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作者: ルーク 2011年01月28日(金) 18時35分15秒公開 ID:gDpB60zr1as |
「養…子?」 その言葉を聞いた瞬間、エイクの表情がさぁっと青ざめていく。 俺たちは、2人で旦那さまとモーガン氏に呼び出されて、エイクに事情を説明したところだった。 「ああ、そうだ。まだ向こうの準備もあるから、実際にレイルが養子になるのはもう少しあとなんだがな。 エイク、お前がレイルを気に入っているのは父さまもわかるんだが、わかってくれないか。これも、キットリー家の繁栄のためなんだ」 「で、でも、キットリー家にはご子息がいらっしゃるわ。なんで、レイルが…」 エイクが救いを求めるような瞳で俺を見つめる。 そう、それが俺にもわからないんだ、エイク。 俺にも、3人が考えていることが全く分からない。 どうして、使用人の、どこの馬の骨ともわからない男を今まさに絶頂期を迎えようとしているキットリー家で引き取ってくれるのか。 向こうのご子息は教養もあって、とてもいい跡取りだと聞いた。 まさか俺が跡取りになることなどまずないだろう。 「レイルが養子に出された後、どうするか?エイク、他の使用人を付き人にするか?」 「……」 エイクは、真っ青な顔をして、何も考えられない様子だった。モーガン氏の言葉に答えず、ただただ突っ立っている。握ったこぶしが、かすかにふるえていた。 「兄さん、今はエイクにそんなこと考えさせるのは…」 横から旦那様がモーガン氏に耳打ちする。モーガン氏がうなずいた。 「まぁいい。そのことはまたゆっくり考えなさい。もう下がっていいぞ」 「は、はい。失礼します…」 俺は、すっかり固まってしまったエイクをどうにか歩かせて、その場を後にした。 「エイク、大丈夫か?」 部屋に戻った後、彼女が大好きなふわふわのソファに座らせて、紅茶をいれた。 尋ねても、エイクはうつむいたままで、答えようとしない。 「エイク?」 「……いつから、知ってたの?キットリー家の養子になるって」 やがて、エイクがのどから声を絞り出すようにつぶやいた。 「え、と。1週間くらい前かな」 「なんで、すぐに言ってくれなかったの?教えてくれなかったの? こんなのって、こんなのって……!!」 ひざの上で握りしめたこぶしに、雫がぽたぽたと落ち始めた。 エイクは泣いているようだった。 「待って、エイク、話を聞いて…」 「いなくなっちゃうんでしょ。私は、レイルがいたから、今まで頑張れたんだよ。レイルがいないとやだよ!!」 俺の言葉をさえぎって、せきを切ったようにエイクの口から次から次へと言葉がこぼれる。涙も落ち続けている。 「やだ、レイルがいなくなっちゃうなんてやだよ。………っ、行かないで…」 カシャン。 俺の手から、紅茶のカップが滑り落ちて、カーペットに落ちる。 それくらい、俺は動揺していた。 エイクが顔を上げたかと思うと、俺の腰に抱きついてきたのだった。 「なっ、エイ…」 「うっ、やだ、いなくなっちゃやだ。 ……っ、うぁぁぁぁぁっ」 声をあげて泣き出したエイクをなだめるように、俺はその小さな背中に手をまわして、きれいな金髪をなでた。 エイクは、そのまましばらく泣き続けた。 ごめんね、エイク。 俺は、君の付き人なのに。そばにいて、その気持ちを分かち合って、喜ばせてあげるのが俺の役目なのに。俺は、その約束を守ることができなかった。 君を泣かせるものを作らないのが俺なのに、その俺が、今君を泣かせている。君を困らせている。こんなことってあると思うかい? ごめん、本当にごめん。 言葉には出さずに、心の中で、俺はひたすらエイクに謝り続けていた。 脳裏に、いつかロレッツォさんが言った言葉がよみがえってきた。 ―使用人は、所詮使用人なんだ。お嬢様と対等に接することができても、自分の身分だけはわきまえておきなさい。 [続く] |
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