桜涙 プロローグ |
作者: 莉音菜 2012年07月28日(土) 17時47分14秒公開 ID:MMjl3LvuGcU |
彼との出逢いは偶然か、又は必然だったのか。 未だに、それは解らない。 でも、一つだけ、はっきりと解るのはただ。 彼と出逢えて、幸せだった、という事だけだ。 それだけは、断言出来る。 これは、私と彼の、不思議な出逢いの物語・・・。 はらり、ひらり、と校舎裏の桜の木から花びらが舞い落ちた。 今年ももうすぐ終わりを告げようとしている。 放課後の教室。 夕陽が射し込んで来る窓際の席に腰掛けながら、私―雪野咲良はぼんやりとその様を眺めていた。 教室には自分一人しか居らず、しんと静まり返っている。 (そろそろ、帰ろうかな) 重い腰をゆっくりと上げる。 ふと校舎裏の桜に再び視線を凝らすと、何となく違和感を感じた。 何かは解らない。 けど、何かが確かに自分を呼んでいる。 そんな予感。 教室の時計に目を向けると、5時を少し過ぎた頃だった。 まだ家の門限までには余裕が有る。 「・・・たまには、桜を見るのも悪くはない、かな」 他に誰もいない教室で一人そう呟くと、私は鞄片手に颯爽と教室を飛び出した。 そうして向かった先は勿論校舎裏の桜の木の前だ。 樹齢100年は超えるであろう、その大木は、妙な威圧感を感じる。 私はゆっくりと目を瞑った。 ―その刹那。 大量の桜の花びらが、辺りに舞い上がったのだ。 花びら1枚1枚が夕陽にきらきらと反射して、とても幻想的で。 それはそれは美しい光景だった。 そして、次の瞬間には、辺りは眩い光に包まれていた。 余りの眩しさに、私はもう一度強く目を瞑った。 ―・・・どれくらい、時が経った頃かは解らない。 気がつくと、辺りがしんと静まり返っていた。 私は恐る恐る目を開く。 すると、先程まで誰も居なかったはずの私の丁度向かい側に、一人の青年が立っていた。 年の頃は20代前半位だろうか? この世の者とは思えない程整った顔立ち。 漆黒の美しい髪。 そして、どこか寂しげな、でも強い意志を感じる瞳がとても印象的な男性だった。 私はまじまじと思わず息をするのすら忘れる程に彼を見詰めていた。 すると、彼はゆっくりと私の方へと近付いてきた。 そして、私に信じられない言葉を投げかけたのである。 「貴方は、私の事が見えるのですね?」 ―この彼との出逢いが。 後に私の運命を大きく変えることになるだなんて・・・。 その時私は、少しも思ってなんかいなかったのだった。 |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |