おとーさんの厄介な遺産 6 |
作者: ルーク 2011年02月18日(金) 17時48分52秒公開 ID:gDpB60zr1as |
「え……」 えっと…、えと、あの、その。 「その、混乱させてごめん」 目の前の男の子が恥ずかしそうにうつむいた。 えっと、待って、状況を把握させて。 私は、今日日直だった。 「おい遥、まだ終わんないのかよ」 「無理〜!一人でやってるんだよ?これ全部!!」 私の日直のペアの男の子はたいてい休んでいて、今日も休んでいた。 あれか、いわゆる不登校っていうあれ。もう、いい加減にしてほしいよ。 「奏多、手伝ってよ〜」 机に乗った日誌を指さしても、いじわる奏多は首を横に振った。 「だーめ、ってかやだ。 俺里香待たせてるから、先帰るわ」 「え、そうだったの?だったらなんで今まで待ってたのよ!」 30分くらい前、日直の仕事が終わらないと嘆いた私に奏多は待ってるって言ってたのに。 「里香ちゃん待たせてるんなら言いなさいよバカナタ!!」 「いいのに、待っててあげなさいよ奏多」 私が叫んだ直後、ドアから里香ちゃんが顔をのぞかせた。 「里香…」 「いいよ、里香ちゃん。なんか遅くなりそうだから、帰ってなよ」 「いいの?大丈夫?一人で」 「大丈夫!!」 後ろめたそうな表情の里香ちゃんを、やけにせかした奏多が引っ張っていった。 何なんだろ。奏多、なんか変。いつもだったらむしろ里香ちゃんが引っ張っていくタイプなのに。 そんなことをのんきに考えて日誌を書いていると、不意に廊下に足音が近づいた来た。誰だろうと振り向くと、そこには、 「あ…夏目君、だったよね」 「う、うん」 クラスの、確か奏多と仲がいい夏目君だった。 コゲ茶色っぽい髪の毛で、黒ぶち眼鏡をかけているまぁそれなりにかっこいい部類に入る男の子だ。 「高橋さん、日直だっけ?」 「うん…。実はまだ終わんなくて」 「あ、俺手伝うよ」 「え、いいよ、先帰ってても」 あわてて目の前で手を振るが、夏目君はゆっくり首を横に振った。 「いいんだって。どうせ俺暇だし。二人でやった方が早く終わるよ。ね」 「え…、じゃぁ、お言葉に甘えて」 夏目君が手伝ってくれたおかげで、どうにか日直の仕事を終えることができた。 「助かったよー、ありがと、夏目君!」 「いやいや、こっちこそ、楽しかったよ」 窓を閉めようと窓際に立った。 ニコッと笑うと、ニコッと笑い返してくる。 えくぼができて、ちょっとかわいいかな。なんか子犬みたい。 「いや…で、あのさ」 ふっと笑いをおさめた夏目君が言った。 「ん?なぁに」 窓の外が、夕日でオレンジ色に染まっている。開けられた窓から運動部の声がする。 「実はさ…高橋さんの事が、ずっと好きだったんだ」 「え…」 ………と、今に至る。 なんか恥ずかしくて顔が真っ赤なのが自分でもわかった。 「えっと、」 「何か、ほんとごめん。返事は、いつでもいいよ」 そういうと夏目君はちょっとさみしそうに笑って、教室を去ろうとした。 あ、ダメだ。 本能的に悟った。 今、返事しないと、私後悔する気がする…。 そう思うと体が動いて、夏目君の鞄をくいっとつかんだ。 「え…」 「ほんとに私でいいの?私なんかでいいの?だって私」 勉強できないし、かわいくないし。 言いかけた私を止めたのは、夏目君の人差し指だった。 「高橋さん“が”いいんだよ」 「私、まだちゃんと好きじゃないよ?それでもいいの?」 「いいよ、俺だってまだちゃんと高橋さんのこと知ってるわけじゃないし。ゆっくり知って、好きになってくれればそれでいい」 ああ、夏目君って優しい人なんだな、と心の中で冷静に考えてしまった。 「…俺と、付き合ってくれますか?」 「…、はい、よろしくお願いします」 何でか、敬語になってしまった。恥ずかしくてうつむく。 二人の帰り道、夏目君が教えてくれた。 「高橋さんってさ、意外とモテてるんだよ。知らなかった?」 「え、そうなの?知らないよ。だって、私奏多みたいにぱっとしないし、里香ちゃんみたいに美人じゃないし、2回も振られたことあるんだよ!?」 「そんなに自分を卑下するなよ。結構裏で人気なんだよ。俺、明日は他のファンの人に殺されるかも」 ちょっと真剣そうに言ってから、ぷっと夏目君が笑う。 「だいじょーぶだよ、心配ないって」 日が、沈もうとしていた。 [続く] |
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