Regret=You |
作者: 一夜 2011年08月02日(火) 18時15分45秒公開 ID:CWJytnDD6aY |
最後の最後に俺は気がついたんだ。 毎日毎日毎日毎日…。 何も変わらない同じ日々の繰り返しに俺、 朝、いつもと同じ時間に起きて身支度して、トーストにかじりついて学校へ。 昼、受けていて何の意味があるのか分からない授業を受ける。 夕方、だるい体を引きずって帰宅部の俺は直帰(ダチと遊ぶ時もあるが)。 ……何かこのだるい生活がひっくり返るような【刺激的】なことはないのだろうか? なんて思ってだらだらと歩いていると、どこからか急ブレーキの音に続き鈍い音が聞こえた。 「交通事故、か?」 意外と近くねぇか?多分…すぐそこの十字路? 他人の不幸事で大分不謹慎だが、今の俺にとってはかなり【刺激的】なことだった。 自然と俺の歩は速くなった。 あと少し…あそこの角を曲がったら…。 だが、その時俺は気付いた。 交通事故があって、その現場のすぐ近くにいるっていうのに何も音がしない。 それだけじゃない。さっきまで吹いていた風も、吹いていない。…心霊現象っていうやつか? 鳥肌がたった。いや、現実にそんなことがあるわけない。気にすんな、俺。 何かを振り切るかのように角を曲がると、目の前には事故現場と野次馬があった。 そっとその野次馬の中に入って目を疑った。 誰も息してない。 でも、死んでいるわけでもない。 「なっ!んだよ!」 おかしい。おかしい。おかしい。 「どうしちまったんだよ!?」 「誰!?」 困惑した俺の声に被さり、少女の声が聞こえた。 ほっと一息ついて、その声がしたほうに動かない野次馬を掻き分け歩いていく。 声の主であろう少女は倒れた被害者のすぐ傍にしゃがみ込んでいた。 最初は被害者の連れ、だと思った。が、少女の手を見てすぐに違うと分かった。 被害者の心臓に向けて真っ直ぐに伸ばされた両腕。パーに開かれた両手には血がべっとりと付いていた。 そしてその手の前には、薄水色に輝く拳ほどの大きさの球体。 本日二度目の鳥肌がたった。さっきとは比べものにならないくらい、ぞっとした。 「お、お、お前!何やって!、」 「なんで…?ちゃんと【時止】してるのに…。」 驚いたように赤銅色の瞳で少女は俺を見つめた。 「見たところ、あなたは普通の人間。」 球体が少女の両手首に付けられた細い透明のブレスレットに吸い込まれていく。 なんだこいつ!?逃げなきゃ…! だが俺は恐怖でただそれを見ることしか出来ず、動くことが出来なかった。体が震えている。 少女はそっと俺に近付き、俺の顔の前で片手をパーに開いた。 「あなたには悪いけど、バラされると困るから。」 開かれた手から桃色の光が発せられた。 それを見た瞬間、何故かそこで俺はぱたりと倒れた。 深い眠りに付いているようで、だけど温かくて、心地よかった。 「はい。…はい、はい。じゃあ、彼には説明を?………はい、分かりました。」 俺はゆっくりと目を開けた。 目の前には真っ白な天井が広がり、ふかふかのベッドの上に自分はいるのだというのは分かった。しかし、 「ここはどこだ…?」 自分の部屋ではないというのは明らかだった。体を起こし、起き立てで働かない頭をフル回転させようとした時。 「あら、目覚めたのね。」 少女が二つのマグカップを手に、俺の元へとやって来た。 少女を見て思い出した。そうだ、俺は事故現場にいてそれでこいつに出会ってそれから意識が…。 マグカップを手にした手を見て一番思い出したくないことを、思い出した。 そう、両手にべっとりと付いた血…。 「うっ……。」 気持ち悪くなり、手で口を覆った。 「大丈夫?」 ベッドの横にあるテーブルにマグカップを置いて、俺の背中をさすった。 その手があまりにも冷たくて、俺はぶるっと震えた。 「あ、ごめんなさい。冷たかった?」 そう言って、ぱっと俺の背中から手を離した。 「いや、平気…ってか!そんなことより、さっきのはなんなんだよ!?」 「あぁ、あれね。」 勢いよくベッドに腰掛け、少女は言った。 「魂を、保護してたの。」 「…は……?」 「何が死因であれ、死んだ体に魂が留まり続けるといつか悪霊になってしまう。」 テーブルの上にあったマグカップを手にとり、一口飲みまた置いた。 もう一つのマグカップを「どうぞ。」と言って俺に差し出した。 それを受け取り、俺も一口飲んだ。ほろ苦いココアだった。 「私たちは魂が悪霊になるのを防ぐために、魂を保護するのが役目。」 頭がイッてるんじゃないかと思った。 どっかのオタクとかが、アニメとか漫画見すぎて妄想してるんじゃないかと。 だけど、こいつの瞳は言葉は全て 真剣だった。 「今日もいつものようにやっていたの。なのに、あなたが…。」 その瞳は驚きと物珍しさに色を変え、俺を見定めるかのように見た。 「【人間】に見られないように時を止めていたのに、何故かあなたの【時】は動いたままだった。」 その言葉に俺は何かが引っかかった。だけどその何かが分からなかった。 「見たところ普通の人間なのに…あなたは、何者?」 「な、何者って…俺はそこらへんにいるただの高2の男子で…!」 「ただの、ねぇ?で、あなたの名前は?」 「宏斗。菅原、宏斗。」 「私は 遥はすっと手を宏斗に差し出し、にこっと微笑んだ。瞳は…微笑んでいなかったが。 俺の退屈な毎日を変えてくれるであろう君。 俺たちの運命が、ここから動き出す。 |
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