おとーさんの厄介な遺産 3 |
作者: ルーク 2011年02月10日(木) 17時07分43秒公開 ID:gDpB60zr1as |
「あーっ、楽しい♪」 「え、そうか?俺はけっこう歩き回って疲れたんだが」 お昼代わりのクレープを食べながら満足げな私と、だるそうにイスに持たれて座っている奏多。 美香さんの誕生日プレゼントはだいたい決まった。のだが、私がどうせだからと奏多をひっぱりまわしてデパートを歩きまわっていたのだ。 「奏多、そんなんで彼女とデートできてんの?」 「あー、ぶっちゃけ辛いかも」 奏多は休日には家でゴロゴロしていたい願望がある。先週といい振り回しすぎちゃったかな。 「ごめんね、ひっぱりまわしちゃって」 「別に。母さんのためだし」 俺たちが仲良くしてる方が母さんだって喜ぶだろうし、と奏多が天井を見上げてつぶやく。と、不意にパっとかおを下に向けて、キャップを目深にかぶりなおした。 「どうしたの?」 「……里香がいた」 「里香?」 「…彼女」 ああ、と私はうなずく。でも、首を精いっぱい伸ばしてどこにいるのか目で追っていた。 だって、奏多の彼女、知らないんだもん。気になるじゃない? 思った以上にその人は鋭かったらしい。あーっと声をあげて私たちのいるテーブルに駆け寄ってきた。 「奏多!奏多なんでしょ?」 栗色の長い髪。春らしいかわいい服を着て、ヒールの高い靴を履いていた。 ―平田里香。 確か、隣のクラスの女の子だったと思う。クラスで1,2を争う美少女だとかなんだとか騒いでるやつがいたっけな。 まさか、奏多の彼女だったなんて。 「あ、高橋遙さん、だっけ。妹さんなんだよね。はじめまして。奏多の彼女の平田里香です。よろしく!」 「よろしくね」 平田さんはそのまま奏多に詰め寄ると、 「奏多!この後、暇?」 「え…、暇?なのか?」 「暇ならさ、この後どっか行こうよ!」 「え……」 私見たいお店があるんだ、とか、そういえば奏多のほしいCD発売されてたじゃん、とか、平田さんは喋りまくる。 奏多は私と平田さんをちらちらと見ながら返答に困っている様子だった。 なんか、ちょっとむかついてきた。 「あ、でも俺、今日は…」 「いいよ奏多。行ってくれば?」 何かを言いかけた奏多をさえぎって、私は無理矢理笑った。 「もう用は済んだでしょ。私はもう帰るから、ね」 「え、でも…」 言いかけた奏多の耳元に囁く。 「平田さん、困らせちゃダメだよ!」 その言葉に奏多がうっとつまる。 「え…と、いいよ」 「わ!ほんと?やったー!じゃ、ごめんね高橋さん、奏多借りてきます」 「どーぞ。私はもう帰るから」 そのまま平田さんは奏多をひっぱって雑踏の中に消えていった。 「……はぁ」 笑顔で手を振った後、なんだか気疲れしてしまって、私はイスに座り込んだ。 なによう、バカナタ。女の子くらい、大事にしてやんなさいよ。 「いいなぁ、奏多は」 ちゃんと気にかけてくれる女の子がいて。 私はクレープの包み紙をくしゃりと握りしめた。 [続く] |
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