スキとキライのまんなか | |
作者: ルーク 2011年03月07日(月) 16時35分34秒公開 ID:CueQHkj278. | |
帰りの会が終わって、一番に教室を飛び出す。 下駄箱の裏やら、階段の下やらに「あいつ」がまぎれていないかどうかきょろきょろしながら無事に靴を履いて校門を出ようとして、よかった今日は無事だと安堵した瞬間。 私はやっぱりツイてないと思った。 「ふぎゃぁぁぁっ!!?」 「全く、俺を置いて帰ろうだなんてひどいじゃないか、マキちゃん!」 後ろから抱き締められて叫ばない女がいたら、教えてほしい。どうかその技を伝授したいものだ。 「いっ、いきなり何するんです!」 「何って。スキンシップだけどぉ?」 「あのさりげなく腕の力強めるのやめていただけます!?」 「やだぁ☆」 …ああもう。ほんとにいやだ。 「は・な・し・て!!」 脚を思いっきり後ろに蹴りつけると、ふぎゃっという声とともにそいつは私から離れた。 私はすねを抱えてしゃがみこむ男の前に仁王立ちした。 「ほんとにしつこいですっ! ……須藤くん!」 須藤相馬(すどうそうば)。私、田中マキを毎日のようにスト―キングしている隣のクラスの男。 一週間前、こいつに告白されたんだ。唐突に。 帰り道、いきなり「マキちゃん、好きだよ!」なんて、知らない男に満面の笑みで言われたら、恐怖覚えるよね、普通。 別に、って言ったそこのあなた!今すぐ私と変わって!私そういうのほんとに受け付けてないから!! で、どういうわけかその告白がこの一週間、頭の中をぐるぐる回っている。 正直、初めて会ったばっかりなのにスキかキライかの二者択一だなんて、鬼畜だと思う。 …ってこっちそれなりに真剣に考えてやってんのに、この馬鹿野郎は毎日毎日私の下校時刻を見て襲ってくる。 「だからー、好きなんだって!」 「や、ちょっと待ってって言ったじゃないですか!」 「きーてない!マキちゃんすぐ逃げた!」 「どうでもいいけどその名前呼びやめてください!」 「やだ、田中さんとかすっげぇよそよそしいじゃん」 ぶう、と頬を膨らませる須藤くん。私はくるっと後ろを向いて腕を組んだまま歩き出した。彼も立ち上がってついてくるのがわかる。 「第一さ、私立ちまだ14歳なんですよ。14歳!付き合うとか、そういうの考えられn「好きだぁ!」 「……話聞いてくれます?」 やー、でもさぁ、と拗ねたように須藤くんが私の肩に顎を載せてくる。 「結婚してさー、ああ、住むのは松濤あたりかな、で、子供3人でー」 「寝言は寝て言ってください」 何で話飛んでるわけ!?その結婚するまでの間に私が断るっていう線はないわけ!? もう、ほんと疲れるんだけど。 「あ、そうだ、忘れてた!」 突発的にテンションを上げた須藤くんは、鞄の中から何か包みを出して、私に差し出してきた。屈託のない笑顔もプラスして。 「…なんですか?」 「ん、レインボークオーツ!1ヶ月くらい前、帰りにショーウインドウのぞいてたでしょ。プレゼントっす」 ああ、すっごくかわいい。ずっとほしかったんだよねーって…え、ちょ、待て待て待て。 1か月前って、私が引っ越す前くらいじゃないの!? 私は一週間ほど前にこっち側の学区に引っ越してきたばっかりで、それまでは同じ学校でも通学路が真逆だった。 「え…通学路反対じゃ「まーまーそれは気にしないで☆」 うーん、気にしないでで済む問題じゃないような気もするんだけど。 さて、困ったことにこの一週間で、私はだいぶこの変態男須藤くんと話すようになった。バカで周りのことよく見てなくて変態で、嫌なところが浮き彫りになったけど、その分だけ…いや、それ以上かもしれない。いいところも嫌というほど目に浮かんできてしまった。 昨日なんか、夢になぜか彼が出てきてどぎまぎしてしまった。 うーん、染められてる……んだろうか。 嫌いだけど、大っきらいだけど、変態とか趣味じゃないけど。 ……すき、かもしれない。 「ねーマキちゃん」 次の日、もうどれだけ避けたところで無駄だと悟った私は諦めて須藤くんと帰ることにした。その帰り道、須藤くんがいきなり不満そうに唇を尖らせた。 「何ですか」 「俺さぁ、彦星さんすげぇと思うよ」 「何の話ですかいきなり」 「あれじゃん、一年に一回しか会えないんでしょ?俺あれ絶対無理なんだけど」 好きな人とはいつも一緒にいたいし、ずっとそばで笑ってたいじゃん…?と続ける須藤くんの話が読めなくて、私は首をかしげた。 「つまり、何が言いたいの?」 だからぁ、と須藤くんは頭をぽりぽり掻いた。 「そろそろ返事聞いてもいいかなーって。 それがだめならせめて敬語は抜きにしてもらいたいなーって」 言って、恥ずかしくなってしまったんだろうか、そっぽを向いた彼の耳まで赤くなっているのがおかしくて、なんだかかわいらしく見えてしまった自分、もうちょっとおかしいかもしれない。 そんなことを思いながら、先をずんずん歩いて行ってしまった須藤くんに追いつこうと、私は小走りした。彼の学ランのすそを握ると、彼が振り返り、言葉が重なった。何ともいえぬ、絶妙なタイミングで、イントネーションまでかぶった。 「「スキ?」」 「……、なんで疑問形?」 「そ、そっちこそ」 「や、俺は好きなのかなーって聞こうとして」 「、もう、ほんと調子いいんだから!」 怒ったつもりなのに、顔がにやけてしまったのは許してほしい。 しょうがないじゃない、好きになっちゃったんだもん。 「え、いいの?」 「いいよ、しょーがないから、タメも使ってあげるよ。……相馬くん」 「!!」 「や……っったぁぁぁ!!!」 「ふぎゃぁっ!」 あ。一個だけ。 いきなり抱きあげるのはやめてちょうだい。 [おわり] ⇒To Be Continued... |
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