江戸組っ!第一章 #7 歴史を戻す時
作者: ちびハチ公   2010年07月29日(木) 10時52分21秒公開   ID:MRiX6gH5OZ6
 俺は『姉貴』のいない部屋で一人と一匹でいた。一匹とは『姉貴』のムックルのことだ。正確には『姉貴』が連れてきたムックルだが。
 ボーっとしていた俺は無意識に女に渡された無線機らしき物の電源を入れた。すると突然、声が入った。
(良様、どうしてるんだろうな)
俺は立ち上がり、辺りを見回した。誰かに見られている以外、考えられなかったからだ。
(ここだよ、ここ。お前の目の前だよ、バーカ)
目の前にいる奴と言えば、女のムックルだ。あいつが話せる訳が無い。まさか・・・。
(そう。そのまさかさ。その無線機を通してお前はこのムー様と話してるのさ)
自惚れたムックルか。初めて見たな。
(そんな事より、無線だよ。電源、入れてみろよ)
「は?今入れてんだろうが」
(その電源じゃないぜ。さっきのスイッチの隣だよ。それと同じ物を良様は持ってるんだぜ。お前は良様を助けたくないのかよ)
俺はどちらでもない。女一人で歴史が変わる訳でもないのに、助ける必要も無い。しかも、俺はあの女に対して恩も何も無い。そう思っていたとき、再びムックルが話し出した。
(もしこのまま良様を助けなかったらどうなるか、教えてやるよ)
「随分上から物を言うな」
(そんな事はどうでもいいだろ。もしも良様を助けなかったら歴史は180度変わる。お前も死ぬかもしれない)
こいつは何を言ってるんだ。たかが女一人・・・。
(良様がここで死ぬか城主の家臣になれば、現代には戻れない。いなかった事になる。そうなると良様に命を助けてもらったお前と良様の相棒は死ぬ。どうだ、歴史が180度変わるだろ?)
「確かにそうだな。だが、何でお前がその事を知っている」
(良様から聞いたんだ。昨日の夜)
あの女は口が軽いな。このムックルが自惚れているのもあの女の傍にいたからだろう。
 仕方なく、無線の電源を入れた。一発目に誰かの声が入った。
『良?!良だよね!』
誰かと思えば、あの茶髪だ。
「違う。俺だ」
『シンジか・・・。良は?』
「捕まった」
 茶髪は無言になった。と、突然あの青い髪の女が割り込んできた。
『ちょっと!何がなんだか分かんないけど、あんただけ無事ってどう言う事?!まさか、良さんを見捨てて逃げたの?!』
 違う。あの女が自分の力を過信したからこうなったんだ。俺は何もしていない。
俺はそう言おうとして口を開いた瞬間、茶髪が蒼い髪の女をなだめるように言った。
『・・・ヒカリ。シンジは何もやってないんだよ。良がシンジを戦いから遠ざけたんだ。』
 「アイツが自分の力を過信してただけだろ」
『あの自称天才良君の事ですから分かってると思います』
茶髪はハッキリと言った。
 『・・・良が狼に取り付かれてる事なら知ってるよ。武蔵さんから聞いた。それで誘い神に操られてる若草城の城主に追われて、捕まったんだろ?任務っていうのは僕達をここにおびき寄せる為の罠だった。それに早く気づいていれば・・・』
「罠?」
『あぁ。奴らが仕組んだ罠だったんだ。僕らのボスに化けてね・・・』
「その事、誰から聞いた」
『・・・武蔵さん』
「知らん」
茶髪は声をあげずに笑った。
 『おい、お前ら。俺抜きで何盛り上がってんだ』
その声は、俺の恩人であり今城で捕らわれているはずの宮元良だった。
■作者からのメッセージ
シンジとムーが会話しました。無線機を通してですけど。(ここに出てくる無線機は良が改造したものです)実は良、自分で改造した無線機を合計三機持ち歩いていたんですね。シンジは良の事を『恩人でも何でも無い』と言っていますが、もしかしたら心の中では恩人と思ってるみたいです。姉貴とも。ここではあまり描写がありませんが良の事を『姉貴』と言ってます、無意識に。

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集