千羽鶴-番外編そのA 土方篇- |
作者: 林檎頭巾 2011年11月23日(水) 10時05分35秒公開 ID:sTYIRFezUnY |
「授業、して下さい」 私が言うと案の定、お見舞いに来てくれた土方先生は怪訝そうに私を見た。 「授業?何でまた急に……」 「私が休んでる間にも古典の授業、進んでますよね?遅れを取りたくないんです」 私の主張に先生は少し考える素振りを見せた。 「気持ちは分からなくもねえが……そんな身体の状態で大丈夫なのか?昨日お前の見舞いに行った原田から聞いたが昨日やっと起き上がれるようになったらしいじゃねえか。それに、まだ傷跡も癒えてないようだろうし」 やっぱり訊かれると思った。土方先生まで心配している。確かにまだ完璧に大丈夫だとは言えない。傷跡だってまだ痛む。でも、支障を感じる程ではない。 「土方先生がおっしゃる通りですけど、大丈夫です。ベッドから出ない限り、何をしても大丈夫なんです」 これは本当のことだ。私はベッドから出ない限り、何をしようが自由なのだ。 土方先生は本当か?と言いたげに私を見つめる。そして、ため息をついた。 「…わかった。授業、してやるよ。その代わり、厳しく行くからな。筆記具と授業のプリント用意しろ。昨日原田が持って来たはずだ」 私はまず筆記具を机の上に置いて、昨日原田先生が持って来てくれた茶封筒の中から一枚のプリントを取り出し、机の上に置く。 「準備、出来ました」 私が言うと土方先生はフッと笑んで始めるぞ、と言った。いつもより先生が近くにいる。 先生は文法や古語について丁寧に説明してくれる。私はそれを聞きながらメモを取ったり、プリントの空欄に語句を埋めたりした。 授業開始から三十分程経った頃だろうか、不意に傷跡が鈍く痛んだ。私は少し顔を しかめた。 「雪村、痛むのか?」 気づいたように先生は訊ねる。大丈夫です、と私は答えるけどそれを無視されて強引に寝かされた 「土方先生!?私、本当に大丈夫ですよ!?」 「馬鹿かお前。無理すんじゃねえよ。後で鎮痛剤でも打ってもらっとけ。俺はもう帰る」 土方先生はそう言って私に布団を掛け直してから早々と病室を出て行った。 私は少し笑ってしまう。 先生が世話焼きみていで、意外だったから。 |
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