おとーさんの厄介な遺産 5 |
作者: ルーク 2011年02月15日(火) 16時52分42秒公開 ID:gDpB60zr1as |
「え、それで、全然気づいてなかったのか?」 目を丸くした親友に俺…九重奏多はうなずく。 「おお。なんか、俺とは違ってモテないって」 この間のふてくされたような顔の遥を思い出す。 「やっぱ高橋さんかわいいなー…」 そこまで言って、中学以来の親友である夏目健人がはっと口元を押さえた。 「そういや、入学したての頃は奏多、お前も高橋さん好きじゃなかったっけ」 「え、それ蒸し返す?いまさら?」 俺の顔がとたんに赤くなっていくのがわかった。 そうだ、俺は、入学式のときの緊張をほぐしてくれるように優しく笑った遥が好きだったんだ。 だけど、遥は妹だから。 「馬鹿か、だったらなんで今俺は里香と付き合ってんだよ」 「あ、そっか…」 必死に否定した想い。伝えられずに俺の中で朽ち果てていく想い。 里香のことはちゃんと好きだけど、その思いを忘れないようにするためにも里香と付き合っている自分がいる。嫌な男だな、俺は。 「え、じゃあ、高橋さんもらってもいいすか、兄さん!」 「誰がお前の兄さんだ」 「いいじゃん。…まぁ、高橋さんに受け入れてもらえるかどうかも問題だけど」 どうやら、健人は遥のことが好きらしい。 まぁ、モテないって腐ってる遥より、ちゃんといい男見つけて生き生きしてる遥のほうが兄として(半分だけど)安心する。 それに、健人は信頼のおける男だ。まぁ、いいんじゃないのか。 「ご勝手にどーぞ。 …てか、遥のどこがいいわけ?」 「何だよ、お前だって身をもって知ってるくせに。 …まぁ、やっぱりあのくるくる変わる表情とか…?見ててほほえましいよ。あとはちょっと鈍感なところもかわいいかな…っておま、何言わせてんだよ!バカ!!」 健人の顔が真っ赤に染まっているのはなかなか面白いと思う。 「じゃー、ほんとにもらうからな。今日はそれだけ!じゃ」 俺予備校あるから、と健人は赤い顔のまま自転車に乗りこんで帰って行った。 全く、1年生から予備校に通うなんて、生真面目で用意周到な健人らしいな。 「あ、奏多おかえり!!」 「お邪魔してるよー、奏多」 家に帰ると、階段の上から遥と里香が顔を出していた。 「ただいま。てか里香、お前何してんの、人ん家で」 「え、何って遥ちゃんと話してたに決まってるじゃない。失礼ね!」 「もー、奏多、すごい彼女さんだね!!里香ちゃんすごくいい娘だよ!」 あんたはシアワセもんだと言わんばかりに遥が里香をほめちぎる。 「いつの間に仲良くなってたんだ」 「里香ちゃんと委員会が一緒なんだ。それで奏多のこといっぱい聞いてたの」 「あ、遥ちゃん、それ以上言ったらダメだからね!」 「わかってるよ。これは女の子の秘密だもんね♪」 あー、わかったわかったと俺は2人の会話を制した。 これ以上しゃべられたらいつまで続くのやら、わからないからな。 「じゃ、私はこれで帰るね。また明日ね、奏多、遥ちゃん!」 「あれ、もう帰るの?晩ご飯食べてけばいいのに」 「ううん、妹とご飯とるから、大丈夫」 あ、でも奏多、と里香が俺の方を向く。 「送ってってよ」 「あ、いいんじゃない?送っておいでよ、彼女一人で歩かせたら私怒るからね!」 「あー、はいはい。送ってくるって…」 そして、俺たちは仲良く家の外に放り出されたのだった。 「何話してきたんだよ」 「別にいいでしょ。 それより、遥ちゃんってめちゃめちゃかわいいのね!!惚れちゃったぁ」 「はぁ…?」 「あ、もちろん友達として、だよ?あんなに純粋な子は見たことないわ」 あ、そーですか。 「あ、私の家、そこだから、もういいよ。また明日ね、奏多」 「おー、また明日な」 ドアを開けて家に入っていく里香を、俺はずっと眺めていた。 [続く] |
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