桜とチョコミントと逃走劇。 前 |
作者: ルーク 2011年01月17日(月) 15時03分07秒公開 ID:gDpB60zr1as |
「ほんと、うちの学校の桜は早咲きで助かるよねー」 「てか、この桜も今日で見納めかぁ…早かったねぇ、3年間」 いつも一緒にいた友達二人があたしの席の前でため息をつく。 そんななか、あたしはまたあの人の視線を感じた。……様な気がした。 ばればれだっつーの。 横ではしゃぐ友人たちの声をバックに、あたしはぱっと横を向く。 目が合ってしまったせいか、「彼」はあわてて顔をそらす。 まー、しょうがないかな、今日くらいは大目に見てやろう。 今日は、卒業式だから。今日で、君ともお別れだもんね。…レン。 「あのさ、リン」 卒業生が制服の胸に留める花を友人たちもらいに行った時、横の席から彼が声をかけてきた。 「ん?」 「校長の話、ダリィじゃん…?」 「ん?ん、そうだよね。ほんとやだよね」 「そんでさぁ、…………抜け出さない?」 「はぃっ?」 くそがつくほどまじめで根っからの模範生なあたしの幼なじみ、鏡音レン。そんな彼が「抜け出す」だなんて考えもしなかった。 「ふーん、めずらしいね、あんたが抜け出すなんて」 「えっ、あ、いや、その…」 言葉に困ってしまったのか、赤くなってうつむいてしまったレンの髪をくしゃりとなでた。 「いいよ、あたしもだるいもん。二人で抜け出そうよ」 そう答えたあたしに、レンはパッと顔をあげてはにかんだ。中学に入ってから急にかけ始めた眼鏡の奥の瞳が、思いっきり笑っていた。 卒業証書の授与が終わったあとは、ぶっちゃけ暇。PTA会長からの式辞だとか、在校生からの式辞だとか。一般生徒にとってはとにかく暇なだけだ。 校長先生の話が始まってすぐ、あたしは体育館を抜け出した。 裏庭には、うちの学校の自慢の早咲きの桜が咲いている。 その中で、レンはフェンスにもたれかかって立っていた。 「お、無事抜け出せたんだ」 「おお。リンもうまくやったな」 「当たり前じゃん。一応元陸上部エースですから」 幼なじみで、家が近所で、しかもなぜか苗字が同じ「鏡音」なあたしリンとレンは小さいころからよく遊んでいた。 この年になると、あんまり異性と話さなくなっても、レンとはやっぱりちょっとした絆があり、たびたびしゃべっていた。 「…あのさ」 ちょっと自分のことに思いをはせていたあたしはレンの改まった言葉ではっとした。 「高校…バラバラなんだよな、俺たち」 「あっ、うん、そうだね…」 頭のいいレンはトップレベルの高校に進む。あたしは普通の高校のスポーツ課に進む。ものの見事にバラバラなのだ。 「だから今言わなくちゃって思って。 俺、実は、…」 よっぽど緊張しているのか、レンは何度も深呼吸を繰り返した。 「どうしたの?」 「俺、実は、ずっと前から、リンのことが…好きだったんだっ!」 ………………へ? 何?誰が、誰のことを、何…? 「えっ、ちょ、待ってよ、あの、その」 冗談でしょ!? だって、あたしたち幼なじみで、ずっと、友達だと思ってて…。 だけど、眼鏡の奥のレンの瞳は、あくまで本気だと言っていた。 「ご、ごめ、ちょっと、ちょっと考えさせて…っ!!」 気が付いたら、あたしは裏庭を駈け出して、校門さえも通り抜けて、ただただ走っていた。 「え、ちょ、待てよリン!!」 一瞬の不意をつかれたレンがあわてて追いかけてきてるのがわかった。 [続く] |
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