江戸組っ!第一章 #3 偵察 |
作者: ちびハチ公 2010年07月22日(木) 12時40分38秒公開 ID:MRiX6gH5OZ6 |
「これでいいんですか?」 黒髪の女は町の人々に三度笠やマントを渡され、それを試していたのだ。 「大丈夫だよ。でも、その長い髪をどうにかしないとねぇ。」 この老婆の言う通りだ。 こいつは狼という生き物の耳が生えていて身体能力も並でないことから、この世界の『武士』に追われている。捕まらないために変装、という方法もある。が、女は完全に拒否した。そのため顔を隠すという手を使うことにしたのだ。 老婆のその言葉を聞いたとたん女は髪を低く結び直した。そして刀をさやから出し、おろしていた髪をバッサリと切った。下手をすれば、首か手を切ってしまうような速さで。そこに居合わせていた人間、俺も含めて、全員があっけにとられた。 「これなら、男にしかみえないですよね?」 女はあっけにとられている俺たちにニッコリと笑顔を見せた。 今までは髪を高く結んでいたから、言葉遣いや服装が男同然でもかろうじて女だと分かった。だが、髪が肩までになった今は完全に男だ。 奴らが探しているのは髪を高く束ねている『女』。確かにばれそうにも無い。 三度笠をいっそう深くかぶると、女はこう言った。 「さて、この町を歩いてまわってみるか。シンジ、お前は来るか?大丈夫だ、いくら俺の弟でもおまえに対してお触書が出てないんだから捕まらないよ。」 俺は女に言われてこの女の『弟』を演じさせられている。そうでなければ、何か不都合が起きるらしい。俺は『ポケモンのことや本当は姉弟じゃないってばらしたら一生ここにいるままかもしれない』と念を押された。 「・・・行かない。『姉貴』だけ行けばいい。」 こいつを『姉貴』と呼ぶのはかなりの苦だった。今までは『女』や『お前』だとしか呼んでいなかったのだからな。しかし、元の世界に、元の服装に戻るためなら仕方が無い。 「・・・なら、俺だけ行ってくる。」 そういうとここでは『姉貴』である女は『偵察』に行った。 この町にある城は『若草城』というらしい。今までの若草城城主であれば女が刀を持つことは許されないとして『姉貴』を殺しただろう、と町の人々は口々に言った。 だが、今は違う。先ほど城主が『姉貴』を探している証拠として「お触書」というものを見せられた。そこには、耳が生えた状態の女の写真があった。そして、罪については全く書かれていなかった。女によれば、この世界のこの時代にカメラをつくる技術も、こんなに綺麗に現像する技術も無いらしい。つまり、これは女が本当に二本の刀を使うべき人殺しの霊魂、『誘い神』の仕業であると断定できる、らしい。 夕方になってから、『姉貴』は帰って来た。肩にムックルを乗せて。 「おい、『姉貴』。そいつは何だ」俺はムックルを指差した。 「こいつは、ここに『飛ばされた』らしいんだ。」 「『飛ばされた』?」 「とりあえず、中に入らせてくれ。立ちっ放しは疲れる」 そう言うと、『姉貴』は中に入った。 肩に乗せて連れてきたムックルはこの町の上空を飛んでいたらしい。そのムックルに訳を訊くと(どうも女はポケモン達と話せるらしい)、『気づいたらここにいた』と言った、と『姉貴』は言う。 「確かに最近、そういう奴が増えてきたねぇ。最初は犬みたいな顔して火を吹いてきたから、びっくりしたよ。」 きっと老婆が会ったのは、ガーディだろう。俺と『姉貴』は直感で分かった。 その夜、俺たちには一つの小さな部屋が用意された。そこに俺と女、そして女が連れてきたムックルが寝ることになったのだ。 女はムックルに『部屋の中で飛ぶな』と鳥ポケモンであるムックルには無理そうな頼みをした。が、ムックルは女の言うことをしっかりと守り、女の横にある高さがあまり無い机(硯というらしい)の上でじっとしている。 俺は窓から3mちょっと離れて壁に寄りかかっていた。それに対して女は硯の近くの部屋の角に座っていた。女は珍しく無言だ。俺にとってはその方がいいのだが。 もしもここにあの青い髪の女がいたら、かなり騒々しかっただろう。あいつがいないだけマシか。 俺は今まで気になっていたことを口に出した。滅多に無いことなのだが。 「何でそんなところにいるんだ。」 「・・・今日、満月だろ?満月を見ると化け物になるから。根本的に夜空が嫌い。」 女は細々とした声で答えた。あの女とは正反対の価値観を持っているようだった。化け物、というのは少し引っかかったが。 「化け物って・・・どういう意味だ」 突然ムックルが俺の頭を突っついてきた。俺に理由は皆目分からない。 「おい!やめてくれ、ムー!シンジは何も知らないんだ!」 その声を聞いたとたんムックルはつつくのを辞めた。 「お前に話すよ、その事。俺のこの耳、俺の中にいる奴のものなんだ。」 俺は何も文句を言わず、女の話を聞いた。 「俺には六歳まで両親がいた。けど、交通事故で死んだ。父さんと母さんと一緒にいたはずの俺は、何故か生き残った。それで身内に『化け物』とか『死神』って口々に言われた。それで夜に親戚のマンションの屋上から飛び降りて死んだ、と思う」 「は?」 シンジは何で死んだと『思う』というのか、と訊きたいのだろう。俺は仕方なくこう話した。 「いつ、どこで、どうして死んだか覚えてない。気づいたらもう誘い神狩りをしていた。」 ムーもシンジも何も言わなかった。 深夜になって、やっとシンジもムーも寝た。俺は一人、機械いじりをしていた。 |
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