンジジュースを2つ持ってきて」 と頼んで、イスに座った。 「え…」 「とりあえず、食べよ。緊張ほぐれるから、ね」 そう言ってフォークを差し出す。ちょうど良くメイドがオレンジジュースを持ってきた。 そのオレンジジュースを一口飲もうとグラスを持った時、 「エイク、もうスピーチの時間だよ」 と、叔父さまの声がした。 「あ、はぁい。 レイル、いってきます」 「おお、気をつけて」 もう一度レイルを振り返って、小さくほほ笑むと、叔父さまの元に駆け寄る。 「それでは、これより本日のメイン、エイクお嬢様のスピーチです」 司会らしき女の人の声がして、思い思いにしゃべっていた人たちが一斉にこちらを見た。 緊張が一層増した。 はやる心臓を感じながら、落ち着いて、と心の中に暗示する。 「本日は、皆様お忙しい中私の誕生パーティーにご参加いただき、誠にありがとうございます。皆様が温かく見守ってくださったおかげで、私は本日15歳の誕生日を迎えることができました。 私は、この屋敷に来てからまだ数カ月しかたっておりません。今も、慣れていないところが多くて毎日手間取っているのですが、ここにお集まりいただいた皆様の顔を見て、安心しています。 本当は、言いたいことがもっとたくさんあるのですが、せっかくパーティーにいらっしゃったのです。久しぶりに会う人もいらっしゃることと思います。この日を機にたくさんお話しいただければ嬉しいです。 ええと、それでは、パーティーをお楽しみください」 本当に短いスピーチを終えると、会場から拍手がどっとわいた。 ちょっと安心してレイルの元へ帰った。 「お疲れさま」 「んー、やっぱ短すぎたかなぁ」 実は、あのスピーチ、ちょっと納得いってなかったりするんだ。 問いかけてみると、レイルはちょっと嬉しそうに首を横に振った。 「そんなことないって。それより、早く食おうぜ」 「うん」 レイルの笑顔につられて、私も笑顔でうなずいた。 「それよりさ、よく俺の好きな食べ物わかったな」 「え?」 食べ始めてから、レイルが不意にそんなことを言うのでびっくりして顔を上げる。 「俺、エビフライ大好きなんだ」 「え、私、勘でとってきただけだよ」 「勘だったらもっとすげぇや。うん、ありがと」 なんだか、心の奥がほわっとあったかくなった。 「ううん、喜んでもらえたなら私もうれしいな」 パーティーは午後9時に終焉して、私たちは部屋に戻った。 「ふぁ〜、疲れたぁ」 レイルがボスンと私のお気に入りのソファーに身を沈めた。 「うん、疲れた。でも、楽しかったなぁ」 今日は、なんだか最高の誕生日だった気がする。 「あ、そうだ。忘れるところだった」 レイルが急に飛び起きて、自分の手持ちカバンをごそごそとあさった。 しばらくして、袋を片手に私の前に立った。 「これ、えっと、誕生日、おめでとう」 プレゼントだった。 「わ、ありがと!なになに?」 リボンをほどいて、袋を開けると。 「わ、かわいいっ」 中から出てきたのは、テディ・ベアだった。 「その…、気に入るかなぁと思って」 レイルのほうを見ると、そっぽを向いて少し照れたように頬をかいていた。 「うん、すっごく気に入った。ありがと、レイル」 [続く] |
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