オレ×俺、僕×私〜自称情報屋、S〜
作者: 原田悠浩   2010年09月22日(水) 00時27分29秒公開   ID:rCPKsfrr8dY
自称情報屋、S

僕の予想は狂いっぱなしだった。
紺野凪紗に会いに行き、断られ、実力行使に出るところまでは予想道理だった。
こいつも所詮、この程度か。
そう思った時、予想外の言葉ワードを彼が発した。
場所の移動を申し出されたことだ。
ここから少しずつ予想と現実のすれ違いが起こり始めた。

ドアもろとも投げ飛ばされて、滑り込んだのは美人の真下。
彼女のスカートの中を拝見し、殺られそうになるのを紺野凪紗に止められる。
ここまでなら少し狂っただけなのに。
彼女は、越えた。
僕の考えを遥かに

紺野凪紗を蹴飛ばすことによって…ね。



「で、お前らは誰だ。」

彼女は膝の上に紺野凪紗の頭をのせ、髪をすかしながら言った。

「僕は嘉翔汰。膝上のは、紺野凪紗君。
 君たちは…松本真綾さんと、大野悠さんだっけ?」

彼女は眉間に皺を寄せて不審そうな顔をして僕に尋ねる。

「何で、私らの名前を…。」

君は、僕の予定を狂わせたくせに、そんなアリキタリナコトを僕に尋ねるんだね。
腹の内で考えたそんなことは一切口に出さず、
僕は満面の笑みを貼り付けて答える。

「美人の名前は、チェック済みなんだ。」

「きもい。」

「悠ちゃん!そんなこと言っちゃダメ!人にはいろんな趣味があるんだから!」

真綾ちゃん、フォローになってないよ、それ。

「そこじゃねぇ。きもいのは、その面にはっつけた作り笑いだよ。」

きょとん。そんな音が似合うだろう顔を松本真綾はした。
そしてきっと、僕も。
不意を付かれたこともあるが、それよりも大きかったのは、
今までこの作り笑いに気がついたのは、たった一人だけだったから。
…ぁあ

「おもしろい…!」

「は?」

「君はいいね、うん。僕の予想を軽々と越えてくれる、白ちゃん。」

松本真綾は平凡すぎてツマラナイ…とは声に出さずに呟く。

「…次白ちゃんつったらブッ飛ばす。」

「し、ろ、ちゃーん☆」

「…歯、食い縛れや。」

うーん、これはちょっと挑発しすぎたかも、と
少し後悔しつつ、歯を食い縛る。目は閉じておこう。
僕が覚悟を決めたとき、また予想外が訪れる。

「悠、やめなさい!」

凛とした声が響き、屋上が静寂に包まれる。

予想外の出来事に僕は目を開けて、松本真綾をみつめた。

「だめだよ、悠ちゃん。今暴れたら、膝にのっけてる人
 …こんどー君?が落ちて頭打っちゃう。」

そう、先ほどの凛とした声は何処に行ったのかと思うほど、
真綾ちゃんはいつも通りの声でいった。

「ま、真綾…。」

「ね?」

戸惑う大野悠に、満面の笑みを向ける松本真綾。
あぁ、君を否定した僕を許しておくれ。
君も、僕の予想を越えてくれる一人だったんだね。

「分かったよ。」

「悠ちゃん、えらい!ほら、こんどー君に謝ろ!」

…いやいやいや、僕を無視して会話に花を咲かせないで?ってか、

「こんどーじゃなくて紺野。」

ツッコミたかったんだよね。

「ぇっ!?ご、ゴメンね、紺野君っ!」

松本真綾は真っ青な顔で凪紗君に頭を下げるが、彼はもちろん無反応。

松本真綾は、素であんな感じなのか…?
いけない、興味がわいてきた。

…もし松本真綾が素が天然だけでなく、腹黒さも持ち合わせていたら。

「彼女に似ているな…。」

僕がそう呟いた刹那、

「ここか―――――っ!?」

耳をつんざく叫び声と共に、僕は背中に衝撃を感じ、直後、床と接吻した。
うつ伏せになった背中が重い。
きっと、足蹴にされているんだろうな…。
ドアの無い入り口に背を向けて座るだなんてこと、しなければよかったな。

「げっ、夕美!おっ前ここまで来たのか、しつこいな。」

…夕美だと?

「うん、ゆーちゃんの匂いたどって!真綾ちゃん、こんにちは。」

っ!…この声は、彼女、だ。

「匂いって…お前は犬かっ!」

消えなければ。

「かも!」

この場から、彼女の目の前から、消えなければ…!

「ゅ、夕美ちゃん、足元!」

彼女が僕へと視線を移す。僕と彼女の視線が、ゆっくりと、しっかり絡み合う。
一瞬戸惑いの色を浮かべた彼女の瞳は、いつもと変わらないものへと戻る。

「…夕美。」

「翔汰君。足、退かしてほしい?」

「何故君がここにくるんだ。」

何故また、君は僕の予想外の出来事として飛び込んでくるんだ。

「それ、こっちの台詞だねー。
 なぁんで翔汰君が愛しのゆーちゃんと一緒にいるのかなぁ?」

「とりあえず、足をどかせ。僕は悠さんに興味はない。
 彼女の膝上の奴に興味があるんだ。」

失言した。そう思ったのは、僕が〔興味〕という言葉ワードを使ったこと。
その言葉ワードで、彼女は居なくなった。
なのにまた僕がこの言葉ワードを彼女の前で使ったから。
彼女は曇った瞳のまま、僕から足をどかす。

「まだ翔汰君は…また翔汰君は、予想外の人を求めてるんだ。
 翔汰君は、変わらないね。」


いたい。



やめてくれ。翔汰君だなんて、他人行儀な呼び方。
そんなに僕らは離れてしまったのかと、距離を実感させられる。
ぃたぃ。失ってしまったから、痛いのか。
僕は、独りになったことを、何処かで後悔しているのか。
自分で、彼女を切り捨てておきながら。
恐いのか…?
いや…何が恐いだ。そんなものも、痛みも、
自分の感情は、全て切り捨てると、決めたんだろう?


たった1つしかなかった、宝物でさえも。




そぅ、俺…僕は、情報屋。
一人の人間の前に情報屋。
面白いもの、新しいもの、使えるもの。
それを求めて、さ迷う情報屋。
全ては、僕の範囲外の為に探しているんだ。
だって…さ、

「僕は情報屋だから。」

■作者からのメッセージ
僕、登場!
さてさて、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
最初のお話からここまで読んで下さった方は
もうお分かりでしょうが、
この物語のタイトルとなっている、
『オレ×俺、僕×私。』
は、ここまでに出て来た四人の事を表しております。
また、サブタイトルとして出て来た
Y・N・S・M
も、各回毎にストーリーテラーとなってくれる
方々です。
4人それぞれが同じ場面に居合わせたり、居合わせなかったりで
物語がかぶっているけれど、違う視点から話が進んでいく場面も
たくさん出て来て少々わかりにくいでしょうが、
ここまで読んで下さったのならば最後まで
お付き合い頂けると、幸いです。


ちょこっと、種明かし(解説)をして、去ります!
オレ=Y=悠
俺=N=凪紗
僕=S=翔汰
私=M=真綾

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