雪の降る夜(薄桜鬼二次創作 斎千) |
作者: 林檎頭巾 2011年10月17日(月) 15時53分20秒公開 ID:uCrZtsxULUo |
ここは、冬になると酷寒の地になる。私と一さんはこの土地で暮らしているけど、この寒さには未だに馴れない。 「今夜も一段と冷えるなぁ……」 私は自宅の廊下を早足で歩いていた。早く部屋に戻って暖を取りたい、と思っていたから。 「あれ……?」 庭に誰かいる。雪混じりの強い風が吹いているのに…… 「一さん……?」 そこには、一さんが立っていた。自然、私の足は彼のほうへと向かった。 「こんなところで、何してるんですか?風邪、ひいちゃいますよ?」 私が呼びかけると、彼は私を見ずに答えた。 「…雪を見ていただけだ。千鶴、お前は中に入っていろ。今日は一段と冷えるからな。お前こそ風邪をひく」 私はむっとした。何でこの人は自分のことに関して無頓着なのだろう。 「嫌です。一さんが中に入る、って言うまで一緒にいます!」 「……」 一さんは何も言わずに目を閉じた。そこから涙が一筋、頬を伝うのが見えた気がした。 「一さん……?」 私が声をかけると、はっ、としたように一さんは目を開けた。 「千鶴……」 私の顔を、彼は見つめていて、そして――ぎゅっ、と私を抱いた。強い力で。 「千鶴……お前は、俺といて幸せか?」 不意に投げかけられた問いに戸惑いつつも私は答えた。 「もちろん…幸せですよ」 「俺が長く生きられなくても、幸せか?」 私は少し答えに迷った後に幸せですよ、と答えて続けた。 「たとえ一さんが私を遺して亡くなってしまっても、一さんとの思い出は無くなり…ませんから」 最後のほうは涙声になっていた。彼は羅刹の力を何度も使い、寿命を縮めてしまっている。それでも、私は―― 「私は…誰よりも……幸せ…です」 涙を流しながら答えた私を一さんは強く、優しく抱いてくれていた。 「そうか……俺は少し、弱気になっていた。この散り急ぐ桜のような雪を見ていると。ありがとう、千鶴。俺も…幸せだ。誰よりも」 そう私の耳元で囁いてくれた。 |
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