Dragon Killer PAGE3:特殊部隊ノ娘 |
作者: ちびハチ公 2012年06月16日(土) 19時50分38秒公開 ID:E6J2.hBM/gE |
一ヵ月半に渡って行われた奥多摩での集中訓練も、最後の野営を残すのみとなった。 監督は郁たちが入隊した時と同じく、玄田と堂上。そして、新隊員の宮元は郁たちと同じ様に堂上隊に入れられた。ミーティングでクマ出没の情報を開示したのも八年前と同じである。違ったのは、宮元が「分かりました」と笑顔で答えたことだ。 蒸し暑い山の中、土を強く踏みしめる足音が響く。その中で、軽いテンポで土を踏む足音と鼻歌が聞こえた。 「宮元の体力半分欲しい・・・」 ポツリと呟いたのは、最後尾に近い場所で登っていた郁だった。腕で汗をぬぐい、短い呼吸をしながら登っている。宮元は、先頭を軽い足取りで鼻歌を歌いながら登っていた。 「郁、自分のペースで行け。宮元と張り合っても仕方が無い」 「はあーい」 郁は仕方なく自分のペースを保って歩いた。 堂上隊はその日のうちに玄田隊と合流した。隊員達がテントを張る中、宮元は一人ぽつりと大きな木に荷物を置いてその幹にもたれかかっていた。不審に思った隊員が声をかけると、「暑いからテントは張らずにここで寝る」と宣言した。その宣言を聞いた他の隊員たちが慌てて宮元を囲み始め、テントの設営を必死に薦めた。長身の男達に囲まれて恐怖を抱いたのだろう、宮元は渋々先輩隊員たちに従った。 そして、深夜。宮元が寝た事が確認され、特殊部隊恒例新隊員歓迎行事が幕を開けた。 「出たぞ!」「うわあ!」 わざと焦った声を出し、草束をクマのダミーとして宮元のテントの中に投げ込んだ。実行犯は数人で、他の隊員たちは外で様子を見守る。もちろん、「クマ殺し」の堂上夫妻も含まれている。 通常ならば、ここで悲鳴があがる。しかし、今回は何も聞こえなかった。 そのまま一分経過。さすがに不自然だ。防衛員は深夜に叩き起こされてもおかしくないのだから、緊急事態と聞いて起きないわけが無い、というのがその根拠だ。 「私、ちょっと見てみます」郁が手を挙げて、宮元のテントに入ると-------- そこにいたのは怯えている宮元でも、驚いている宮元でもなかった。宮元、熟睡。静かに寝息を立てている宮元の横に、草束があった。郁はほっと息をついて草束を腕に抱えた。 草束を抱えた郁がテントを出ると、隊員たちが郁に詰め寄ってきた。詰め寄っていた全員が宮元の状況を尋ねてくる。 「熟睡、ですよ」 にっこりと笑う郁に、詰め寄った隊員たちは重い溜息をついた。重い溜息をつかなかったのは堂上班の四人のみ。堂上はふっと笑い、手塚は目を丸くし、小牧は笑いを噛み殺していた。 ***** 「宮元、さすがに笠原と同じようにはいかなかったのね!」 「ちょっと、柴崎!何で宮元があたしと同じことすると思ってんの!」 集中訓練翌日。郁は柴崎を誘って外で昼食を取っていた。 柴崎は今、手塚と結婚して手塚姓になっている。郁が旧姓で呼んでいるのは、柴崎と合わせるためだ。 「まあ、それであたし達は宮元のこと、簡単な字のほうの『りゅう』で『竜殺し宮元』って呼んでるんだけど」 クマドッキリ不発事件が発生した後、堂上班の四人は「玄田隊長の企みを天然で阻止できる可能性がある人物」として玄田の名前である竜介をかけて「竜殺し」と呼んでいる。音を聞いただけでは違いは分からないので、誰も気づいていない。これからも誰かが話さない限り気づかれないだろう。 「隊長の名前をかけて『竜殺し』、ね。やるわね、堂上班。これから宮元はどんな『竜殺し』をみせてくれるのかしら。あんたや光から話を聞くのが楽しみだわ」 「阻止した後にビクビクするのが玉に瑕だけど」 「どういうこと?」 柴崎が首をかしげる。 「クマドッキリが不発になった次の朝のことなんだけど。笑顔で挨拶してきた宮元見て、先輩達は溜息ついちゃったのよ。それ聞いた宮元は、『申し訳ございません!宮元良、タスクフォースの緊急事態時にも関わらず呑気に寝ておりました!』って叫んで頭下げたの。しばらくして小牧教官が爆笑したのは当然なんだけど」 「宮元察しが良いわねー、溜息だけでそれ気づくなんて。あ、ちなみにドッキリだったこと宮元は・・・」 「知らないわよ。成功しなかったから先輩達、言うタイミング逃してたし。気づいてないんなら言わなくていいかって話にもなって」 柴崎はどうした方がいいと思う、と質問をかけると意外な答えが返ってきた。 「言っといた方がいいわよ。次に新隊員が入ってきた時に初めて知る、なんて可愛そうじゃない」 「可愛そう、なんて柴崎にしては珍しい」 「まあ、明日にでも分かると思うけどね。特殊部隊だったらすぐに『クマ殺し堂上夫妻』のこと宮元に教えそうだし」 あ、と郁が小さく叫んだ。自分と堂上には汚名が未だについて回っている。それを仲間達にしゃべらせたら、と想像して青ざめた。 「やばい!あたしから話さないと!」 「頑張れー、笠原」 慌てて携帯を取り出して電話帳を操作する郁を見て柴崎が口角を上げる。 「あーっ!宮元の連絡先知らないんだった!」 「あらあら」 焦る郁を見て柴崎は楽しそうに笑っていた。 |
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