おとーさんの厄介な遺産 1 |
作者: ルーク 2011年02月04日(金) 16時10分01秒公開 ID:gDpB60zr1as |
ピピピッ、ピピピッ 午前7時、目覚まし時計が鳴る。実はその前から起きていた私はバシッと時計をたたいて音をとめた。 「よく寝たぁ…。こんなに眠ったの久しぶりかも」 布団の上でぐっと伸びをして、数少ない私の持ち物である制服に手を伸ばした。 と、そのとき。 「おーい、遥?もう朝飯だって母さんが…」 ドアが開いて、「兄」の奏多が顔を出す。私はあわてて第2ボタンくらいまで外していたのを手で握りしめた。 「か、奏多!!勝手に部屋のドア開けないでって言ったじゃない!ばか!!」 血がつながっているとはいえつい1か月前に出会った男の子に着替えを見られるのは嫌だ。恥ずかしい。 「あ、ごめん。それだけ。早くしないと味噌汁冷めるぞー」 「わぁったから早く出っててぇ!!」 「はいはい」 私は結構恥ずかしいのに、奏多はそうでもないらしく、あきれたようにドアを閉めて出ていった。 着替えて、リビングに向かうと、奏多のお母さんの美香さんが笑顔で出迎えてくれた。 「あら、おはよう遥ちゃん。よく眠れた?」 「おはようございます、美香さん。おかげさまでよく眠れました」 「遥は寝すぎだよ。俺は6時半には起きてたぜ」 「こら奏多。女の子にそういうこと言わないの!嫌われちゃうわよ」 「ご心配なく。俺はちゃんと彼女いますから。それより俺腹減ったよ。早くたべようぜ、母さん」 「そうね、いただきます」 「「いただきまーす」」 ついハモってしまう。顔を見合わせると、美香さんがまあ、と笑った。 「さすが双子ねー」 「半分だけだし」 私、高橋遙。高校生になりたての1年生。 お父さんを8年前に病気で亡くし、1週間前にお母さんを火事で亡くしたばかりだ。 あの日、お母さんは体調を崩し、会社を休んでいた。そのまま私は学校に行き、午後学校から帰ってくると、家は燃え盛っていた。 寝込んでいたお母さんは死んでしまった。私物はほとんど燃えてしまった。 途方に暮れていた私をここに連れてきてくれたのは、死ぬ前にお父さんが私に残してくれた手紙だった。 そこにはお父さんが昔浮気をしていたこと、私には生年月日も生まれた時刻もほぼ一緒の腹違いの「双子」の兄がいること、そのお母さんは子供好きだからいつか会いに行くといい、ということが書いてあり、私は身一つでここ九重家に預けてもらうことになった。 その九重家には、高校のクラスメイトの九重奏多がいた。 彼はそっけなくて、あんまり女の子とは話さないようなタイプだけど、席が隣だから私は少しだけ話したことがあった。 「私が悟さんの浮気相手だって知った時はそりゃぁショックだったけど、奏多にも遥ちゃんにも罪はないもの。遥ちゃんはここにいていいのよ」 最初の日、奏多のお母さんの美香さんはそう優しく言ってくれた。 特に不自由があるわけじゃない。私はここの生活が気に入っている。 だけど、ときどき、いやしょっちゅう私は夜うなされる。 もちろん、火事の日のことだ。朝からがどんどんリピートされていく。 病院で焦げたお母さんを見たときの恐怖感。自分に行くところがないと悟った絶望感。すべてが私を夢の中でぐるぐる回っている。 そして恐怖で目覚めて、眠れない事の方がこの一週間多かった。 それでも、今朝は夢を見ずに深い眠りにつけたようだった。 「遥!おはよ」 学校に着くと、中学校からの親友の麻里が肩をとんと叩いた。 「麻里…。おはよう」 「今日はよく眠れたみたいだね。なんか顔がすっきりしてる」 「ほんと?実はそうなんだ。ぐっすり寝たよ!」 「それで、どうよ?」 もう学校では私が奏多の家に住んでいること、私たちが半分双子みたいなものであることを知られている。 「どうって…?」 「もちろん、奏多くんのことだよ!家だとどんな感じ?」 奏多は一応モテる。彼女もいるし。それでもやっぱり告白されることは多いらしい。 「どうって、普通だよ。特になんも変わらない」 「ふーん……。でも遥はいいなぁ、あの奏多くんの双子の妹だなんて!」 「腹違いだけどね。お父さんが浮気してたなんて、ほんと信じらんないよ」 ため息をつくと、麻里はほほ笑んだ。 「まあ、からかわれたりとか、冷やかされたりとか大変だったもんね」 「麻里がいたから私は大丈夫だったよ」 麻里は強い女の子だと思う。今回のことで「不潔だ」だの何だの言われた時も麻里は平然として、むしろかばってくれたり相談に乗ってくれたりした。 私の大事な親友。 [続く] |
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