慰める方法(薄桜鬼二次創作 原千) |
作者: 林檎頭巾 2011年10月29日(土) 13時25分37秒公開 ID:sTYIRFezUnY |
俺は知っていた。あいつが時折、独りで泣いているのを。 千鶴の部屋から嗚咽が聞こえてきた。夜の巡察を終え、自室に戻る途中のことだ。 (何だ……?) 気になった俺はそっと彼女の部屋の襖を開け、中の様子を窺った。そこには、布団で横になりながら啜り泣く千鶴の姿があった。暗闇で顔はよく見えないが泣いていることは確かだ。何で泣いてるのかはわからない。彼女と話そうにも今は夜遅い時間だ。 (明日にでも訊いてみるか…) そう思い、俺は開けた襖をそっと閉めて自室へと戻った。 翌朝、洗濯物を干していた千鶴に俺は声をかけた。 「朝から精が出てんな、千鶴」 「あ、原田さん。おはようございます」 千鶴は洗濯物を干していた手を止め、俺に頭を下げた。その顔は、いつもの千鶴で、昨晩の事はまるで嘘のようだ。多分、俺達に心配かけねえ為に平静を装っているんだろう。 「その仕事が終わったら、俺と一緒に出掛けねえか?」 俺は彼女を少しでも慰めてやろうとそんな事を訊ねてみた。 「え?いいんですか?ご一緒しても」 「ああ。お前と出掛けてえ、って思ってるんだ」 「はい!」 千鶴は元気良く返事をした。自然な笑顔を見せて。 俺と千鶴が屯所を出たのは、正午を過ぎた頃だった。俺たちは並んで京の町を歩いている。 「どこへ行くんですか?」 そう訊ねる千鶴に俺はもうすぐわかる、と返した。それきり、千鶴は何も訊ねてこなかった。 俺が彼女と向かったのは茶屋だ。俺たちは注文した茶と団子を受け取り、並んで座っている。 「遠慮すんな、ここの団子は美味いぜ?」 なかなか団子に手をつけない千鶴に俺は言った。すると、千鶴は団子の串に手を伸ばし、一つ食べた。 「美味しい…!」 ぱあ、っと千鶴の顔が明るくなる。この顔が見たかった。 「少しは元気出たか?」 「え?」 ぽかん、とした顔で千鶴は俺を見つめる。 「昨日の夜、お前、泣いてただろ?だから、元気づけてやりてえ、って思ったんだ」 知ってたんですね、と言い、千鶴は俯く。 「父様の事を考えてたんです。一向に見つからなくて……もうこのまま会えないんじゃないかと思うと――」 途中から嗚咽まじりの声になっている。彼女の父親の行方は俺たちも捜しているがみつからねえ。今の俺には慰めることしかしてやれねえのが歯がゆい。 「千鶴、顔、上げてくれねえか?」 そう頼むと彼女は顔を上げてくれた。瞳からは涙がこぼれている。俺はそれをそっと拭ってやった。 「泣くんじゃねえよ。お前に泣き顔なんか似合わねえからな。必ず、綱道さんのことは俺たちが見つけてやる」 「ありがとうございます…」 彼女が軽く頭を下げる。俺はその頭をポンポン、と優しく叩いた。 必ず、と言ってしまったからにはそれに答えなければならない。俺には彼女の父親を見つける自信はねえが…… 出来る限りのことはしてやろう、そう思った。 |
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