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作者: ルーク 2011年01月26日(水) 15時24分16秒公開 ID:gDpB60zr1as |
「う…っく、ひ…っ」 あのまま本当にパーティーを抜け出して、私は明かりもつけないで部屋の隅っこで泣いていた。あの後涙がどんどんあふれ出てきて、止まらない。 「…っ、でも、ここにいたら…」 きっといつかレイルが来てしまう。こんな顔を見られたくない。 どこかに逃げる場所がないか、と頭の中で数年前、まだここに来たばかりの私にレイルが教えてくれたこの屋敷の全体図を考えていると、 「あ……」 そうだ、あそこがあった。 私は走り出した。 〜*〜 「あれ、レイル。エイク見なかったか」 モーガン氏に陽気に話しかけられて、肩がつい跳ね上がった。 まずい。エイクはついさっき、俺が傷つけたせいで泣いてこの会場を後にしてしまった。 そう、俺がひどいことを言ったから。 「え、お嬢様、ですか?」 「そう。スピーチが終わってから、見かけないんだ」 「いえ、僕も見てないです…」 つい、モーガン氏の目を見ずに答えてしまった。一瞬間が空いて、モーガン氏はうなずいた。 「そうか。わかった。ありがとう」 そのまま立ち去って行ったモーガン氏の背中を、俺は罪悪感にさいなまされながら見送った。 「あ、これ…」 目の前に置いてある皿。それはエイクがスピーチを始める直前に俺が彼女の為にととっておいたものだった。いつもと同じ、温野菜と、仔牛のパイと、エビフライ。 あの年から、毎年俺たちは初めにこの3品を食べている。 「……!」 俺はその皿をとって、イスから立ち上がると会場を後にした。 〜*〜 「エイクッ!!」 「え…。レ、レイル…?」 ドアがいきなり開いたかと思うと、レイルが息を切らして立っていた。手にはお皿を持っている。いつもと同じ、温野菜と、仔牛のパイと、レイルが大好きなエビフライが載っている、あのお皿。 「探したぞ…っ!?何やってんだよ、この馬鹿!!」 一息ついて、レイルが怒鳴った。 「なっ、何でこの部屋がわかったの?」 レイルが来ないように、わからないようにこの部屋に来たのに! 「…っとに馬鹿だな、お前は。3年前のあの日、お前が変に隠したりするから、ずっと気になってた部屋だったんだよ。何かあると思って…」 レイルが来た驚きで引っ込んでしまった涙がまたぼろぼろとあふれてきた。 「……!レイル〜!!」 涙を止めなきゃと指で拭っていると、その手を掴まれた。 「駄目。あとで目腫れる。ほら、戻るぞ」 「も、戻る?」 まさか、パーティー会場に戻るというのだろうか。 (なんでだか)今日は厳しいレイルのことだから、きっとそういうんだろう。 「部屋!せっかくの料理、ゆっくり食べたいだろ?」 「パーティー、戻らなくてもいいの…?」 「戻りたいんなら戻るけど。嫌なんでしょ、婚約者決め」 「や、だ。戻りたくない」 「ん、じゃぁ決定」 そういうとレイルは片手でお皿を、もう片方の手で私の腕を掴んで歩き出した。 「明日、きっと怒られちゃうね、私たち」 「あ、そうかも。やばいな、覚悟しないと」 「ほんとだ」 でもいいの。怒られても、たとえそれがどんなに怖くても、私はこの生活を守ってみせるよ。 [つづく] |
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